トシの読書日記

読書備忘録

逆行性迷走症候群

2017-06-20 17:03:59 | あ行の作家



安部公房「飛ぶ男」読了



本書は平成6年に新潮社より発刊されたものです。


この作品は、平成5年に亡くなった安部公房が、その数年前より本書を執筆してい、その亡きあと、本書のタイトルが表書きされたフロッピーディスク(なつかしい言葉!)が見つかり、発刊に至ったという経緯があります。


作品は、もう完全に安部公房の世界です。公房ファンとしては、面白く読ませてもらったんですが、でも、どうなんでしょうねぇ。これは未定稿ということで、安部公房にしてみれば、まだまだ推敲を重ねて決定稿とするつもりだったんでしょうが、こんな形で本作品が世に出るということは、無念やるかたない思いではないかと察します。


ともあれ、出てしまったものはしょうがない、読んでしまったものはしょうがない、ということでしょうか…。


そういった意味で、少し残念ではありました。

生きることへの敬意

2017-06-20 16:38:17 | は行の作家



堀江敏幸「アイロンと朝の詩人―回送電車Ⅲ」読了



本書は平成19年に中央公論新社より発刊されたものです。

未読の棚を眺めていたら、なんと堀江敏幸のエッセイ集がありました。自分の3本の指に入る好きな作家の本をずっと読んでいなかったことを自分に恥じ、あわてて読んだ次第です。


いろいろな文芸誌やら新聞やらに書いたものがまとまった量になると、「回送電車」シリーズとして刊行しているようです。




相変わらずのトーンで安心して読めますね。決して声高ではなく、静かに、しかし力強く自分の思いを語るこの作家には共感するところが非常に多いです。



例えば木山捷平の文章。さらりと書いているような力の抜き方が、それがむしろ強い意志を感じるという、読み方の深さ。こういった記述にふれるたび、自分の本の読み方の浅さに恥じ入る次第です。しかし、こうやって先達に学びながら読書を続けていけば、自分の読書力も少しは向上するのでは、と思っております。