浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

「恥ずべきはあいつらの側だった」-ジョジョ・ラビット雑感

2020-01-20 11:17:13 | DVD、映画
僕が「観たい」と思う映画のひとつはこういう映画です。もちろん、ヒーローが世界を救う映画やただただアホでバカで笑える映画も素晴らしい。だけど、映画として描くべきはこんな話だろうと思う。



まず、タイカ・ワイティティという映画監督の名前はぜひ覚えておいて欲しいと思います。ニュージランド出身のマオリ系、ロシア系ユダヤ人という「多様性」をその身で表しているような映画監督です。僕が彼の名前を知ったのは「マイティ・ソー/バトルロイヤル」。マイティ・ソーシリーズってアベンジャーズシリーズの中でもなかなか難しくて、そもそも「北欧の神の話」って映画として「なにそれ?」って感じだよね。実際マイティ・ソーシリーズの1,2作目ってそんなにヒットはしてない。そこで立て直したのがタイカ・ワイティティ。彼なりの完全コメディにして大ヒット。実際面白かったしねー。

今まで予算2億円くらいの映画しか撮ってこなかった彼がいきなり200億円の予算の映画を撮って大ヒットってのは素晴らしい話だよね。

その彼がマイティ・ソー監督後に製作・監督・脚本・出演をしたのが今回の「ジョジョ・ラビット」です。

ここが大事だと思うんだけど、ある意味雇われで大作を撮ったあとに自分で金集めて、話を考えて、撮る作品ってのはよっぼど「なにかやりたいこと」があるんだろうと思う。だって普通に考えれば、マイティ・ソーを大ヒットさせたっていう実績ならいくらでもいろんな話が持ち込まれると思う。はっきり言っちゃえば名前だけ貸したって結構なお金はもらえると思う。それをやらずに撮った作品ってのは絶対に彼の何かしらの信条が込められているはずだと思う。

そうやってできたこの作品。大変に素晴らしかったです。

どこがどういいのか、というのは実際に観てもらうとして。何がいいかと言うと、まずは圧倒的にキャラクターの良さ。特に主演のジョジョ役のローマン・グリフィン・デイヴィス。素晴らしいですね。これが実質的にほとんど映画初出演くらいだと思うんだけど、子どもであり、少し大人になっていく、というこのジョジョの良さが彼を通してよく出てた。あと観てて楽しかったのはジョジョの友達ヨーキー。ちょっと太めののんきな彼がとっても良かった。ひょうきんだけど、実は彼ってすごーく我々「普通の人」を象徴していると思った。それからヒロイン役のエルサね。この映画における「子ども側」の3人はどれもすごく良かった。
一方「大人側」も非常に複雑なキャラクターたちで、それぞれが「悪人/善人」に分けることができないところがいい。何が正しいのか、間違っているのか、何を重視すべきなのか。このあたりが複雑な映画はいいよね。
あと特筆すべきは役者タイカ・ワイティティ。彼はなんとジョジョのイマジナリーフレンド(空想上の友達)であるアドルフ・ヒトラー(、、と書いてるだけでなんか笑えてくるけど、)を演じている。彼が出てくるところはだいたい「笑いどこ」ですね。おかしかった。

そして、ストーリー。おかしく楽しいだけじゃなくて、とても悲惨な、地獄みたいなところもある。それでも、終わったあとには希望がある。そういう映画です。

戦争映画、ナチス映画の新たなレンガがひとつ積まれた感じがするので、ぜひ。



(ここはネタバレかも知れないんだけど、)


劇中、非常に重要な場面でデヴィッド・ボウイの「Heroes」が流れます。僕はこの曲を知らなかったんだけど、とっても素晴らしい曲でグッと来た。簡単に訳詞を載せときます。

David Bowie - Heroes (Official Video)

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I, I will be king
And you, you will be queen
Though nothing, will drive them away
We can beat them, just for one day
We can be heroes, just for one day

僕は王になり、君は女王になる
彼らを追い払うことができなくても
僕らは倒せるはずだ、たった一日だけ
僕らはヒーローになれるはずだ、たった一日だけだけど

And you, you can be mean
And I, I'll drink all the time
'Cause we're lovers, and that is a fact
Yes we're lovers, and that is that

君は意地悪で、僕は飲んでばっかり
僕らは恋人だから、それは事実だ
そう、僕らは愛し合ってるんだ、事実として

Though nothing, will keep us together
We could steal time, just for one day
We can be heroes, forever and ever
What d'you say?

