スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

後継者&推奨されない受動感情

2022-04-24 19:01:27 | 将棋トピック
 米長の死の要因となったのは前立腺癌でした。前立腺癌を罹患していること,そしてそのために放射線治療を受けているということは公表されていました。米長はそれでも会長職を続けたのですから,任期中は生きていられると思っていたのかもしれません。ただ,それほど多くの時間が自身に残されているわけではないということは理解していたでしょう。棋士たちを二分するようなことを,やや拙速とも思えるやり方で推進していったことには,そうした米長の感覚が影響していたのかもしれません。少なくとも谷川を理事にして自身の近くに置いたことと,米長が前立腺癌を罹患していたこととの間には,明らかに関係があったと僕は推測します。米長は自身の後継者,いい換えれば次期会長が必要であるということを,明確に意識していたのだと思います。
 谷川は本来であればもっと長きにわたって会長職を務める筈でした。だから後継者のことなどは考えていなかったでしょう。ただ谷川自身が佐藤を指名したように,もしも谷川がそれを考えていたとすれば,佐藤であったことになります。ただ佐藤が谷川と同じように理事になって谷川のそばで学ぶということがなかったのは,谷川にはすぐに後継者を育成しなければならない理由がなかったからにすぎなかったからだといえるでしょう。他面からいえば,何らかの理由で,自身が会長職にとどまることができないという意識が谷川のうちにあれば,その時点で佐藤は理事になっていたでしょう。
 米長は会長であった頃,棋士が公開の場でコンピューターソフトを相手に将棋を指すことを原則的に禁じました。これはそういう場で棋士が負けてしまうことのダメージを避けてしまうためであると同時に,コンピューターソフトと棋士との対局が,将棋連盟の利益になると米長が認識したからだったと思います。先に棋士が負けてしまうと利益にならなくなりかねませんから,このふたつの理由は連関しています。

 スピノザの哲学のうちでは,人間の現実的本性actualis essentiaに反し,かつ非道徳的であるような感情affectusであっても,スピノザによって推奨されている感情があるということは,ここまでの説明から理解することができました。スピノザは敬虔pietasであること,いい換えれば人と人とが対立的にならないことを推奨するのですから,スピノザはそのために有益であるような受動感情は,悲しみtristitiaでも推奨することになるのです。
                                   
 これに対して,スピノザがまったく推奨しない受動感情というのも存在します。ある種の受動感情は,必然的にnecessario人と人とを対立させる,いい換えれば人を敬虔であることをできなくします。あるいは同じことですが,人間が理性ratioに従っていたなら絶対に行動しないようなことに向かわせる一連の受動感情があるのです。当然ながらスピノザはそうした感情については推奨しません。第四部定理四系によって,そうした感情を禁じるということはないにしても,とくに避けるべき感情といわれることになります。
 その代表的なものが第三部諸感情の定義二八の高慢superbiaです。この感情は喜びlaetitiaですから,人間の現実的本性には反しません。しかし定義Definitioから明白なように,観念ideaとしてみた場合は混乱した観念idea inadaequataであり,したがって現実的に存在する人間が高慢という感情を感じるときには,必然的に働きを受けています。よって非道徳的です。そしてこの高慢は第三部定理二六備考で狂気といわれています。つまりこの感情は,人間が理性に従って振る舞うのとは正反対の行動に向かわせるのです。また人と人とを対立させます。このことも高慢の定義から明らかなのでとくに説明するまでもないでしょう。そしてそれが理解できれば,スピノザがこの感情を徹底的に否定するのも当然だといえます。
 悲しみに属する感情のうちでスピノザがとくに否定的な評価を与えるのは,第三部諸感情の定義七の憎しみodiumに属する感情です。これをスピノザが推奨していないのは,第四部定理四五系二から理解することができるでしょう。また憎しみが人と人とを対立させるということは,第三部定理三九から明白であるといえます。ですから憎しみに属する一連の感情をスピノザが推奨しないのは当然です。

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