今読んでいるThe Economistの特集記事に「The Future of Jobs」というのがある。Jobsはアップルのジョブズではなく「仕事」のことである。リーマンショック以降、世界経済の不安定な状態が続いていて、失業率は高止まりしている。アメリカは一時失業率が改善したように見えたが、実は仕事を持っている人の総数は増えておらず、仕事を探す人が減った、つまり職業安定所に通う人が減ったということだったので、しばらくしたらまた失業率は増加してきたともことである。
ヨーロッパでも失業率は10%程度で、特に悪いスペインでは失業率20%、若者の失業率は40%だそうである。良くこれで暴動が起きないものだと思う。この特集のポイントは、これは景気が悪いから起こったことではなく社会の変化の本質が、景気が悪くなったので顕在化したのだ、という点にある。
具体的に言うと、先進国のホワイトカラーの需要がどんどん下がっている。特にホワイトカラーで、定型的業務をやっている人はどんどん仕事を失っている、という話である。アメリカではこの種の失業には2パタンあって、一つはコンピュータに置き換えられるもの、もう一つはインドにアウトソースされるものである。コンピュータに置き換えることはできなくても、オンラインで仕事をする「Labor as a Service」が進行しているとしている。
確かにこういった傾向はあるだろう。これは英語圏であるアメリカやイギリスでまず進行してそれから次第に他の国に波及していくのだろう。クラウドの進展と同様にもはや止められない流れだろうと思う。日本では日本語の壁があるので、浸透には無借り長い時間がかかると思われる。言い換えると、日本の企業はそれだけコスト高の状態が続くことであり、アメリカ企業との競争では苦しい状態が続くだろうと思われる。
それでも、私が会社に入社した時と、今では職場環境は大きく変化している。それは「職場の花」と呼ばれた高卒や短大卒の女子の事務職が激減している点である。多くの会社は採用を止めて、機械化したり、必要な場合には派遣の人を入れたりしている。これが男子を含めたホワイトカラーに波及して、20年も経てば企業からホワイトカラーの人数は激減するのではないかと思う。
アメリカ政府は既にこのことを認識している。その表れが以前紹介したFCCのNational Broadband Planにある、「ブロードバンドは今は使って便利なツールだが10年後には使えない人は著しく不利になる社会インフラになる」というくだりである。そう考えて、国民全員がブロードバンドを使いこなせるようにする取り組みを始めている。日本は派遣禁止を政府が言い出したりして、失業者を出さないように企業に強制するような方向に向かおうとしている。これでは世界との差は開く一方だろう。
私は大学という教育機関にいて、これからの人材は何を身につけるべきかを考えようと思っている。少なくとも、将来コンピュータに置き換えられるようなスキルを学生に身につけさせるのではなく、最後までコンピュータ化困難なスキルが重要なのだろうと思っている。標準化のディベート能力を高めさせようと思っているのはその一環だが、これから学生と話しあいながら、「今後40年必要とされるのはどんな能力か」を見極めて、その能力を高めさせるように努めていきたいと思っている。日本の教育界はそういった視点での改革が殆どできていないと感じている。
自分の経験でも、学校の授業で、卒業後直接的に役立った科目、思考力等の底力をつけるのに役立った授業、役に立ったのかどうか未だにわからないような(つまり効能が無かった?)授業など、色々あります。まして、学校側、もしくは教授の側でその効果が測定できるような尺度をどのように設定し、適当な時間間隔で見直しながら、充実を図るなどと考えると、これは壮大な構想につながりますね。そういえば、ずいぶん前ですが、何かの記事で現在の大学は「全人教育」は無理なので放棄したと報道されていたことを思い出しました。
いずれにせよ、大学は何らかの機会と情報を提供する場であっても、それをいかにして習得し、身に着けるかの最終の責任は学生自身にあります。学校は、それを提供する教育インフラ、教授陣を正しく評価して学生や社会に開示することでしょう。
ウィトラさんは、まだ学校の一サイクルを経験していないので、是非、その辺りに仕組みも俎上に載せて貰えればと思います。