僕らをつなぎとめるものがなにもなくても
時間は稼げるはずだ、一日だけなら
そして僕らはヒーローになるんだ、永久に
君はなんて言うだろうね

I, I wish you could swim
Like the dolphins, like dolphins can swim
Though nothing, nothing will keep us together
We can beat them, forever and ever
Oh we can be heroes, just for one day

君が泳げたらいいのに、イルカみたいに
僕らをつなぎとめるものは何もないけど
僕らはあいつらに負けない、絶対に
僕らはヒーローになれるよ、たった一日だけだけど

I, I can remember
Standing, by the wall
And the guns, shot above our heads
And we kissed, as though nothing could fall

忘れないよ、
頭の上を銃弾が飛び交う壁に立ってたこと
僕らはキスをした、何も失わないように

And the shame, was on the other side
Oh we can beat them, forever and ever
Then we could be heroes, just for one day

恥ずべきはあいつらの側だった
僕らはあいつらに負けない、絶対に
そして、僕らはヒーローになれるよ、一日だけ

We're nothing, and nothing will help us
Maybe we're lying, then you better not stay
But we could be safer, just for one day
Just for one day

僕らに何も無い、誰も助けてくれない
たぶん全部嘘だ、だから君はここにいないほうがいいんだろう
だけど、一日だけ生き延びれる
一日だけ
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第92回アカデミー賞予想

2020-01-14 16:12:14 | DVD、映画
第92回アカデミー賞のノミネートが発表されましたね。前も書いたかも知れないけど、この「アカデミー賞」というのは「良い映画、優れた映画が獲る」とは限らない。そもそも良い映画・優れた映画とはなにか、って話にもなるしね。更に「一番稼いだ映画が獲る」とも限らない。

どういうことで決まっていくかということはなにか他の文献とかに当たって欲しいけど。おそらく近年の著書だとこれが参考になるんじゃないかな。

まだ発売されていないから僕も読んでない(予約はした)けど、この著者の方がラジオで話しているのを聞いたことがある。

アカデミー賞というのはアメリカの映画関係者、ざっくり言うとアカデミー会員(2006年時点で約5,000人)の投票によって決まる。終身制なので高齢化しているようだし、白人が多いとも言われている。(最近は変わっているのかも知れないけど)

だから傾向としては先進的なものよりは伝統的なものがとりやすいと言われているし、当然、見られてないと投票されないから小規模作品よりは大作のほうがとりやすいとも言われている。
あとはオールスターキャスト映画(いろんな俳優がたくさん出ている)だと、関係者が多くなるから票が増える。「友達が出てるから投票しようかな」みたいな感じで。
それから、前哨戦と言われるような各種映画祭、トロント映画祭、ゴールデングローブ賞などの結果によく悪くも左右される。

そんなこんなでアカデミー賞を予想する人たちがいる。僕もまぁ、何事も予想したほうが面白いという考えなので予想してみます。

現時点(1月14日)でアカデミー賞がらみの作品で僕が見てるのは「フォードVSフェラーリ」、「アイリッシュマン」「マリッジ・ストーリー」「ジョーカー」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」くらい。そもそも見てない人が言っているでまぁ与太話だと思っていただいて。

■作品賞
『フォードvsフェラーリ』
『アイリッシュマン』
『ジョジョ・ラビット』
『ジョーカー』
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
『マリッジ・ストーリー』
『1917 命をかけた伝令』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
『パラサイト 半地下の家族』

これは大混戦ですよね。毎年「まぁ、これとこれのどっちかかな」ってのはあるんですが。例えば昨年ならグリーンブック対ローマ、その前ならシェイプ・オブ・ウォーター対スリー・ビルボード、その前ならムーンライト対ラ・ラ・ランドって感じだった。でも今回はノミネート発表直後ってことを割り引いてもとにかくわからないですね。

わからなくなってる要素の一つが、Netflixの存在。そもそもネット配信番組を「映画」と認めるのかという議論だってまだ消えきってない。そんな中でなんとノミネート10作中2作がNetflix制作作品。これがどう出るか。

また、現時点ではおそらく興行収入ならトップクラスのジョーカーだけどこれはなんと言ってもアメコミ原作。アメコミ原作映画が作品賞にノミネートされたのだって去年のブラック・パンサーが初めてなわけでもし作品賞とると「アメコミ映画初受賞」ということになる。しかもなんたってジョーカー、つまり悪役が主役の映画ですからね。これはなかなかすごいことになってしまうだろう。
じゃあ他の作品はと見回しても「フォードVSフェラーリ」はレース映画で、レース映画で作品賞とった映画は今まで無い。パラサイトは韓国映画、そもそもこれは外国語映画賞ノミネートなんじゃないの?って感じ。英語ではないのに作品賞にノミネートしたのは昨年の「ROMA」が初めてですね。

