無意識日記
宇多田光 word:i_
 



…とてもくだらないタイトルを思いついてしまったのでそれについて書くか。うまい具合に、前回からの続きになるのだけど。


もうここの読者の皆さんなら実感してるかと思うが、

「『SCIENCE FICTION』って、全然普通のベストアルバムなんかじゃない!」

…のである。なんというか、全体を包括する「SCIENCE FICTION PROJECT」の重要なピースのひとつであって、間違ってもよくある「契約消化」とか「アーティストが休養を取るための繋ぎの一枚」とかではない。まぁツアーと連動してるのだからそれは最初っからわかりきってはいたのだが、だからといっていくらなんでもこのヴォリューム感は「ベスト・アルバム」と言った時のコンピレーション感(寄せ集め感)からは程遠い。

特に、3月に入って過去PV/MVの4K化企画が動き出してから一気に加速した。確かに、事前に新録3曲&リミックス10曲という陣容だとアナウンスはされていたものの、前も書いた通りリミックスという言葉は現代では幅が広過ぎて何に期待をすればいいのかかなり漠然とした所があった。そんな中で、直接リミックスの音源を聴かせる前に、「現代の技術で過去の作品を修繕したらどんなことになるのか」を聴覚ではなくまず視覚でみせにきた。ここが妙策だったね。「現代の技術にかかるとこんなに変わるのか!」というのを音よりもわかりやすい映像で示してみせて、隠伏的にリミックスへの期待感を煽った。そこで『Automatic (2024 Mix)』を投入するのは完璧な導線だったわよね。

この流れの作り方で、「ベストアルバムのリミックスはこんな風な、“過去の名曲を現代に甦らせる”コンセプトに基づいてます。期待してくれていいですよ。」というメッセージをファンとリスナーに届けることに成功する。そして4月に入ってから最新曲、及び直近のアルバム曲のエディット・バージョンの投下が立て続けにあって今だ。連日連夜の4K披露の合間にエディットのMVを挟み込んでくる采配も見事。そう、「『SCIENCE FICTION』の采配」即ち「サイファイの采配」は目下の所余りにも見事にどいつもこいつも決まっている。恐ろしいくらいに。

『Automatic (2024 Mix)』を聴いた人は、「へぇ!こんな風に変わるのか」と思い、アルバムの半分が同じように新鮮に変わっている事を期待してベスト盤をチェックするだろう。勿論、『Gold 〜また逢う日まで〜』や『何色でもない花』や『Electricity』を気に入ってという人も沢山居そうだ。

で今日から配信になっている『Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー(Sci-Fi Edit)』だ。これについて、「『BADモード』に収録されていたオリジナル・バージョンは飛行機で地球を回っていて、このSci-Fi Editは宇宙船で宇宙を巡っている感じ?」といった感想を目にした。まさにそれなのよね。このトラックは、サイエンス・フィクション風味、SFっぽさを前面に出したエディットとなっているのだ。つまり、『Sci-Fi Edit』という名称は、「宇多田ヒカル初のベスト・アルバム『SCIENCE FICTION』に収録する為にエディットされたトラック」という意味とともに、そのものズバリの「SF的なエディット」という意味もちゃんとあるというわけ。この雰囲気作りによってこのトラックはベストアルバムの作風を予感させる役割をきっちりと担っているのである。

4K化されたPV/MVの中には、アップコンバートが想定以上に効いちゃって皮膚の感触が滑らかになり過ぎてまるでヒカルがマネキンかアンドロイドにみえる作品も中にはあったが(『Can You Keep A Secret ?』に関してはもしそうだとすると大成功だがね!)、そこらへんも結構「SF風の雰囲気作り」に一役買っている感すらある。ここらへんまでくれば偶然の産物かもしれず采配云々ではないかもしれないが、それはそれ、結果オーライでいいんじゃなかろうか。

そしてトドメは『Electricity』だ。歌詞の中には、私の聞き取れなかった『違う惑星みたい』というフレーズもある。明らかにSF的な世界観を含ませているというサインだろう。既に『何色でもない花』の歌詞が量子力学だシミュレーション仮説だとSFのネタになりがちなテーマをフィーチャーしていたけれど、この『Electricity』で更にもう一歩踏み込んでくる気だなヒカルパイセン!?


