浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

ローマ人列伝:クレオパトラ伝3

2008-03-03 23:20:13 | ローマ人列伝
エジプトに向かったアントニウスが出会った女性とはもちろんクレオパトラ。

アントニウスは一目で恋に落ちます。それはもちろんクレオパトラの美しさもあったでしょうが何より彼女はカエサルの女。彼女と結ばれることで彼はカエサルになれる、と勘違いしたのでしょう。ちょうど彼はクレオパトラと出会ったときのカエサルと同じ50代になっていました。

聡明なクレオパトラはカエサルの遺言状で無視された瞬間こそ憤怒に駆られましたが、ひとまず心を落ち着け次の手を練っていました。

彼女の武器はやはり「聡明さ」と「女であること」。次の一手は二つ考えられました。ひとつはカエサルの正当な後継者アウグストゥスを狙うこと、そしてもうひとつはカエサルの部下でありながら野望を持つアントニウスを狙うこと。


こっぴどく振られたときにあなたなら次の恋愛相手にどんな人を選びますか?「やっぱりあの人が忘れられない!」と昔の恋人と似た人を選んでしまう人がいます。
しかし聡明で自信にあふれる人であれば「あんな人、もともと私は好きではなかった。私の好きな人はこの人なの」と以前の恋人とまったく逆のタイプを選びがちです。なぜなら昔の恋人を好きだった自分を認めてしまえば、同じく自分の自信を傷つけられた思い出も認めることになるからです。

クレオパトラが選んだのはアントニウスでした。

カエサルが瞳に持っていた理想と似たものを持つアウグストゥス、一方、自分の野心だけに燃えるアントニウス。アントニウスはカエサルに比べれば凡庸な男でした。しかし凡庸であるが故にクレオパトラの魅力には落ちやすく、クレオパトラの言うがまま。
以前であれば「そんな退屈な男」と切り捨てたかも知れませんが、今のクレオパトラは違います。「もともと私はカエサルなんて愛していなかったわ。カエサルに権力があり言い寄ってきたから相手をしただけ。本当に私が好きなのはアントニウスのような男」と自分に言い聞かせます。

このときクレオパトラ30代半ば、カエサルと暮らした頃のピチピチした魅力は失っていましたが経験を重ねた女性としての魅力があったのでしょう。僕も女性は30歳からと思っていますよ、りちゅさん。カエサルさえも落としたクレオパトラ、アントニウスなど赤子の手をひねるようなもの。彼女とアントニウスは手を組みます。

話はずれますが、もし、ここでクレオパトラがアウグストゥスを狙っていたら。僕はクレオパトラの戦略は頓挫していたと思います。
そもそもカエサルは故郷ローマにユリアという妻がいました。ローマの女性らしくおとなしく貞淑な良妻。ある意味癒し系。その彼がエジプトと言う異国に来た時にこそ、妻とは違うタイプの女性を求めてクレオパトラとの逢瀬を重ねたのではないでしょうか。
一方、アウグストゥスは徹底的に現実主義者。自らの評判とローマ帝国の威信に傷をつけるような行いをするわけがありません。そしてアウグストゥスの妻はリウィア、後に「国家の母」と呼ばれる聡明な女性、ある意味どやし系。自宅にいる妻がそんな感じですからもしアウグストゥスが浮気をするのであれば彼女とは違ったおとなしい女性を選んだのではないでしょうか。つまり、クレオパトラにはアウグストゥスは落とせなかったと思います。

彼女が落とした男は愚鈍でも自らの意のままになるアントニウス。

ローマとエジプトという国の命運を二人が握ります。

彼らの生きた時代から役1,600年後、シェイクスピアは彼らを主役に戯曲「アントニウスとクレオパトラ」を書き上げます。

ロマンス悲劇として名高いこの戯曲のとおり、彼らは悲しい最後を迎えます。

…to be continued...