たかはしけいのにっき

理系研究者の日記。

新・研究室の選び方 - 学生もポスドクも海外でも『このラボだっ!』と決めるその前に -

2017-05-25 00:35:29 | 自然科学の研究
 私のページで初めて「研究室の選び方 -『このラボだっ!』と決めるその前に-」を書いてから5年弱が過ぎました。
 これまでに5万PV以上は稼いでいるこの文章ですが、5年も経つと、時代の変化や私の経験などから、全面的に変えたくなってきまして、今回、改めて、研究室の選び方について書いてみようと思います。以前のものも参考になるとは思いますので、そのまま残しておきます。是非ご覧ください。

 今回は、理系の、学生とポスドクを対象としたいと思います。さらに、国内外問わず、研究室選びについて成り立つであろうことを書いていこうと思います。

 私自身は、以下のような分野の研究室を選び、研究室を変えてきました。正式に所属した研究室は5つです。

 卒業研究・・・物性理論(量子多体系の理論)
 修士課程・・・生物物理学
 博士課程 ・・・生物有機合成化学
 博士号取得後1(特任研究員)・・・脂質生化学
 博士号取得後2(ポスドク、海外、現在)・・・Protobiology

 物理2つ、化学1つ、生物1つで、現在のところが化学と生物のちょうど間くらいです。それから物理学科的に分けると、理論1つ、実験3つ、修士のところが実験と理論が半々くらいのイメージでした。この他に、共同研究などでは、生き物を使った生物物理の研究室とかなりの時間関わっていました。どの研究室も、今となっては所属して良かった、と心から思っていますが、、実際には本当に色々ありました(現在進行形?笑)。
 実体験としてですが、私以上に幅広い範囲の研究室を(実際にちゃんと所属して)見てきた人を私は知らないので、以下、役に立つ内容があるかと思います。また、2015年の秋から、研究室関連の相談メールも一般に募集していまして、主に大学院生・学部3,4年生の皆様から計150件以上のメールを受け取っております。そのすべてを考慮して以下を書きます。では、前置きが長くなりましたが、スタート。


 1. 流行を追うな!流行は作れ!

 今回、これを書直そうと思った一番の理由は、この一言を絶対に言わなくちゃいけないと思ったから。今の時代、この視点がとても大事です。
 現在、研究社会では、(完全に正しくはないけれど)キャッチーな言葉を使うことで、研究費を獲得したり、NatureやScienceなどのインパクトファクターの高いジャーナルで論文を出版したり、ホームページでアピールしたりすることが横行していて、サイエンスの本質が見失われつつあります。

 そんなキャッチーな言葉が輝かしすぎて、飛びつきたい気持ちはわかりますが、流行にのってはいけません。実際にそのような色が強い研究室に入ってみると、ただ同じ作業をひたすら繰り返させられるだけ、ということはよくあります。先生が(学内や学外で)かなりの有名人で、実情は、その先生の手となり足となる可能性が高いわりに、学生にもポスドクにも人気だったりします。でも、研究室やめたい関連の相談メールでも、必ず一定数あるのが、有名っぽい先生の研究室の方からです。

 あなたが研究者志望なのだとしたら、流行は自ら作ろうとしましょうよ。そこの研究室に行って、そこの研究室のPI(Principal Investigator、研究室のトップ)を超えられる自信がありますか?流行にのって、他人任せにして、ゆくゆくは自分で研究者としてやっていけると思っているのだとしたら、それは少し甘いと思います
 あなたが修士で卒業して就職するのだとしても、大して興味が無いのに流行りの分野を選んでしまうと、有能な(いや、とにかく作業だけはやたらにこなせる)ライバルがめちゃくちゃ多く、研究室へのモチベーションが下がっていってしまい、就職に有利とは言えないかと思います。

 5年すれば、いえ、今の時代、1年でも、流行は変わってしまう可能性が高いものです。
 自分にとって、何が学びになるのか?を考えながら、研究において流行りを追うのはやめましょう。(どうしても超人気の流行の研究室に行きたい場合は、最低限、その分野がどのようにして発生したのか?という歴史を調べてみてくださいね)

 2. その後の可能性が広い研究室を選べ!

