水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<8>

2015年04月21日 00時00分00秒 | #小説

「私(あたくし)も小次郎君の来訪に心しますわ」
「まあ、猫同士のことですから、邸宅へ入れさえすれば、なんとかするとは思いますが…」
「一応、婚約ということで…。改めて式の日時につきましては、お電話を差し上げますわ。この番号で、よろしかったかしら?」
 小鳩(おばと)婦人は古めかしい携帯を里山の前へ示した。レトロだな…と里山には見えた携帯画面に、里山の携帯番号が映っていた。小鳩婦人には少し不釣り合いな感がしないでもなかったが、里山は思うに留(とど)めた。
「はい、それで結構でございます…」
「古めかしゅうござぁ~ましょ? どうも、使い勝手がよろしゅうざぁ~ますの、ほほほ…」
 小鳩婦人は、また手持ちのダイヤモンドが散りばめられた扇(おうぎ)で口元を隠し、高貴に笑った。どうも、この手のご婦人は苦手(にがて)な里山だったから、ここは言わせておいて従うことにした。
 世の中には仕事に燃える男もいるものだ。小次郎とみぃ~ちゃんの一部始終を調べ尽くしたその記者の男は、週刊誌にその記事をスッパ抜いた。その男が、どこでどうして二匹の経緯(いきさつ)を知ったのか? が、里山には不思議だった。業界人にはよくあることだが、二匹は猫なのだから分かるはずがないのだ。小鳩婦人と里山のスキャンダラスな記事ならともかく、みぃ~ちゃんと小次郎の仲は詮索(せんさく)しようがない。そう考えれば、里山は自分の行動を近くで見られているような気がしてきた。婦人との話し合いを聞かれていた・・という以外には考えられないのだった。


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« コメディー連載小説 里山家... | トップ | コメディー連載小説 里山家... »
最新の画像もっと見る

#小説」カテゴリの最新記事