昨日は西と東で試合があり、共にライブで見られるという一日でした。
しかしなんといってもメインと見るべきは、IBFバンタム級タイトルマッチの王座交代劇。
単に結果のみならず、試合内容にも驚きの多い一戦でした。
王者エマヌエル・ロドリゲスは、過去の対サウスポー戦同様、右ストレートをリードに使う。
フェイント入れて、拳を放り出すような打ち方ですが、このリードで相手を捉えてリズムに乗り、後続打に繋げるパターン。
ところが挑戦者、西田凌佑はサウスポースタンスの前足、右足の位置取りが巧く、ロドリゲスの踏み込む左足を邪魔する位置をキープ。
この前足による「制限」が効いて、初回、2回と、遠い間合いを強いられたロドリゲスは右を打つたび、前にのめる。
そして西田の右リード、長短様々に打ち分ける左、ときに右フック返しに繋がる連打も出て、西田がポイント連取の好スタート。
西田は調子自体良さそうな上に、ロドリゲスのキーパンチである右ストレートのリード、カウンターを共に封じる策を練ってきた、と見える。
これは良いぞと思ったが、3回からはロドリゲスの前足、左足の踏み込みが、少しずつ左側へとずれていく。
この左斜め前への踏み込みで、右ストレートが当たる間合いを探し、角度もつくようになり、西田がこのパンチを受け始める。
ロドリゲス、さすがに対応が早い。
西田、この良い感じをせめて4回終わるまで続けたかったなぁ...さてこの先どうなるか、と思っていた4回からは、もう試合前に思い描いたあれこれが、全部無に帰すような展開になっていきました。
西田がワンツーを上下に散らし、近い距離で打ち合う中、ボディ攻撃が決まる。
ロドリゲスが少し効いたかと見えたのち、西田の左ボディブローがまともに入って、なんとロドリゲスがダウン。
かなりダメージ甚大で、立ったが足が止まっている。西田追撃し、ロドリゲスそこから打ち返す。激しい打撃戦に突入。
4回は西田が攻めきったが、5回、ロドリゲスは苦境にあっても強さを見せる。ボディ打たれても堪え、反撃の左右フックには迫力がある。
6回も西田のボディ攻撃は良いが、ロドリゲスの右リードも再三決まる。
西田はボディ打ちたいのか、接近戦で行くと決めたのか、もう距離や間合いどうという部分では、序盤の優位性を捨てている。
7回、ロドリゲスはさらに闘志をみなぎらせて打ち合う。右アッパー決める。しかし西田も左アッパーでお返し。
ロドリゲス、ワンツーで西田を一歩下がらせる。さらに激しく打ち合うが、西田のボディがまた効果を上げる。
8回も激しいラリー。西田、ボディから上へ返す連打が決まる。ロドリゲス、小さい左フックのカウンターが出るが、もらった西田が構わず左ボディを伸ばす。
9回、西田が打ち合いを挑み、ボディ決める。ロドリゲス攻められてスリップ。見るからにきつくなっている。足元が乱れる場面も。
10回、西田は左ショート決める。ロドリゲス粘るが、動きが止まりかけ、もう棄権するんではないか、と一瞬思ったほど。
西田さらに出るが、ちょっと下ばかり狙いすぎ。上下に攻撃を散らし、ときに上に強打、或いは「鋭打」が欲しい、と見ていて少し歯痒い。
しかしこちらも精一杯なのだろう、という感じ。
11回、激しい消耗戦。ロドリゲスがリターンのコンビでヒットを取る。ややロドリゲス。
最終回、互いに疲れとダメージ抱えながら打ち合い、かなわず休み合い、また打ち合う。ラストにヒットをとった西田の回か?
採点は4回にダウンがひとつあったので、13ポイントを取り合う形。
8対5が二者、一人は10対3で、西田が3-0判定勝ち。
さうぽん採点は、西西ロ西、ロロロ西、西西ロ西、8対5で、合計は二者の採点と同じでした。
試合としては、わずか9戦目の西田凌佑が、世界のボクシングファンを驚かせる殊勲の星を挙げた、というものでした。
しかし、結果だけで無く、その試合内容、経過もまた、驚くべきものだったと思います。
見ていて、序盤のうちはまだ、両者の過去の試合を見てきて、こういうことが起こるだろう、と思う範囲に収まる攻防でした。
しかし4回、西田のボディ攻撃とダウンシーン、そしてその後の西田が見せた、ショートの距離中心でのヒット・アンド・カバーによる試合展開は驚きでした。
大きく動いて外す、見てわかりやすいヒット・アンド・ラン戦法ではなく、もっと動きの範囲を狭めたもので、当てて外す展開で競り勝てたら。
それが、試合前に想像した西田凌佑の勝機でしたが、実際に起こったことは、足で距離を作る防御でなく、ガード、ブロックと上体の動きで防ぎ、接近して打ち勝つという展開でした。
もちろん、ロドリゲスがボディ攻撃によるダウンで被ったダメージは甚大なもので、それがロドリゲスの戦力を大きく削いだから、こういうことも出来たのでしょう。
しかし、ダメージを堪えて打ち返すロドリゲスのパンチには、まだ充分に威力も感じました。
それに対し、変に動いて外しにかかるのでなく、ボディ攻撃の手応えを信じて、打ち合って勝つというのは、かなりの胆力と、技術体力の充実なくば、不可能だったでしょう。
上記したとおり、下狙いが見え見えなところがあり、もっと上へのパンチを強く、鋭く打っておいて、また下へ、そしてまた上へ、とやれんものか、これだけ優勢なのに...と思わなくもなかったですが、考えてみればデビュー9戦目で、相手があのロドリゲスなのですから、さすがに欲張りすぎかもしれません。
その辺はまた今後の課題でしょうが...試合後のインタビューなどを聞いても、大阪にもこんなに上品で謙虚な「ええ子」で、なおかつ強いボクサーがいるんですよ、という良いアピールになるようなもので(笑)関西ボクシングのイメージアップに一役買ってくれそうな、新チャンピオンの誕生でした。
その闘いぶり、勝ち方は、こちらの想像を上回るものでもありました。脱帽し、拍手したいと思います。いや、お見事でした!