水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思いようユーモア短編集 (73)大掃除

2021年01月13日 00時00分00秒 | #小説
 年末ともなれば、決まりごとのようにどこの職場やご家庭でも大掃除が行われるようになる。ものは思いようで、少しづつ数か月前からやれば、取り分けて年末に大掃除をする必要に追われることはないのだ。^^ ところが、どういう訳か、人々は年末に大掃除をしたがる。^^ 思うに、どうもしたくてしている訳でもなさそうなのだが、しないと年を越せない…という潜在意識が深層心理として脳内に潜(ひそ)んでいるのでは? と私には思える。^^
 とある町にある公園の一角である。市営公園ということもあり、選抜された市の課員が年末の大掃除をやっている。毎年、同じ課の中から数人、選抜されているようだ。
「田所さん、この辺りで昼にしますか?」
 同じ課員の畑川が、他の課員達が手を止めたのを見て、田所に声をかけた。
「ですねっ! おっ! もうこんな時間か…」
 声をかけられた田所は、手を止め、思わず腕を見た。十二時少し前だった。
「毎年、この月初めになると大掃除ですが、公園清掃は普段からでもできる訳ですよねっ!」
「ええまあ…。慣例行事的なところがありますから…」
「どうもこの時期になりますと、選抜されないか? とビクつきます」
「確かに…。ビクついて、今年のように選抜されてりゃ世話ないですがっ!」
「言えますっ! しかし、今年すりゃ、数年は大丈夫・・という安心感もありますよ」
「はあまあ、それはそうです。ははは…公園を大掃除する前に制度を大掃除する必要がありそうですね」
「日本人は慣例に弱いですから…」
「まあ、毎年と同じように当たり障(さわ)りなくやってりゃ、地位が安全というお偉方の潜在意識があるからでしょう」
「言えます‥。国の公債発行と似てますねっ!」
「債務が木(こ)の葉のようにどんどん地面に溜(た)まっていく」
「木(き)の葉のうちに何とかすりゃいいのに…」
「個々のお偉方には、それが分かってんじゃないですかっ? でも、お偉方達には分かっていない! いや、分かっていても、どうにも出来ないっ!」
「矛盾(むじゅん)してますっ! ははは…この矛盾を大掃除する必要がありそうですね」
「ですね…」
 同じ職員達とともに二人は水道で手を洗うと、ベンチに腰かけて昼食を食べ始めた。師走にしては暖かい日射しが選抜された課員達や二人を包んでいた。
 大掃除は物だけではなく、人の思いようにも必要! と言えるようである。^^
 
                      

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