ウィトラのつぶやき

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和製AI囲碁、元名人に1勝2敗

2016-11-24 07:25:50 | 囲碁

日本製のDeepZenGoが趙治勲元名人と対局し、ハンデなしの3番勝負で1勝2敗だった。私は昨日行われた第3局をニコニコ動画で見たのだが、非常に面白い中継番組だった。

DeepZenGoの実力は今年3月のに韓国のイ・セドル九段に勝ったGoogleのアルファ碁と比べるとまだ弱いと感じた。人間側の趙治勲名誉名人はまだ現役のプロ棋士として対局しているが、タイトル戦の挑戦者にまでは出てこられず、その一歩手前のところで負けるくらいの実力で、イ・セドル九段にはなかなか勝てないだろう。現在のDeepZenGoとアルファ碁が戦えば半年前のアルファ碁に対しても10回に1回勝てるかどうか、というレベルだと思う。

しかし、ニコニコ動画の中継は非常に面白く、番組としては大変良かったと思う。ニコニコ動画を配信しているドワンゴがDeepZenGoの開発に関与しているので、読み筋や形勢判断を一部公開しており、DeepZenGoがどのような考え方になっているかをうかがい知ることができたからである。中継は解説井山裕太6冠、吉原由香里女流棋士(ゆかり先生)が聴き手という囲碁界としては最高のキャストで行われ理解を助けてくれた。二人ともプロ棋士であるが、更に囲碁が強いAI技術者が加わっていたらもっと面白かったと思う。

序盤のDeepZenGoは強い。アルファ碁と互角だと思う。アルファ碁は「人間の目から見ると疑問」、と思えるような手をいくつか打っており、それが後になって悪くはなかった、という感じになってその後の人間のプロ棋士の研究材料になっているのだが、DeepZenGoにはそのような手はなかった。人間の名人(井山6冠)から見ても妥当と思える手が続いており、趙治勲相手にも互角以上の戦いをしている。トッププロと互角とみてよいだろう。互角以上かもしれない。

しかし、中盤になると弱点が見えてくる。石数が増えてくると、部分的な形ではなく全局的な判断が必要になる。どこから仕掛けて局面を動かすか、といったあたりの判断は、低段者であっても殆どのプロ棋士のほうが上だろうと思う。部分の読みはしっかりしているのでアマチュアよりも強いので大きく崩れることは無いが徐々に損をする感じである。3局とも途中で投了で終わったので終盤の強さはよくわからないが、プロ棋士と互角以上に強いだろうと思う。このようなアンバランスが分かってくると、人間のほうが勝ちやすくなるので、今回は趙治勲の2勝1敗だったが、10番勝負を行なえば趙治勲の8勝2敗くらいになるだろうと思う。

アルファ碁はあまり人間の囲碁に対する知見を入れずに、コンピュータの学習によって強くなったのでプロ棋士にとっても新しい発見があるような手を打つが、DeepZenGoは人間の囲碁の知識がDeep Learningにかなり取り込まれており、そのおかげで人間には分かりやすいが驚きも少ないという打ち方になっている感じがしている。

面白かったのは形勢判断で、形勢判断の仕方は人間と大きく異なっている。人間は「ここは白地」、「ここは黒地」というようにはぼ分かる点をカウントし、はっきりしない個所は勘でカウントしているのだが、DeepZenGoは盤面全体をそれぞれ「黒の確立80%」というように確率付けして、その合計をカウントしている。DeepZenGoはかなり自分が有利なようにバイアスがかかった形勢判断をしている。これはおそらくプログラマーが意識的にバイアスをかけているのだろうと思う。

これは「自分が不利」と判断したときの考え方が整理できていないからだろうと私は想像している。人間ならば不利な時にも負けの数が最も少なくなるようにする場合と、逆転を狙って、大きな勝負に出る場合とを組み合わせて考えるのだが、まだこの逆転を狙う考え方がプロクラムとして出来上がっておらず、人間の目から見ると全然つまらない手を「逆転を狙って」打つことが多く、かえって損をする。この点はアルファ碁でも同じだったので、今後の大きな課題だと思う。

解説の井山6冠と聴き手のゆかり先生は非常に良いコンビで、手の読みもしっかり解説してくれたし、DeepZenGoの機能も適切に紹介されていた。井山6冠に対する適度の突っ込みも感じが良く、ゆかり先生の頭の良さを改めて感じさせられた番組だった。

しかし、産業としての人工知能の活用を考えるときには、日本の人工知能のレベルはまだまだGoogleとはかなりの差があると感じさせられた。


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