今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

糖質制限ってどうよ:エビデンスと照合

2014年02月21日 | 健康

今話題の糖質制限ってどうなんだろう。
日本人の食生活は炭水化物が多すぎるのは確かで、
私自身、ご飯は茶わんに”軽く1杯”(約160g)を超えないようにしている。
ただ、糖質を蛇蝎のように嫌って全面的に排除する世の”糖質制限”は実行する気になれない。
理由は簡単で、それらの食べ物が好きだから。

そうはいっても、炭水化物を栄養素から除外する革命的な発想には興味を禁じえない。
私が今まで目にした糖質制限の本は、凡百のダイエット本のごとくおのれの体験を誇らしげに謳っているだけで、
科学的な根拠に乏しいため、説得されなかった。

そこで、2/15に買った(その日の記事で紹介)
夏井睦氏の『炭水化物が人類を滅ぼす:糖質制限からみた生命の科学』(光文社新書)を読んだ。
以前、氏の『傷はぜったい消毒するな』(光文社新書)で、目から鱗を落されたからだ。
本書は、人間にとっての食、いや生物にとっての栄養摂取の問題に遡り、
生物進化の過程で、ブドウ糖摂取の理由が推論され、それがエネルギー源として脂質に劣る古い方法であること、
だが、人類は穀物に出会うことで、その甘味に魅了され、穀物に生活が支配され、
それから離れられなくなっていく文明史に話が至る壮大な内容。
その途中で、脳が唯一エネルギーとするブドウ糖は、炭水化物由来ではなく、体内での糖新生によって供給されること、
あるいは草しか食べない牛などの仔が乳という全く別種の栄養補給をする理由にも言及して、
人間だけでない生物の食生活の疑問にも答えてくれる。

氏の論は本人が認めているように”壮大な仮説”だが、糖質制限の科学的な論拠として読みごたえがある。
糖質制限、人間と炭水化物・穀物との関係を考えるなら、まずは手にするべき書といえる。

ただ、科学は論理だけでは成立しない。客観的事実としての証拠が必要なのだ。
糖質制限は、仮説としては面白いが、実際の効果としては、
凡百のダイエット法と同じく、個人的な体験の域を出ていないため、
栄養学の常識を覆すには、証拠が不充分である。

必要なのは、糖質制限を貫いた人びとが、そうでない人たちより健康で寿命が明らかに長かったという最終結果である。
もちろん、それは人体実験の最中ということだろうが、
それならば、今入手できる証拠(エビデンス)を見てみよう。

以前、本ブログで紹介した安達洋祐著『エビデンスで知る がんと死亡のリスク』(中外医学社)である。
この書は世界中の研究データから、重要な疾患(ガン中心だが他も含む)に対する、
食を含む人間側のリスク(確率論的危険性)要因を網羅したものである。
その中から、蛋白質・糖質・脂質を含む食物と疾患との関係が統計的に有意な組合せを抽出してみる。
ちなみに糖質制限とは、糖質(炭水化物)をまったく摂らず、蛋白質と脂質は好きなだけ摂取してよい食事法である。

(下の●は糖質制限にとって不利な証拠、○は有利な証拠)
●肉やベーコンは胃ガンを増やし、赤肉と動物脂肪は大腸ガン、赤肉とチーズは膀胱ガン、蛋白質は肝臓ガンを増やす。
○白肉と卵・魚は肝臓ガンを減らし、魚は脳卒中も減らす。
●玄米は、脳卒中・心臓病・糖尿病・前立腺ガン・乳ガンを減らす。
●炭水化物は肝臓ガンを、砂糖はすい臓ガンを減らす。
●柑橘類(蔗糖、果糖が入っている)はすい臓ガンと前立腺ガンを減らす。
●果物(同上)は脳卒中と心臓病を減らす。
●動物性蛋白質を取らない菜食はガン全般を減らし、寿命を長くする。
●地中海食(魚・植物性油・炭水化物が多い)は認知症を減らす。

以上のエビデンス(1勝7敗)からは、糖質制限の健康効果は見えてこない。
むしろ糖質の健康効果さえ見えてくる。
そしてやはり獣肉はよくない(人間は肉食動物ではなかった)。

糖質制限は体重管理には有効かもしれないが、
長期的に健康に貢献するという証拠は得られていない。
以上を踏まえ、私自身は、糖質の過剰摂取を控える今の食事法を続けていく。