ウィトラのつぶやき

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囲碁文化を育てた徳川幕府

2017-04-08 08:04:08 | 囲碁

トランプ大統領がシリア政府軍を攻撃した。私はこの行為を肯定的に捉えているが、不十分な情報でコメントすることは差し控えて、今日の本題の囲碁の話にしたい。

 最近、日本、中国、韓国の囲碁トッププロと日本の人工知能Deep Zen Goを含めた4者の大会が行われた。日本の参加者は日本の囲碁プロで圧倒的強さを示している井山6冠だったが、優勝は韓国、2位中国、3位人口知能で、日本の井山氏は全敗、という結果だった。Googleのアルファ碁には世界の誰も勝てない、というのは明らかになっていたが、日本の人工知能であるDeep Zen Goにも井山6冠でも勝てなかった。半年前にDeep Zen Goは過去の名人趙治勲と戦って負けているが、この時と比べて明らかに強くなっていた。中国、韓国の棋士はDeep Zen Goには勝ったのだがそれもぎりぎりの勝ち方だった。

40年数年前、私が大学の囲碁部で本格的に囲碁を始めた頃は日本が圧倒的に強かった。しかし、韓国に抜かれ、中国に抜かれ、最近では人工知能にも抜かれている。しかし今日は日本のプロが世界に通用しなかったことを嘆くのではなく、囲碁がここまで国際的に楽しまれるゲームとして発展したのは徳川幕府の影響が大きかったことを指摘したいと思う。

囲碁はおそらく2000年くらい前に中国で発明され、朝鮮半島を経て日本に伝わってきた。平安時代の紫式部や清少納言が囲碁をたしなんでいたことは知られているが、プロとして囲碁で生計を立てるような人は居なかった。プロ棋士が成立したのが江戸時代である。

徳川家康が囲碁が好きで、本因坊算砂を重用したのが囲碁のプロ棋士の始まりと言われているが、続く秀忠、家光も囲碁が好きで、三代将軍家光の時代に江戸城で将軍の前で家元の代表同士が囲碁を打つ、「お城碁」が定例化されて、4家の家元をベースとした囲碁のプロという職業が確立されたと言えるだろう。

囲碁は日常生活に役に立つわけでは無い芸能の一種なので、プロが生活できるためには「旦那」と呼ばれるスポンサーが不可欠である。しかし、スポンサーを得るのは容易ではない。囲碁は落語や歌舞伎のような芸能と違って素人が見て面白いものではなく、囲碁の面白さを理解するには見るほうにもそれなりのトレーニングが必要である。歴代の徳川の将軍が、囲碁を鑑賞できるレベルにまで勉強したからこそ、「お城碁」という制度が確立されたのだと思っている。そして囲碁の技術は江戸時代に長足の進歩を遂げ、中国や韓国を圧倒した。プロとして囲碁で生計を立てることができる仕組みがあれば発展するのは当然と言える。

囲碁はゲームとして良くできているので民間にも楽しむ人は少なからずいる。トッププロ同士の対戦経過が公開されるにつれ、それを「すごい」と感じる人が増えてきて囲碁のすそ野が広がり、民間にも「旦那」になる人が出てきた。徳川幕府が倒れて明治時代に入るとスポンサーであった徳川幕府が無くなり、プロ棋士たちは生活に困る状況が続く。この時期を支えたのは一部の民間の「旦那」達だった。棋士たちは独自の団体を作ったり、徳川時代の家元の元に集まったりして、組織的なプロ棋士育成システムはうまく機能しない時代が続く。次第に情報産業として確立されてきた新聞社をスポンサーとして頼るようになり、大正時代に「日本棋院」が設立される。だが一枚岩ではなく、「棋正社」や「関西棋院」などが分離して独立した。「棋正社」は事実上消滅したが「関西棋院」はいまでも多くの棋士を抱えている。現在は「日本棋院」も「関西棋院」も現在は「公益財団法人」になっているが、腫瘍スポンサーは新聞社で、政府から援助資金が出ているのかどうかは分からない。

最近は新聞社の経営は悪化してきており、インターネットの企業がスポンサーをする場合も増えてた。先日の日本、中国、韓国に人工知能を加えたワールド碁の対戦もDeep Zen Goを開発したドワンゴが動いてスポンサーを集めた。今後、囲碁のスポンサーは新聞社からインターネットを含めた広い意味でのメディア企業に移行していくのだろうが、「文化」と捉えて政府の援助があっても良さそうに思う。

囲碁のように一見とっつきにくいが奥の深いゲームをサポートし、文化として育てた初期の徳川幕府将軍の見識は「和算」という独特の数学を発展させたことと合わせて高く評価するべきことだと思う。


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