さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

苦境にあって、改めて示した質の高さ 井上尚弥、負傷抱えてなお完勝

2016-05-10 09:51:08 | 井上尚弥



ということで、連休最後のとんぼ返り観戦ゆえ、今頃更新です。

ふたつの世界戦は、昨年末とは違い、こちらのやや過剰な期待を完全に満たすものではなかったですが、
興行全体は、これは会場に来ておいてよかった、貴重なものを見られた、といろんな意味で思える試合の連続で、
ボクシングの厳しさを思い知らされたかと思うと、ボクシングってこんなに「呆れ」られるもんなの、とも思ったり。

まあいろいろありましたが、それは後日に改めまして、とりあえずメインについて。


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立ち上がりは、だいたい想像していたとおりの優劣が見えた、という流れでした。

ダビ・カルモナは思ったほど後退せず、構えて立った風でしたが、井上尚弥が右を強振し、
それがブロックに立てた腕をはじき飛ばすと、当然下がり始めます。
それでもまだ、多少、動かずに立ち向かおうとするところに、井上の右が飛び、初回終了。

やはり圧倒的な井上の強さ、鋭さの片鱗を見て、誠に無責任かつ勝手な「見物客」と化した私は、
思わず「違う違う、足で外すんや!」とカルモナの方に声を掛けておりました(^^)
この時点ではまあ、のんびりと見ていられたわけです。


しかし徐々に、爆発的な踏み込みで、身体全体の膂力を拳に一点集中する強打のバランスが、
井上尚弥の動きから消えていくのが見て取れました。
インタビューなどで、試合を無為に長引かせてあれこれ試す、という試合運びについて
否定的に語っていた井上らしからぬ闘いぶりに見えました。

3回あたり、ジャブで圧すが、やや正面に立ってしまい、カルモナの右が来る。
5回、井上がロープへカルモナを追い込み連打、しかし右に力点を置かず、左を強打したい風。

このあたりでもう、確信というか、デビュー三戦目の佐野友樹戦を思い出しました。
パンチの強弱が、右拳を痛めたまま闘ったあの試合と、同じ配分になっている。
右は見せかけ、軽打、誘いで、あくまで左フックを強打しようという狙い。

7回になると、さらにそこから後退して、ほぼ左ジャブ一本。ボディへのジャブも増え始める。
同道した友人が「これ、左もやってますよ」とポツリ。
確かにそうとしか見えず、相当厳しいことになっているのだろう、と思いました。


と同時に、この選手はなんと質の高いボクサーなのか、と感心もしました。
普通、あれだけの強打を持っていれば、その手応えを前提にしたスタイルに傾いてしまいそうなものですが、
井上尚弥は自らの最大の武器を失う苦境にあってもなお、世界1位の技巧派ボクサーを、
比較的余裕を持った試合運びで抑え続けていました。

9回、井上はほぼ左だけでカルモナをコントロール。
強打者ではないにせよ、当てるのは巧いカルモナなのに、ミスが目立つ。
10回は井上が改めてリズムを取りつつ、少し右を出す。弾くように打つのみで、打ち抜きはせず。
次はやや足を止め加減で、最終回は本来、必要のないラッシュ。
カルモナの戦意を断ち切ったかに見えたダウンでしたが、レフェリーが止めず、判定へ。


試合後は、誰の目にも明らかだった拳の負傷について、インタビューでは一言も語らなかった井上ですが、
試合後や翌日の報道を見ると、骨折ではないものの、相当な腫れ具合で、改めてその苦境が知れました。

骨折ではない、早期に練習再開も可能、という本人の言を信じるならば、かなり安堵した、というのが
正直なところでありました。
会場からの帰り道、彼の将来を案じて、あまり明るい気持ちではなかったのですが。
こうなったらしょうがない、これからは和製メイウェザーを目指し、全試合120-108で勝ってもらおう、
とかなんとか、くだらないことばかりを友人たちと言い合っておりました。


しかし考えてみれば、強打という最大の武器がなくとも、このレベルの相手にほぼ完封ペースで勝っているのです。
そしてその試合に我々は、表現の差こそあれ、ちょっとがっかりしたり、失望したり、残念がったりしているのです。

もし井上尚弥が、桁外れの強打を持たぬ選手だとしても、そのボクシング全体の質は非常に高いものであり、
ダビ・カルモナ相手に、破綻なく普通に勝てるレベルにある。そしておそらくは、多少苦戦はしても、
オマール・ナルバエスにだって勝てていたと見ていいし、ワレリト・パレナスに対しても、同じではないか。


