勤務先に近いデパートで九州物産展をやっていた。
それならきっと辛子レンコンがあるに違いないと、会場に立寄り、さんざん歩きまわって、奥の方にその店をやっと見つけて購入した。
またしても辛子レンコンを追い求めてしまった。
昔、九州旅行に行って、熊本で辛子レンコンを土産に買い、家で賞味しようと目論んでいた。
ところが、母がそれを他人にあげてしまい、食べようと思っていた心が阻害されてしまった。
それ以来、東京でほとんど見つからない辛子レンコンを求めて、さ迷い歩いた。
居酒屋に行くと、憑かれたようにメニューから辛子レンコンを探した。
その行動が未だに残っていたわけだ。
これを心理学では「ゼイガルニク効果」という。
中断された行為は心的緊張が解除されないため、心に残りやすいという現象。
これは社会心理学者K.レビンの心的力学理論で説明できる現象(この効果の発見者であるゼイガルニクはレビンの弟子)。
私の行為は、ゼイガルニク効果が想起だけで終らず、より積極的な探索・選択行動にまで強化されることを示している。
すなわち、あるモノを追い求めるのは、真にそれを欲しているからではなく、以前にそれとの接触が未完成に終ったからにすぎないということがあるわけだ。
つまり、単なる心的緊張の残滓にすぎないのだ。
もうひとつ、自身の例をあげると、さらに昔、中学生くらいの時、夢の中でハムカツを食べようと思っていたら、食べる前に夢から醒めてしまった。
現実世界では、私はハムカツなど歯牙にもかけておらず、実際にはメンチを好んでいた。
すなわちハムカツは別に好きでも何でもなく、あえて選択肢には入れなかった。
ところがその夢体験以降、食べ物屋でハムカツを見ると、それを選ばないわけにはいかなくなってしまった。
夢での未完行為を現実世界で幾度も完遂するという強迫行動ができてしまった。
この強迫行動は現在では解除されているが、辛子レンコンの方はまだ続いているようだ。