ということで僕の予想。まず難しいのでとりあえず集団に分けてみます。

第1集団
『アイリッシュマン』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
第2集団
『フォードVSフェラーリ』
『パラサイト 半地下の家族』
『ジョーカー』
第3集団
『ストーリー・オブ・マイライフ』
『ジョジョ・ラビット』
『マリッジ・ストーリー』
『1917命をかけた伝令』

こんな感じですね。
その上で予想は、もう僕の願望も含めて申し上げますが、下記です。

本命:ジョーカー/ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド/アイリッシュマン
大穴:パラサイト

本命に3本上げるなんて自分でもずるいと思いますが、まぁ今の時点ですので。
スコセッシ&デ・ニーロというハリウッドを代表する監督主演コンビに「お疲れ様」という意味で票が集まり、Netflixが初のオスカー獲得、となるか、これまた大功労者タランティーノが初受賞なるか、というところですね。
大穴は韓国映画パラサイト。

■監督賞
マーティン・スコセッシ 『アイリッシュマン』
トッド・フィリップス 『ジョーカー』
サム・メンデス 『1917 命をかけた伝令』
クエンティン・タランティーノ 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
ポン・ジュノ 『パラサイト 半地下の家族』

こちらはゴールデングローブ賞をとったサム・メンデスが本命。次の作品で引退すると言っている(ほんとかね)タランティーノが「今のうちに」という意味で対抗。韓国人であるポン・ジュノがとったらすごいことになると思うので大穴。

本命:サム・メンデス
対抗:クエンティン・タランティーノ
大穴:ポン・ジュノ

■主演男優賞
アントニオ・バンデラス 『ペイン・アンド・グローリー(英題) / Pain and Glory』
レオナルド・ディカプリオ 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
アダム・ドライヴァー 『マリッジ・ストーリー』
ホアキン・フェニックス 『ジョーカー』
ジョナサン・プライス 『2人のローマ教皇』

驚きはアントニオ・バンデラス。最近名前聞かないなぁと思っていたけど初の主演男優賞ノミネート良かったですね。

とはいえ、ジョーカーの評価が揺るがず大本命。ゴールデングローブ賞もとってますからね。過去7年連続でゴールデングローブ賞ドラマ部門主演男優賞がアカデミー賞でも主演男優賞とってます。対抗はアダム・ドライヴァー、まぁスターウォーズでもお疲れ様、とい意味で(てきとう)

本命:ホアキン・フェニックス
対抗:アダム・ドライヴァー

■主演女優賞
シンシア・エリヴォ 『ハリエット』
スカーレット・ヨハンソン 『マリッジ・ストーリー』
シアーシャ・ローナン 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
シャーリーズ・セロン 『スキャンダル』
レネー・ゼルウィガー 『ジュディ 虹の彼方に』

主演女優賞は男優賞ほどゴールデングローブ賞とイコールじゃないので難しい。とはいえ、愛された女優ジュディ・ガーランドを演じたレネー・ゼルヴィガーが一歩リードだと思います。対抗はスカーレット・ヨハンソン。久々のノット・アベンジャーズ映画。

本命:レネー・ゼルヴィガー
対抗:スカーレット・ヨハンソン

■助演男優賞
トム・ハンクス 『ア・ビューティフル・デイ・イン・ザ・ネイバーフッド(原題) / A Beautiful Day in the Neighborhood』
アンソニー・ホプキンス 『2人のローマ教皇』
アル・パチーノ 『アイリッシュマン』
ジョー・ペシ 『アイリッシュマン』
ブラッド・ピット 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

これはもうブラッド・ピットで鉄板でしょう。ハリウッドでは非常に愛されているし、アル中間近で大変だったところからの復活でもあるし。これまでノミネートはあるけど獲得したことは無いのでこのあたりで、という感じもあると思う。対抗はもうこれ完全に僕好みでジョー・ペシ。そもそも映画出演自体が久しぶりだから頑張ってほしい。

本命:ブラッド・ピット
対抗:ジョー・ペシ

■助演女優賞
キャシー・ベイツ 『リチャード・ジュエル』
ローラ・ダーン 『マリッジ・ストーリー』
スカーレット・ヨハンソン 『ジョジョ・ラビット』
フローレンス・ピュー 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
マーゴット・ロビー 『スキャンダル』

これはもうわからないなー。ゴールデングローブの結果を元にローラ・ダーン。いい役だったしね。対抗は、、うーん。スカーレット・ヨハンソンが主演女優を取らないとしてスカーレット・ヨハンソン。「ジョジョ・ラビット」にここで光を、という意味もあるだろう。

本命:ローラ・ダーン
対抗:スカーレット・ヨハンソン


今のところこんな感じです。発表は2月10日。それまでの情報で予想を変えるかも知れません~。