 実はこれは1を逆に言っただけ。
 つまり、まだ流行ってはいないけど、これから自分が参入することによって流行らせることができる分野に行け!ということです。そのためにはベースとなる研究スキルを身につける必要がありますので、(特にはじめは)より可能性が広い研究室を選ぶことをおすすめします。

 具体的に言います。
 たとえば、あなたが最初に研究室を選ぶ場合で、実験と理論で迷っているなら、理論研に行くことをおすすめします。理論から実験には行けるけど、実験から理論には(なかなか)行きにくいからです。すでに理論の経験があり、理論研と実験研で迷ったなら、理論研よりも実験研に行きましょう。理論は極論PCがあればできますが、実験は高額な実験装置が無いとできないからです。だって、理論の経験がすでにあるんでしょう??
 さらに、たとえば、卒研か修士で、物理と化学の研究室で迷ったら、物理の研究室に行くことをおすすめします。同様に、化学と生物の研究室で迷ったら、化学の研究室に行くことをおすすめします。これらも、物理→化学→生物は移動として可能ですが、逆は(ほぼ絶対に)不可能だからです。
 はっきり言いますが、要求される思考力レベルが高い順で行くと、素粒子理論>物性理論>素粒子実験>物性実験>>情報科学>>>無機化学>有機合成化学>>生化学>分子生物学です(もちろん、各分野によって多少違いはでてきますが、このイメージはそんなに外してはいないはずです)。思考力さえあれば、あとは"慣れ"の問題ですから、あとから下にいく分には大丈夫ですが、上にいくのは大変です。気をつけてください。

 なるべく、その後の自分にとって、可能性が広い研究室に行きましょう。
 特に研究者志望の方はご注意ください。今後、大学の分野編成は驚くほど急速に変わってしまうことが予想されます。ですから、いきなり最初から「私はある生物種だけしか扱えない」というよりは「私は多体系なら扱える」のほうが良いと思います。

 3. 海外でも、正式所属前に、必ず一度は研究室を訪問しよう!

 百聞は一見にしかず。Seeing is believing。
 日本の文化と西洋の文化は違いますが、この2つは同じことを言っています。そして、これほど善く言った名文句もないでしょう。

 訪問しても研究室選びに失敗したぁというのは、それなりによく聴く話です。ですが、これはマズったなぁという研究室選びをしてしまった人は、かなりの高確率で事前に研究室を訪問していません。コネがあっても、知ってる先生でも、必ず一度は所属前に、その研究室を訪問してください

 私は、海外でも、行く可能性が高い研究室には実際に行くことを強く勧めます。私自身、行く可能性がかなり高い海外研究室に、見学のためだけに行きました(2つも)。海外でも、と書きましたが、逆で、海外だからこそ絶対に事前に一度は訪問しろ!というのが正しい。だって、ただでさえ知らない土地ですよ?絶対に行ったほうが良いです。
 いま所属しているミネソタへは、1週間の滞在で10万円(航空券(アメリカン航空)往復5万円+ホテル5万円)くらい。むこうは「事前にinterviewに来なくても良いですよ、もう採用するから」と言っていましたが、私から「いや、事前に絶対見たいから見せてくれ」と言いました。情報化社会になって、工夫して旅行会社に訊きまくれば、航空券はかなり安くすることができます。さらに、Airbnbを利用すれば宿泊代もかなり抑えられます。現地での移動もUbarを使って安く効率的に動きましょう。自分が1年以上はいる環境を選ぶのにあたって、悪くないコスパだと思います。決してコスパが良くはないですが笑、まぁ半分は旅行だと思って。

 狙っている研究室がかなり遠い場合は、旅費を半分出して貰うのを打診してみるのも良いです。が、実際見てみたら微妙だったけど、半分出してもらったから、ぜったい行かなきゃなぁーとなっちゃうかもなぁと予想するくらいだったら、全額自己負担で行ったほうがいいですよ。まぁ、半分は旅行だと思ってください(2回目笑)。

 4. 若すぎる先生、年寄りすぎる先生に注意しましょう

 これは、どうしても、統計的にとしか言いようがないのですが、若すぎたり、年寄りすぎたりする先生が主宰する研究室からのトラブルをよく聴きます。もちろん、これだけで、その研究室に入るのはやめる!と決めるのはもったいないですが、、若くして研究室をもたれている理由、定年後も何らかのカタチで研究室をもたれている理由は、単純に「超有能だから」とも言えないのが現状だと思います(当然、そういう人もいますが少数だと思います)。それなりに、理由があることもありますから、よく見極めてください。