拳の負傷は変わらず懸念されますし、完治は無理でも、今後の大一番での再発がないように祈るしかありませんが、
それでもなお、井上尚弥は改めて、その質の高さ、大器ぶりを示してくれたように思います。
そう思えば、今回の試合は、嘆いたり失望したりするには当たらない、堂々たる勝利であった、とも。


次戦はやはり、年末くらいにずれ込むのかも知れませんね。
ナルバエスとの再戦が有力、とのことですが、あちらがそういう選択をするのか否かは、まだ不明です。
拳が順調に治癒して、秋頃にやってくれれば...というのは、やはり無理でしょうか。
残念にも思いますが、やはり大事をとるべきところなのでしょうね。


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6 コメント

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Unknown (ててて)
2016-05-10 18:45:05
絶対に勝てる、とは思いながらも吐き気しそうに緊張しながら家で観戦してました
2R途中で鬼神の如き井上ラッシュが終わり「何か試してるんかな?」と思いながら見ていたら
途中から右が使えなくなり左も……。(5Rラッシュで右の仕様頻度が低かったのは見返しで気付きました)
パンチはいくつかか貰ってて、ステップでかわし、首を回してるんだけど、ガード下げてて心臓に悪い……笑。録画予約するつもりだった加納陸君の試合も忘れてしまう始末でした

カルモナが予想以上にやりにくそうで、さすがは世界一位だなぁと。(でもボディから崩せば決着は
もっと早かった?)世界王者になるのは並大抵じゃないと、松本亮君の結果と共に思いました
まあそれにしてもKOされないだけで相手にガッツポーズされる井上は完全に、海外評価でも別格なんでしょうね
遠征お疲れ様でした
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Unknown (neo)
2016-05-10 20:06:17
ハナから勝敗は決まっている、問われるのは内容という、試合前からあるやり難い状況。
相手はコレという武器は少なくとも、メキシカンらしく隙がなく、キャリア十分に鍛えられ、年齢的には最も伸び、身体的にも無理が利く世界1位。
上の状況だけでもアップセットが起こり得ると思われるのに、さらに拳の怪我というアクシデントが加わってもほぼ乱れず戦い抜くあたり、やはりこの選手は怪物だなあと感心しました。

攻めはやはり先々と位を取ってプレスしてから速攻強打が中心、従って防御はステップアウトやガードワークメイン。ただし足を使って多彩なジャブを突いたりサイドに動いたりボディワークを使ったり後の先を時に軽打したりとアクセントのつけ方も相変わらず見事でした。

技術的にはほぼ完璧ですが、やはりロマゴンとの比較のみは気になりました。
おそらく大半の時間は先々と位を取れるだろうが、そこからプレスがかかるのか。
今回もパワーロスしてから、当然ですが攻めもほんの少し鈍りました。
またロマゴンは先々と位を取られても苦にせず、
相手の攻撃を外し自分の距離にやすやすと入る技術があり、そこでの技術較べはどうなのか。
個人的には相手の呼吸を読んで、抜けた瞬間にスッと間合いに入っていると思うのですが、
これを理解し対応できるのか。
また、今回は6ラウンドで目立ちましたが、インファイトになった時、
致命打を食わない技術や耐久力はどうなのか。

妄想は膨らむ一方です。この様な選手が日本から出た事自体がありがたいと思っております。
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Unknown (R35ファン)
2016-05-10 21:19:57
尚弥様はその桁外れの強打がある意味最大の敵となってますね。今回負傷を抱えながら左とあの美しいステップワークで私は十分堪能しましたが最後にラッシュで見せ場も作るあたり、メイウエザーよりプロ意識は遥かに高いお方ですね。彼が日本ボクシング至上最高の宝である事を再確認出来た一日でした。
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Unknown (ナック)
2016-05-10 22:23:27
中継は4ラウンドから見て、後に録画で最初から見ました。途中から見たのでどうしたんだ今日は、いつものキレと迫力がない!と思いけっこう焦りました。被弾も割としていましたし。まあその後拳を痛めてたとわかり、痛めてもなおあのレベルのボクシングが出来るのは流石なのかなと思いました。ただやはり日本のボクシング史上最高の逸材ですから拳を痛める頻度が多いのがすごく心配です。
怪我をしないこともボクサーの実力であり商品価値でもあると思うので。試合数も年1、2回では少ないと思いますし。
井上選手には期待値が高すぎてもう色々心配になっちゃいます。世界的レジェンドになって欲しいですから!
返信する
Unknown (月庵)
2016-05-10 23:24:28
こんばんは。今回からハンドルネームを武衛から月庵に変える事にしました。今後ともよろしくお願いします。

