Wilhelm-Wilhelm Mk2

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ブラ1その2

2011-09-16 | Weblog
フルヴェンの中で1.2を争う演奏数が多いこの曲には決定的名盤がない。その最大の理由は残された録音がすべて戦後のものだからと考える。戦前・戦中・戦後でフルヴェンの演奏は大きく違う。戦後にも名演奏は数多いが、やはりどこか安全運転で迫力魅力にかけるものが多い。ブラ1の種々録音を聴いてみたが、全体の完成度だけで判断するとやはりEMIの全集に取り入れられた1952のVPOライブが1番か。1947のVPOスタジオも悪くないが、スタジオのためかドライブに欠ける。SP録音のスクラッチ音も気になる。TAHRAから発売されたときに話題になったNDRライブは、前傾姿勢の演奏でフルヴェンらしいのだが、録音のせいかどうも二次元的でVPOライブを越せない。現在は複数のりマスタがあるので、版を変えればまた印象も違うのかもしれないが、私にはそこまでする余裕はない。ACOライブも悪くないが、これもいかんせん音質があだになる(米協会版)。フルヴェン録音において音質の悪さはいつものことであり、何をいまさらだが、音質の悪さ超えてなお名盤といえる演奏が見つからないのが実情。いや勿論その辺に転がっている演奏なんかよりは遥かに素晴らしいのだが・・。ここで自分のライブラリに大きな欠陥を発見。DGのBPOライブがない。・大手レーベルのものでいつでも手に入るとほっておいたら忘れていたでござる・・・・いや協会版で持っているだろうと勘違いしていたが、それは1953のライブだった。1953のライブは良くいえば壮大な構築といえる演奏だが、正直なところつまらない。躍動感にも推進力にもかける。晩年のフルヴェンの悪い演奏の1つだ。欠落していたDG盤は近日中に入手する予定。

ここまであげてきたのは当然ながら全楽章の録音だが、実は戦中のもので、4楽章だけのものが存在する。戦中といってもドイツ敗戦の直前で日付は1945/1/23。これは戦中におけるベルリンフィルとのラストコンサートのものである。フルヴェンはこの演奏会の後にウィーンへ移動し、1/28にVPOとの伝説的なブラ2を残してスイスへと亡命する。このベルリンフィルとの演奏は爆撃による停電があり、演奏会の継続は熾烈を極めたそうだが、生と死のはざまの緊張感と最後の公演となることへの惜別感から異様なまでのアンサンブルの精度と白熱に満ちている。楽章冒頭の低弦の深さ、主題直前のフルヴェンフェルマータ(長い!)、その後堰を切って流れる裏第九テーマ、フレージングが絶妙だ。第二主題の直前も譜面にはないフルヴェンフェルマータが入り、そこから天上の美しさでVnのテーマが奏される。コーダ前の低弦バストロのデモーニッシュな響き・・これぞフルヴェンの真骨頂。コーダの追い込み加減、最後の和音の揃いと残響。圧倒された聴衆の一瞬の静寂からの拍手(フライング拍手なんてのはその演奏が安っぽい高揚感しか生みだしていないからである)。この演奏が全楽章揃っていたら、間違いなくフルヴェンだけでなくこの曲の決定的名盤になっていただろう。幸運にも私は協会版で手持ちだったが、著作権の切れた今なら市販でも簡単に手に入るだろう。「フルヴェンは戦中戦前に限る」とまでは断言しないが、安寧な生活と商業的我欲に巻き込まれた戦後に比べて、明日をもしれぬ絶望と不安感から一期一会の演奏が繰り出されていた戦中ライブにこそ人心に訴える録音が多いのは当然である。