原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

パーコン

2007年10月04日 | 仕事・就職
 「パーコン」って懐かしい言葉なのですが、皆さん覚えていらっしゃいますか?
えっ?「パーソナルコンピューター」ですって?? 確かにそれも「パーコン」ですが、今回私がテーマに掲げたのは「パーティコンパニオン」の方です。 この言葉の語源はおそらく1970年の大阪万博の「コンパニオン」に由来するものと思われます。 大阪万博以来、この「コンパニオン」という言葉が多方面で濫用されたようですね、銀座のホステスから巷のイベントスタッフに至るまで幅広く…。女性がコスチュームを着て女性であることをアピールしながら媚を売る仕事の総称として、この「コンパニオン」という言葉は一世を風靡した模様です。バブル期に入ると「パーティコンパニオン」が引く手あまたとなりました。時代が流れ今や死語と化しており、若い世代の方々は誰もご存じないものと思われ私など少々寂しく感じるのですが…。

 何を隠そう、私もこの「パーコン(パーティコンパニオン)」にチャレンジしたことがあるのだ。
 私は30歳を過ぎた頃、自らの意思で再び学生となった。大学院修了までの6年間独り身で学業に励んだのであるが、自力で生計を立てつつ学業に没頭するためには、手っ取り早く稼げる仕事を選択するのが一番の方策であった。 民間企業勤務中に既に購入していた分譲マンションの住宅ローンもまだほとんど未返済であった。 学校の長期休暇にはそれまでの自分の専門の医学分野の人材派遣で集中的に稼ぎ、普段平日には家庭教師をし、土日祝日にはワープロのデモンストレーター等単発の仕事で収入を得、そしてその合間に「パーコン」にもチャレンジし…、とにかくがむしゃらに稼ぎまくった。

 今から20年ほど前、すなわちまさにバブル期の話であるが、その頃「パーコン」は既に女子大生のアルバイトのひとつとしてそう珍しくもなかった。ただ、国公立の学生の間ではまだポピュラーではなかったようである。(ちなみに、私は幼稚園から大学院まで私立には一度も通ったことはない。私立の教員はしたことがあるが。)
 私はごく一部の親しい友人以外には極秘で、この「パーコン」に挑んでいた。
 ある日の授業で、何を思ったのか担当講師が唐突に「パーコン」の話をし始めるではないか。「私立女子学生の中にはパーティコンパニオンなどどいういかがわしいアルバイトをしている不届き者がいるらしい。まさか、本学ではそんな浅はかな学生はいないと思うが、いったい今時の女子学生は何を考えているのやら嘆かわしい…。」という趣旨の話を始めるのだ。私は一瞬冷や汗ものではあった。が、黙って聞いていると話はどんどんエスカレートする。「芸者には一応芸があるが、パーコンには芸も脳もない。馬鹿でもできるからと言って何も考えずにあんな事を続けていると堕落の一途だ。くれぐれも皆さんは安易なアルバイトをして堕落しないように、云々…。」 (おいおい、ちょっと待てよ、パーコンの内情も知らないでそりゃいくらなんでも言い過ぎだろ。だいたい、大学の講師たる者がこんな職業差別発言をしていいのかよ。あんたさあ、よっぽど質の悪いパーコンにしかお世話になっていないんじゃないの?) 私の場合、学生とはいえ30過ぎていて既に社会経験を積んでいるし、自活のためにやっているし、学業成績も優秀で表向きは模範的な学生であるし、文句言われる筋合いはないさ…。と気を持ち直しはしたものの、この講師の世間知らずぶりに私は呆れるばかりであった。

 私も30歳代で学生などしたお陰で、様々な仕事にチャレンジできいろいろな世界に足を突っ込めた訳であるが、楽で安易な仕事など何一つない。その中でも「パーコン」はとても厳しい仕事のひとつと記憶している。
 パーコンには事前研修もあるようだが、私は学生であったためか研修を経ずいきなり本番の仕事に臨んだ。私の場合、赤坂、六本木周辺のホテルでの仕事が多かった。実働はほぼ2時間であるが、事前準備に時間がかかる。まずは、バンケット会社(パーコンの派遣会社)の直営美容室で髪を結う。そしてバンケット会社で衣裳を受け取り、現地へ向かう。現地で着替えの後、グループリーダーの化粧やヘアスタイル、衣裳の着方等全身に及ぶ厳しいチェックがあるのだ。それを通過すると、いよいよ本番だ。まずは全員でお客様を出迎えるため、会場入り口に一列に整列する。(パーコンは見た目が良いようにグループごとに身長をそろえるらしい。)その後会場でのサービスが始まる。
 確かに「パーコン」には技や芸は要求されない。 要求されるのは“華”“気品”そして“おもてなしの心”(NHKの「どんど晴れ」のようだが)である。 むしろ、これらは技や芸より大変なことなのだ。どんなに疲れていても顔を塗りたくり、さっそうと姿勢を正し、笑顔でいなくてはならない。 “おもてなし”という仕事は、場を読み、相手の心のうちを察っする細やかな心配りが要求される。報酬の高い仕事であったが、その報酬に見合った能力や資質が必要とされる仕事なのだ。
 何事も実際に経験した者でなければその内情はわからない。安易に人の職業を見下すのはやめましょうね、講師の先生。

 とにもかくにも、「パーコン」は私の貴重な試行錯誤の一ページである。