八重樫の試合を見て、なんとも言い難い気持ちになった後の試合だったので、快勝を期待したのですが、結果としては井上本人も認める通り、両拳の負傷を考慮した上でも大きな課題が見える試合になりましたね。

これは、あるいは少数意見になるのかも知れないですが、正直今回の試合は見ていられなかったです。戦前の自然体発言とは裏腹に、明らかに倒す事しか考えていない、力みと気負い丸出しの強引な立ち上がり。前から思っていたのですが、井上はジャブと捨てパンチとコンビネーションの初動以外常にフルスイングしている印象で、早々に右をやってしまったのは間違いなくそれが原因だと思います。

今回私が井上の試合を見て感じたのは、さうぽんさんとは逆に『脅威のない格下相手だと力攻めに傾倒する』という印象でした。ナルバエス戦での、巧妙な上下・フェイントの揺さぶりをスピードとパワーで補強する、という智勇の均衡が今回の試合からは感じられませんでした。それが最も残念な所で、それ故にカルモナも次第に彼なりに井上に対応して粘る事が出来た感じです。スピードの違いと井上のタフネスであまり実らなかったものの、井上の攻撃に対しては的確な『合わせ』をしていますし。ボクシングインテリジェンスをフル稼働させ、クレバーに『ボクシング』をやり通したのは、私はカルモナの方だと思いましたね。それを暴力的なパワーとスピードで押し潰したというだけで。

周囲も本人も『天才ではなく秀才』と言っているが、本当はやっぱり天才型の感覚派パンチャーというのが井上の本質なのだろうなと思いました。ガードはブロッキングではなく目視での回避に多くを依拠し、際どい攻防をむしろ好んで行う節があり、相手に脅威なしと見ると雑になる部分もある。そして何より、異常なまでの闘争心で獰猛にKOを狙いに行く猛獣のような精神。それが今回の試合では全てが悪い方向に働いてしまった感があります。まるで雑なボクシングをしている時のドネアを見ているようでした。なまじ桁外れのフィジカル、スピードを持っているが故の陥穽でしょう。大抵の相手はそれで押し切れる訳ですから。真の天才、真の怪物になる上では、この雑味を削ぎ落し、洗練させる事が不可欠と思います。

そういう意味では、スパーリングも日本ではなく、名門ワイルドカードジムを筆頭とする、本物のプロスペクトや猛者が多数集う世界で行うべきと思います。なんなら移籍してしまうのも手です。マニー・パッキャオが東洋の猛者から世界の英雄になったのはローチに教えを乞うたからですし、錦織圭も世界中の英才達が集うIMGアカデミーでの、日本より数段進んだ技術・フィジカル指導や熾烈な競争によって世界トップクラスにまで上り詰めた訳で、国内という小さな箱庭で日本人やフィリピン人をダウンさせて満足させる段階ではないと思います。格下相手に何百ラウンドとやっても、もう井上にとって得るものはないのではないでしょうか。

Sフライ、バンタムこそ世界では空洞化していますが、スーパーバンタム・フェザーあたりの選手には、井上でも容易には思うに任せぬ猛者が数多く居る事でしょう。そうした人々と汗を流す事で、もう一皮二皮剥けてくれるのではないかと思うのです。スピードやパワーだけでは押し切れない相手も居るのだと知って、純粋なテクニックやパンチの精度(今回の試合、パンチの精度そのものはいつもよりだいぶ悪かったです)、ボクシングインテリジェンスを磨く事も出来るでしょう。拳のケアという点でも、少なくとも日本よりは進んでいるでしょうし。ゴロフキンなどあれだけテンプルに鉄拳ぶち込んでもびくともしないのですから。

日本・東洋のローカルスター井上ではなく、パッキャオの後継者イノウエになる為にも、真の世界水準のボクサーになる為にも、今回の試合はいい教訓・分岐点になったと思うのですが、果たしてそれを活かしてくれるのか。不安と期待が入り混じっています。以上長々と失礼いたしました。
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コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2016-05-11 07:26:41
>てててさん

