ウィトラのつぶやき

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囲碁AIプログラムが教えてくれること

2018-10-14 07:39:17 | 囲碁

現在、囲碁の名人戦挑戦手合いが進行中で、先日第4局目が行われ、井山名人が挑戦者の張栩9段に対して3勝1敗とリードした。この碁の解説を名人戦のスポンサーである朝日新聞のサイトで関西棋院の坂井8段がFacebookのAIの読み筋や判断を加えて解説していたのだが、そのAIの内容が印象的だった。

囲碁のAIプログラムと言えばGoogleのAlpha Goが有名で、おそらく今でも一番強いのだろうが、Googleは読み筋などは公開していない。FacebookのELFという囲碁AIは形勢判断や、読み筋を公開してくれるので解説に使える。日本のDeep Zenなども同様である。形勢判断は黒から見て勝つ確率をパーセントで表示している。

今回の名人戦第4局に関していうと、序盤の30手くらいで黒番の張栩挑戦者の勝つ確率が80%になった。しかし、1日目の終わりの頃には50%くらいに戻していた。2日目に入って午前中に張栩挑戦者が失敗して井山名人が80%以上有利になり、90%を超えるところまで確率は上がっていった。どちらが有利かという判断は人間のプロ棋士の判断もだいたい一致しているのだが、人間はなかなか80%有利と言った判断はしない。坂井8段によると1目損をすると10%確率が変化する、ということで、70%くらいといっても2目差、というレベルだそうである。私はアマチュア高段者のレベルであるが、序盤の2目差は全く判断できず、自分なら好みの判断が優先しそうである。プロの坂井8段でも「ELFの判断を全面的に信用しているわけでは無いので70%くらいまではあまり気にしない」と言っていた。それよりも確率がある一手を境に大きく変化することがあり、そのような場合には「この手は悪いのではないか」と考えて自分でも深く検討するようにしているそうである。

ELFは次の1手のお勧めの手を出しており、それはなかなか正確である。坂井8段もそう言っているし、今回の名人戦で控室で検討していたプロたちの意見も一致していた。ある局面で、控室の棋士が気づかなかったうまい手を井山名人が打った時に「さすが井山」という声が上がったそうである。朝日の記者が「今は名人がコンピュータと同じ手を打つと「さすが」と言われるのですね」と言っていた。

ELFは読み筋も公開している。次の1手のお勧めの手をまず示し、その時の勝つ確率を表示する。私はネット放送で画面を見ていただけなのだが、読みの進め方としては、一手目に対する相手の手、その次の自分の手、と次々と読んで行って、数10手先まで読んでいるようである。そのたびに確率は微妙に変化する。二手目、三手目も適当に選んでいるのではなく、良さそうな手から選んでいる点が優秀である。ある程度まで行ったところで、2番目のお勧めの手に関して同じようなことをする、というやり方に見えた。最優先のお勧めは前の段階で読んでいたものなのでそう大きく外れることはない。これは人間の読み方と非常によく似ており、読みを進めるエンジンはコンピュータのほうがはるかに強力なので、人間は勝てないということになる。GoolgeのAlpha Goも同じようなアルゴリズムなのだろうか? 私は少し違うような気がしていて大変興味を持っている。

坂井8段はELFには殆ど勝てず、「師匠」として研究用に使っているそうである。このような状況で10年後、20年後もプロ棋士という職業は続くのだろうか? 気になるところである。

ELFはOpen Sourceで自分でプログラムを書き換えることもできるそうである。単に囲碁を強くするだけでなく、AIの考え方を人間に解説する、という観点で今後、研究が進むことを期待している。


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