 まず、PIの先生がとても若い場合は、実は(研究室のHP上ではあらわに見えていない)上の先生がいて、その先生に対して超従順な振る舞いをしているからこそ若くしてそのポジションにいる、ということも多々あります。その上の先生がいるからこその、その若い先生って感じで、そこの研究室に所属すると、どうしても(天界からの笑)理不尽な命令が多くなります。若いとどうしても「話しやすそう!」と思って選びがちですが、その若い先生は、あなたが「気難しそう」と思って無意識に外したおじさん連中の中で、上手に信頼をとっている曲者の可能性も高いのです。
 そして、定年後の先生の場合は、かなり政治力学的に高位に行き過ぎて、その立場をやめられなくなっている場合があり、全然指導してくれない等のケースがあります。ゆとり以下の世代とは価値観が合わないことを前提に付き合っていく必要があることが多いですから、ここも上手く見極めてください(なかには本当に懐の深い先生もいらっしゃいますが)。

 ですから、その学科、その専攻で、一番若そうな先生と一番年齢がいってる先生の研究室を選ぼうとする場合に関しては、きちんと調べてみることをおすすめします。

 5. 失敗を恐れるな!

 最後に、全部ひっくり返しますが、、あまり選びすぎるな!ということを言っておきます。

 最近の若者は(とか言い出すと、俺もトシなのよねぇ笑)、あまりに「とにかく絶対に失敗したくない!」という気持ちが強すぎる印象があります。まぁそれは、ネット社会で、これだけ多くの情報が溢れていますから、何か間違えると「えー、このサイトみてなかったの?なんで知らなかったの?」となることが多いので、仕方の無いことなのです。
 A店よりもB店のほうがコスパがいいことは、ネットできちんと調べれば確かにわかります。上にも書きましたが、航空券一つとっても、"とにかく安く、でも安全に"は、情報を集めまくれば達成できてしまいます。あなたたちが、(成功したいというよりも)絶対に失敗したくないという気持ちが強いことは、私もよくわかるつもりです。

 しかし、よく考えてみてください。世界中に研究室はどれだけあるでしょう?全世界、大学の数だけで約2万もあります。各大学が20個しか研究室を持っていなかったとしても(そんなに少ないわけがないですが)、40万です。おそらく現実的に、関連する分野や行ける可能性のある研究室だけでも、1000は簡単に超えると思います。1つの研究室に1時間かけるとしたら、1000時間です。1日の実働時間が8時間だとすると333日。研究室選びだけにそれだけ使うのは勿体無くないですか?国内だけに絞っても・・・(あとは自分で考えてみて笑)。それだけの研究室の中から、ベストフィットを探すことは原理的に不可能です。近い将来AIに頼めるかもしれませんが、だったら、いま、このページを読んでないでしょう??
 だから、ある程度のところで納得することもとても大事です。私自身、一時期は、あー失敗したなーと思うことも確かにありました(何度も笑)。でも、今はどの研究室でもそれなりに学びがあって良かったなぁと思えます。

 多くの人から信頼を失いつつあるサイエンスは、極論どこに行っても、オワコンではあります。もう、殆どの人が、サイエンスが発展することで幸せがもたらされる、とは考えていないでしょう。ですから、どんな研究室を選択をしても、あなたが理系に行った時点で失敗をしていると思うような人も沢山いるのです。それでも私たちはサイエンスを楽しもうと思って研究室を選ぶわけですよね?だったら、あまり深刻に悩まなくてもいいじゃないですか。
 どんな所に行っても何かを吸収してやる、という気概が欲しいですね。そして、どうにかその研究室で楽しんでやるって。失敗は必ずいつか成功に変えられることを信じてください。

 コレはおすすめなんですが、、実際に事前に訪問してみて、研究室の帰り道のキャンパス内で、目をつむってみましょう。そこで、近い未来、そこに毎日通う自分の姿が想像できたら、その場所から多くのことを得ることができると思いますよ。実際、私は、(研究室選び以外でも何かや誰かを選ぶ時は)これを必ずやります。


 というわけで、5つ、挙げてみました。いかがでしょうか??
 これから研究室を選ぼうとされる皆様の参考になれば幸いです。

 「研究室の選び方」や、その他研究室での悩みについて、私に直接相談したいと思ってくださる場合は、相談内容を明記の上、こちらにメールしてください(_attoma-ku_を@に変えて送信してください)。基本的にどんな相談もお受け致します。匿名で構いませんが、所属や名前を仰ってくださったほうが、相談にはのりやすいです。相談内容は決して口外しませんのでご安心ください。
soudan.atamanonaka.2.718_attoma-ku_gmail.com

相談メールについて詳しく知りたい場合はこちらをご覧ください。相談を受ける上で俺が守るべきルールを書きました。

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