見ていて不安になる場面もありましたが、井上が相手に手を出させて外しているという部分もあったと思いますね。試している、というよりは、それが井上の戦法であり、12ラウンズを通過するための選択だったのでしょう。
カルモナについては、意外だったのは粘り強さでしたかね。ただ、井上が思うように力を込めて打てていたら、たぶん保たなかったとは思いますが。一定以上の水準にあることは見せましたね。悪くない選手でした。他の日本同級の選手とやってみせてくれたら、よりその辺がはっきり見えるんじゃないでしょうか。
遠征は基本的には楽しかったです。ありがとうございます。終わった後が大変ですが(笑)

>neoさん

思うように打てない状況で、ひとつの型に頼らず、攻防ともに多彩なところを見せましたね。もし彼が「弱打者」であったとしても、かなりのところまで行ける選手ではないか、と思いました。当てねばならぬところで当て、外さねばならないものはしっかり外し、強打で脅かす以外にも様々な手があり、身の置き所を知っている。ロマゴンとの闘いで、このような負傷をしてしまったらさすがに厳しいかも知れませんが、もしそれがなければ、この土台の上にあの強打を思うさまに打ち込んでいける。さてどうなりますか。技術面では受け身になることは禁物でしょうが、それ以外に不安はほぼないでしょう。耐久力は打たれて効いたことがないので不明ですね。そういうことがないのが何よりなのですが。

>R35ファンさん

やむなしという状況での闘い方だったのでしょうが、それでも傍目に、心の揺らぎなどがほぼ見えず、一定以上の余裕を保って闘いきり、それに収まらず最後はダウンも取る。本当の一流とはこういうものなんでしょうね。プロ意識というのもそうですが、結局はプライドの問題、志の話なんでしょう。かつて渡辺二郎が「プライドのない奴はええわ。楽が出来るからな」と言ったことがありますが、真に世界の頂点に立とうというボクサーは、最後にはその力ゆえに、自分をより高みに追い立てねばならぬ宿命を背負っているんでしょうね。

>ナックさん

会場で見ていると、3回くらいから明らかに変わりましたね。身体の軸が明らかに後ろの方にずれましたから。負傷の頻度が多いのは心配ですね。往年の海老原博幸のようなことになるのかも、と最悪の想像をしましたが、今回は折れたわけではないらしいので、幸いでした。ただ試合数に関しては、もう多くは望めないのかもしれませんね。世界への飛躍を妨げないように、慎重にいってもらいたいです。

>月庵さん

HN変更、了解しました。今後ともよろしくです。
序盤、強打で相手を脅かしておいて、そこからどのような手が返ってくるのかを見て、次の手立てを考える、という井上の組み立ては、強者ゆえに許されたものであり、私はそれ自体を問題だとは思いませんでした。結果、負傷してはいますが、それが試合での打ち所の悪さか、練習段階での拳の使用過多か、またはその他に原因があるのかは、結局のところ傍目には伺いしれない部分かとも。
序盤の負傷の結果、その前に与えた威圧を「元手」に、様々な展開を模索していた、というのが私が見た今回の井上です。時に強引に見えたのも含め、様々な札を貼っていたなと。ブロッキングではなく目で外していたのも、結局そうせざるを得ないほど手が痛かったのではないでしょうか。試合後、カルモナは井上の負傷に気づいていなかったと報じられていますが、井上にとり、それを悟らせずに闘い終えることが何よりも大事だったはずです。その意味で私は、今回の井上の闘いぶりを前向きに評価したいと思います。

本場でのスパーリング経験という意味では、若き西岡利晃のそれを思い出します。私はクラレンス・アダムスとのスパー映像を見たことがありますが、まあ見応え十分の凄い内容でした。トップランクの有名トレーナーたちが口をそろえて「今まで見た日本人ボクサーで間違いなくベスト」と絶賛したそうです。これ以外にも世界上位の選手と数々のスパーをこなし、マス程度ながら若きメイウェザーとも手合わせをしたとか(これは西岡の方が「とにかく速い。えらく速い」と感心しきりだったそうです)。
この後に、西岡は対ウィラポン戦2敗2分と世界戦で結果を出せなかったですが、その後の大器晩成には、間違いなくこの頃の濃密なスパー経験が生きていたと思います。試合より先に米国での合宿トレーニングを行い、こうした経験を得てほしいというご意見には同感です。大橋会長がそういう構想を持っているかどうかは不明ですが、良い案だと思います。

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