水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <48>

2024年08月05日 00時00分00秒 | #小説

 そのとき、一人の刑事が挙手をしながらスクッ! と立ち上がった。
「ちょっと、質問がありますっ!」
「はいっ!」
「本部の解散はいいんですが、それなら我々は今まで何を捜査していたのか、ということになりますが…」
「いや、捜査本部を置いたときは事件性があったということです…」
 手羽崎管理官は流暢(りゅうちょう)に弁明した。
「他には…」
 庭取副署長が同じ刑事の追加質問を止め、手羽崎をフォローした。刑事達は口橋、鴫田を一喝した庭取だったからそれ以上は質問せず、口を噤(つぐ)んだ。
「無いようでしたら、これで解散します…」
 鳩村が、やれやれこれで…と安息の息を吐いた。
「あの…分化本部の方も、ですか?」
 口橋が挙手せず立ち上がるや、やや大きめの声で訊ねた。鳩村はホッ! とした矢先だったからギクリ! としながら口橋を見据えた。口橋と鴫田が座る席はいつも後方だったから、鳩村は目を細めながら口橋の姿を確認した。それを察したのか、手羽崎が口を開いた。
「当然、そうなります。ただ、公安からの申し出が署長にあったそうですので、署長から状況説明があると思いますが…」
 手羽崎が答弁を催促するように鳩村の顔を窺った。
「ああ、はい…。霊安室から消えたミイラという考えられない疑問と、消える前のミイラから発見されたウイルス性の物質の二点から、公安は継続捜査をするということのようです」
「こちらは解散なんですね?」
「ええ、まあ…」
 覇気つかぬ顔で鳩村が小声で返した。


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