博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『古代インド文明の謎』

2008年06月05日 | 世界史書籍
堀晄『古代インド文明の謎』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー、2008年3月)

「インダス文明はカイバル峠を越えてやって来たインド・ヨーロッパ語系のアーリヤ人によって滅ぼされた」、「カースト制(ヴァルナ)は征服民のアーリヤ人と先住民を区別したのがはじまり」といった、古代インド史の通説に考古学の立場からツッコミを入れたのが本書。

DNA分析によると、北インド人は南インド人(ドラビダ人)と系統が極めて近く、イラン人とは遠い。またイラン人はヨーロッパ人よりも隣接する西南アジア人(いわゆるセム系に属する人々)と近いといったことから、言語と人種の分布は必ずしも一致しないことを指摘したり、インダス文字は僻邪の呪文のようなもので(評者が補足すれば、道教のお札の呪文のようなもの?)、一般的にイメージされるような文字ではないのではないかと指摘するあたりを興味深く読みました。

本書の著者は、アーリヤ人征服説がインドを2つの社会層に分断してしまっており、それが社会不安のもとになっているということで、このような重大な社会的影響を及ぼしてしまうことに学問が責任を取れるのかと疑問を呈しています。

著者としてはアーリヤ人征服説を否定することで、ヴァルナによる差別には根拠が無いということを示そうとしたいのかもしれませんが、山際素男『不可触民と現代インド』(光文社新書、2003年)なんかを読むと、現地では本書の発想とは逆にアーリヤ人征服説を否定するのは不可触民に対する差別の根源を覆い隠そうとする上層カーストの政治的な主張だとする立場もあるようで、目的がどうであれ「ためにする」学問の危険性を感じずにはおれません……
コメント
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