いきなり出てきて、すんなり勝つ。
あれこれ凄い凄いと言い募るヒマさえなくて、その凄さが伝わっているのかどうか心配。
今日の中谷潤人についての感想は、簡単に書けばこんな感じです。
初回から中谷、右リードで厳しく突き放し、外から内から、角度を変えた左を打ち分け、初回終盤にはもうアンヘル・アコスタの腰を落とさせ、鼻血も流させる。
2回、中谷が左ボディストレート、上にフック。さらに左でまたアコスタの腰が落ちる。
ドクターチェック入る。鼻血で?目に血が入るでなし、こんなもん休憩やないのか、と最初思ったが、出血の酷さのみならず、骨折か何かの可能性を見ているのか、やたら長いチェック。
この回終盤、攻め込まれたアコスタがアッパー気味の右をヒットするが、それ以外中谷が上下ともにヒットでまさる。
3回、上下ともに、中谷が外からのパンチを打っておいて「本命」はインサイド、という攻め。左ストレートや右アッパーが、アコスタのガードを通過する。
二度目のドクターチェック入る。この回終了後のインターバル、レフェリーはアコスタのコーナーを注視している。
結局4回、30秒ほどで試合が止められ、TKOで中谷勝利となりました。
早々から中谷が厳しく距離を掴み、内外の打ち分けで先制。
アコスタは反撃しようと接近するが、これが中谷のズルいとこで(笑)見た目と違って、実は全然接近戦が嫌じゃない。むしろ得意かも。
アコスタも手数は出すが、ヒット&カバーの応酬で打ち負け、要所で直角にボディを突き立てられてしまう。
外から打っておいてインサイドへという中谷の打ち分けにも対応しきれぬまま、酷い出血のため(他にも原因があった?)TKO。
中谷から見れば圧勝、アコスタから見れば惨敗。試合後、ミゲル・コットの苦い表情が全てを物語る、という試合でした。
凄い凄いと言いたいのは、やはりプロとして初の米国リング、そしてタイトル初防衛(メキシコで三浦隆司が勝っていますが、アメリカで世界タイトル初防衛は、今日の中谷が初だそうですね)という試合にもかかわらず、上記したように、中谷がいつも通り、自分の良さをすんなり出して勝った、その一点です。
中学生のときから、ロスでトレーニングを重ねてきた来歴は確かに、従来の日本のボクサーの枠を越えたものがありますが、さりとて初の試合ですし、屋外で夕刻の試合、現地調整でフライ級への減量も楽ではなさそうで、そこに緊張や何や、となれば、本来の力から何割か目減りした状態で闘わざるを得ないのでは、と危惧していたのですが、そんなものは終わってみれば徹底的に無意味でした。
攻防の精度と多彩さ、距離構築の厳しさにおいて、これほどに差を付けた内容を見ると、もしアコスタの出血がなく、彼の逆襲があったとしても、最終的にはクリアに中谷が勝っていただろう、と。贔屓目なしに、そう思わされました。
今回の試合は、5月に予定されていた村田諒太の、東京での試合のセミに入る予定だったものですが、終わってみれば、海外で闘うことになったことは、幸い以外の何物でもなかった、と思います。
名の知られた元王者に、上昇期にある王者が、その良さを存分に出して勝つ、その様を彼の地のリングで「実際に」見てもらえた。
海外のリングで闘う選手が、王者が増えた昨今でも、実はなかなか無いパターンだったりします。
今回、中谷潤人はその若さ故に、単なる実力のみならず、さらなる飛躍の可能性を見せつけたと言えるでしょう。
トップランクの総帥アラムや幹部たちも、それをしかと見たでしょうし、米国のボクシングファンもまた、同様だと思います。
しかし、これほど様々に意義深い、大一番の勝利であるにもかかわらず、中谷潤人は改めて、本当にいつも通り、涼しげな、他人事みたいな顔で、10時開始のWOWOW生中継、その冒頭にいきなり現れて、すんなり勝って「しまった」ような風情でさえありました。
なんか、風情というのか情緒というのか、本当にこのボクサーは、色んな意味で底が知れないというか、奥深いというか...一筋縄ではいかん、というのは新人王戦のときから変わらぬ印象ですが、そのスケールアップがあまりに着実過ぎて、見てるこちらがついていけない、という感じさえします。
何しろ、中谷潤人は、そのキャリアを決定づけるかもしれない、過去最大の勝負に勝ちました。
その評価は、名声は、一気に数段飛ばしで上昇し、今後は試合の度に、これまでにはないレベルの期待と注目が集まるでしょう。
しかし、彼なら当面の間、そういう諸々さえも、変わりなく平然と、涼しげな表情のまま、乗り越えていくのではないか、と思います。
見事な勝利でした。中谷潤人に拍手です。
国内外問わず、試合以外のところでいろいろ大変な話題ばかりですが、良い物を見せてもらって、かなり気分が明るくなりましたね。
=================
と、ご機嫌さんで書き終えればええようなものですが、さすがに、こら酷いでんな、と言わざるを得ないのが、メインの判定。
試合挙行について云々、というのもありますが...ジャブ打たれまくって、空振りばっかりしとる方が勝ち、と言われてもねえ。
知らん間にルール変わったんですか、という、ツッコミだかボケだかわからんですが、まあそんなことしか言えませんね、もう。
本当に、王国メキシコの威信も地に落ちた、としか言いようがありません。
というか、元々そんなもんあったんかどうか疑わしい、という気分にさえなろうかというものです。
試合の合間にカネロが来て、インタビューに応えてましたが、同時通訳の方も、あれこれ取捨選択しながらの仕事は難しいと見えて、聞いてて何言ってんのか全然わかりませんでした。
実況解説の皆さんも、変な取り繕いせないかんもんで...ていうか、何であんなことする(させる)んやろう、と疑問です。
見てるこっちは、解説者がその見識でもって、自分の見解を述べる様を見たいし、それを聞きたいんですけどね。
それが有料放送の値打ちというものでもあろうに、と思うんですが...なんか、妙な枷というか縛りというか、そういうものが見え隠れして、これまた嫌な気分になってしまいました。