トシの読書日記

読書備忘録

姿なき敵に翻弄される

2017-02-21 16:21:40 | あ行の作家



イーヴリン・ウォー著 吉田健一訳「ピンフォールドの試練」読了



少し前に名古屋市内の「丸善」で買ったまま、うっかり忘れていて、今やっと読了しました。


1年前くらいだったか、姉がイーユン・リーの本を買うつもりが、イーヴリン・ウォーと間違えて「ご遺体」というのを買って、それを借りて読んだらこれがめっぽう面白くて、他に何かないかと探していたら本書が見つかったのでした。


いやぁこれもなかなか面白かったですね。何というか、ウォーの持ち味である諧謔とアイロニーたっぷりの文章は、読んでいてにやりとさせられます。


中年の作家、ピンフォールドは、膝の痛みやら寝不足に悩まされ、思い立って船旅に出ます。そこでは上流階級のお歴々が思い思いに過ごしているんですが、ピンフォールドが自分の船室にいると、どこからか音が聞こえてくる。それは最初は騒々しい音楽だったんですが、やがてそれが自分の悪口となり、果てはピンフォールドを襲撃する計画にまで話が発展していくわけです。


でもこれ、全てピンフォールドの幻聴なんですね。本人はもちろんそうは思ってないので、船長に部屋を代えてくれと申し出て、そこでの会話がなんだかかみ合ってなくて、そのあたりがほんと、面白かった。


まぁそんなに深いテーマを構築するわけでもなく、ひとつの読み物と考えればいいんでしょうが、訳者の吉田健一が解説も書いていて、これがまたいつもの吉田健一らしい、つかみどころのない文章で、これがまた笑えました。


イーヴリン・ウォー、吉田健一、ともに食えないおっさんです。

コメントを投稿