ウィトラのつぶやき

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労働規制改革議論は安倍総理の勘違い?

2014-04-23 08:30:08 | 社会

安倍総理が産業競争力会議と経済財政諮問会議からの提案を受けて労働規制の見直しを指示した。マスコミは「残業代がなくなる」と大きく報道している。このニュースを聞いて私は「安倍総理は分かっていないな」と感じた。

話題になっているのはホワイトカラー・エグゼンプションという制度で社員の給与を労働時間ではなく業務内容で決め、給与水準を上げる代わりに残業代を支払わないというものである。この制度はずいぶん前からある。一般的に管理職はこのような給与体系になっていて残業代は支払われない。組合員には残業代が支払われるのだが、ずいぶん前に「裁量労働制度」というのが導入されて時間で成果を計測することがなじまない一部の職種では組合員でも残業代を廃止するという制度である。私がいた研究所などもその適用を受けた。その代わりフレックスタイムと言って出勤時間なども自由に決められるようになっていた。ただし、この制度を使える職種はかなり限定されていたので、この範囲を拡大しようというのが今回の趣旨だと思う。

テレビの安倍総理の発言を聞くと「女性などが働きやすくするために長時間労働で成果を出すのではなく、効率良い労働を促したい」としている。これでは総理の意図と行動は大きく乖離している。

残業を減らしたいのであれば残業代をなくすのではなく、残業代を高くするべきである。例えば残業時間の給与単価は通常業務時間の最低2倍にする、というようなルールを決めれば、企業は残業を減らすために躍起になるだろう。逆にホワイトカラー・エグゼンプションを実施すれば表面上は残業がなくなったように見えるが、実態としては残業が増え事態は悪化するだろう。なぜなら残業代を支払われない社員はできるだけ多く働いてもらうほうが企業にとって得だからである。

残業の本来の趣旨は企業が従業員に命令してやるものである。好景気の時の工場の24時間稼働などはその典型である。しかし、ホワイトカラーの一部には何となく残業している人が少なくなく、そのために残業するのが当たり前のような職場の雰囲気ができているところがたくさんあるのも事実である。全体の2割くらいはありそうだと思う。これを改善するために残業代をなくすというのは本筋ではなく、企業のほうで社員が残業しないように持っていくような制度設計をするのが本筋だと思う。

それでは私が、残業代を上げることに賛成かと言えば、それも反対である。先進国の国際水準に合わせておくべきだと思う。残業代を上げることは人件費を上げるので産業競争力を弱めると思っている。最低賃金を上げることなどにも反対である。従ってホワイトカラー・エグゼンプション自体には賛成である。ただし、それが労働時間短縮にはつながらず、むしろ「隠れ残業」が増えることになるということを意識しておかなくてはならない。

隠れ残業を防ぐためにあれこれと細かいルールを作ることも規制緩和に逆行するので反対である。本来の精神、「社員が仕事を強制されるのではなく、生き生きと働いて会社に貢献すると同時に自らの能力向上をめざして自分の生活実態に合わせる業務を行う」といった趣旨を明確にしておき、違反する企業に対しては巨額の賠償金と罰金を科す、というようなルールを決めておくのが良いのではないかと思っている。そのための紛争受付窓口を用意する。会社から押しつけられた残業で100万円の残業代が支払われなかったら賠償金として1000万円払う、というような仕組みにしておいて裁判の弁護士費用も出せるし、弁護士も頑張る、というような仕組みが良いのではないかと思う。

何が違反かは判例が決める、というアメリカ式のやり方は日本にはなじまないのかもしれないが、今のところ私にはこれより良い方法は思いつかない。



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1 コメント

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残業のあり方 (世田谷の一隅)
2014-04-23 15:29:42
職種によって、業務量が平準化できるかどうかのポイントに見えます。

私自身は残業をあまり強く嫌がりませんが、西洋の連中は、「割増を貰っても嫌だ」との意識が強いです。割増をもらって頑張りたいと思っている人には、それなりの業務があってもいいと思います(納得づくですから)。

西洋風に、割増を貰っても嫌がる人には、一定以上は強制できません。それを強制できる制度があったとしても、社員が離職してしまうような環境作りのほうが望ましいと思います。(国内の労働規制は、健康の為、とか精神衛生とかの大義をつけて、官僚による監督、統制を狙うので、却って官僚肥りの重い構造になってしまいます)

つまり、残業したい人には、それなりの対価、したくない人にはそれに応じた対価が用意されればいいのではないかと思います。構造的に残業が多い職種の場合は、それを受け入れる人だけが就けばいいのだと思います。

職種によっては先の見通しが立ちにくく、突発的な業務の変動が予想されるような職場では、それを受け入れるような人と賃金体系が揃うことが条件です。どうしても業務量の変動が大きくかつ見通せない職種もあると思います。

何としてもなくさなければならないのは「サービス残業」です。これはウィトラさんが言うとおり、金銭的にも社会的にも大きなペナルティを科すことでうんと減らすことができると思います。
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