夏の間に、ある人に手紙を書く予定でいる。
もちろん手書きのつもりだが、普通にボールペンで書こうと思っていた。
というのも、筆記具はボールペンとシャーペンしか持っていないから。
日常の執筆活動(論文、書類)は全てキー入力で、手帳代わりにタブレット愛用なので、メモすら筆記具を使わない。
そしてコミュニケーションもほとんどメールとなっている。
ところが、半沢直樹のドラマを見ていたら、手紙は万年筆で書いたほうがいいような気がしてきた。
ボールペンの字よりも相手にとって丁寧に映ることもあるが(実際それで相手に気持ちが伝わった)、書き手にとっても文字を丁寧に書く楽しさがあると思う。
それに”万年”もつのだから、気に入った物を1本持っていても悪くない。
そういえば万年筆って、中学校に入ると、腕時計とともに揃えたもので、いつも学ランの胸ポケットに差していた。
半沢のドラマでは、森山(賀来賢人)が中学の友人(瀬名:尾上松也)にもらった万年筆を社会人になっても使っているが、私は半世紀前に母に買ってもらったモンブランの万年筆が無くなってから幾久しい(万年もたなかった)。
大学生の頃にはもうボールペン中心になっていた。
もともと悪筆で、字を書くのが嫌いだった(中学校で一番嫌いな授業は「習字」)。
その悪筆を自分では左利きのせいにしていたが、筆跡は性格が反映されるので、利き手よりも性格の問題だろう。
字を書いていると、つい数文字分先の字を書いてしまう。
1文字づつ丁寧に書いていられないのだ。
頭の回転が速いというより、 ADHD傾向なためだ。
でもあまりに字を書かない生活を送ると、たまにはじっくり字を書いてもいいかなと思えてくる。
その折りの手紙と半沢だった。
そういうわけで、銀座の伊東屋に万年筆を買いに行った。
各メーカーのショーケースを見ると、値段は5桁が普通で、6桁に達するのもある。
さすが万年筆。
しかも、客が三々五々やってくる(半沢ドラマの影響ではあるまい)。
別に豪華に化粧したボディでなく、オーソドックスな黒いボディでいいのだが、かえって種類が多くて迷う。
その中でセーラーだけ左利き用があった。
昔使っていたモンブランはとても書き味が良かったが、左手で使ううちペン先が見た目にも歪んでしまった。
その思い出があったので、この左利き用(細字)にした(2万円)。
おまけにつけてくれるインクはブルーブラックにしようと思ったが、半沢ドラマで使われた万年筆が青インクだったことを思い出し、青にした(ここまで影響を受けるか)。
そういえば、どっちつかずのブルーブラックは好きではなかったのだ。
今の万年筆は、カートリッジだけでなく、インク吸入器(コンバーター)を使って、好きな色のインクを使える。
コンバーターは500円ほど。
そのインクの種類がとても多いことを知った。
時間をかけて気に入った色を見つけることにしよう。
そして手で字を書く楽しみを味わいたい。
後日譚
カートリッジを差し込んで、いざ使いはじめたら、インクがボトッと落ち、直径1cmほどのインクの山ができる。
これでは使えない。
カートリッジを確認すると、インクが染み出している。
翌朝、セーラーのサポートに電話をかけると、購入した伊東屋で直してもらった方が早いという(伊東屋には修理コーナーがあるから)。
さっそく伊東屋に行って、診てもらったら、なんとカートリッジを前後逆につけていた(カートリッジに薄く方向が記されていた)。
セーラー製は初めてなので…。
きちんと洗浄してインクを補充してもらった。
せっかくなので、コンバーターで使う「利休茶」のインクを買った(季節や気分によってインクの色を使い分けてみたい)。
帰宅して、数十年ぶりに万年筆で字を書く(書きやすい)。
漢字ばかり次々に書きたいので、般若心経を写経した。