水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<43>

2015年05月26日 00時00分00秒 | #小説

 みぃ~ちゃんf言わずと知れた食通である。いつぞや小鳩(おばと)婦人が映画のロケ弁で苦情を漏(も)らしたように、みぃ~ちゃんには一種独特の食文化があった。彼女は猫ながら、気に入らない食物には見向きもしなかった。だが、小次郎が口に加えて持ってきた鰻(うなぎ)の蒲焼の折り詰めを神社の境内へ置いたとき、彼女の心はジィ~~ンとした。鰻の蒲焼より小次郎の心に絆(ほだ)されたのだ。早い話、小次郎にぞっこん! となったである。もっと早い話、小次郎にグッ! ときた…これでも分かりにくいが、すっかり惚(ほ)れ込んだ・・と言えばいいだろう。
『ありがと…』
 いつもなら言う、そんな下世話なものは食べないわ・・とは言わず、みぃ~ちゃんは嬉(うれ)しそうに受け取った。
 拝殿の前で二匹は腰を下ろして身を正した。いつやらも言ったと思うが、身を正すといえば、人間の場合は背筋を伸(の)ばした直立不動の姿勢だが、みぃ~ちゃんや小次郎達、猫の場合は、腰を下ろした姿勢で斜(はす)に構え、尻尾をグルリと身に巻いて背筋を伸ばす・・となる。その姿勢で軽く頭を下げた二人ならぬ二匹は、腰を上げて鈴緒(すずお)の下を同時にセ~ノ! で押した。サッカーでいうヘディングで合わせる格好である。すると、ほんの僅(わず)かだが鈴がガラガラと鈍(にぶ)い音で小さく鳴った。二匹はふたたび腰を下ろして身を正すと、尻尾を小さく振って頭を下げた。これらの所作を総合すれば、人が神社前で二礼二柏手のあと合掌(がっしょう)して一礼をする所作となる。


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