そのトドメを1週間後の発売日に刺された私たちの更に先にあるのが『SCIENCE FICTION TOUR 2024』、香港台北公演を含む宇多田ヒカル6年ぶりのコンサートツアーなのだ。ここまでのサイファイの采配の見事さを総て喰らい切ったその上で、過去最高のライブパフォーマンスを見せてくれるに違いない。そこではきっと、ステージセットやライティングや映像などで「SF的なもの」がこれでもかとフィーチャーされていくのだろう…もしかしたら幕間も、かな? 現在私たちは連日新情報の嵐でひーこら言っているが、これがまだツアーへの序章だとしたら? そんなことをほんのちょっと想像するだけでも怖くなるが、それこそが宇多田ヒカルですわよね。予想を裏切り期待を大きく上回って応えてしまうデビュー25周年を迎えた不世出の音楽家。この凄まじい勢いに皆さん振り落とされずについてこれ…………うぅん、いやぁ、多分ヒカルは待ってくれるなこれは。ついてこれない人をほっとくことはしないはず。少なくともダヌくんと一緒に歩いていけるくらいの感じにはなりそう。なので皆さんも、マイペースで参りましょ。

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いや、予めわかってたことなんだけどね、でもやっぱり、新曲『Electricity』の60秒が公開された次の日に『Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー(SCI-Fi EDIT)』がリリースされるだなんて、心身が保ちませんわ。

で、期待以上というか、音いいなコレ! クレジットをみると…編集エンジニアさんは恐らく『BADモード』にも参加していた(渋谷文化村時代からお世話になってる)「斎藤裕也」氏の筈なんだが、異字とはいえ同姓同名の同じくミュージシャン/エンジニアである「斎藤悠弥」氏の表記になってるのよね。クレジットという名前の通りこれで収入が決まるわけだから別人の名前が載ってるだけでも問題なのだけど、この斎藤悠弥氏って昨年(現行犯で?)逮捕されてるのよね…詳しい事はわからないが、「斎藤裕也」氏の方にとってはとんだ風評被害に繋がりかねないので、即刻訂正して欲しい…んだけどこれAppleさん、どこに通報すればいいの?


まぁそれは我々には関係ない。気を取り直してそのサイファイ・エディットを聴いてみると、今まで以上にドルビーアトモスとハイレゾの切れ味が鋭い。これ、今回もスティーヴ・フィッツモーリスの名前があるけど、Floating Pointsのサム・シェパードが主体となってミックスされたのかもしれないな。いつもとアトモスやハイレゾとコンセプトの方向性が異なる。

ドルビーアトモスって音がよくなる訳ではない。実際、データ容量はこのトラックの場合30MBあまりで、90MB越えのハイレゾはおろか、50MB越えのロスレスよりも軽いのだ。それでもその特性を活かすとこういう面白いサウンドになるのねぇ。ドルビーアトモスの特徴は「音の位置情報が細かいこと」で、特に今回はヒカルによるバックコーラスの位置情報が左右だけでなく前後上下にも広がっているのがポイントだ。まぁそれがそもそものドルビーアトモスの特徴なんだけど、今回はそれを躊躇いなくアピールしてきてるところが違いだろう。サムがそもそものミックスからやり直したんじゃなかろうか。

確かに、アルバムの12分弱の構成に慣れ切った身には4分余りというのはブツ切れ感が否めないが、短い時間でサクッと楽しめるという意味ではこのエディット・バージョンは非常に有用だ。しかしそれ以上に、多分サムを中心にしてそのミックス自体をやり直した点にこそこのトラックの価値を見出したいとこかなと私ゃ思う。この調子だと、既に『Automatic (2024 Mix)』で片鱗を見せているが、『SCIENCE FICTION』はアルバム全体でかなり新鮮なサウンドを浴びせてくれるところが大きな魅力となるだろう。このままでいくと近年の曲の方がくすんで聞こえるまである!? そこはリマスタリングに頑張ってもらわんとね。兎も角、そのアルバムのセールス・ポイントを改めてアピールするという意味でもこのサイファイ・エディットの先行リリースは大成功と言えそうだ。今夜はこの曲のMVのプレミア公開なのでお忘れなきようっ。

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