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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

“LAST AND FIRST MEN” / Jóhann Jóhannsson & Yair Elazar Glotman

2020-05-03 16:13:31 | art music

□ Jóhann Jóhannsson & Yair Elazar Glotman / "LAST AND FIRST MEN"

>> https://DG.lnk.to/johannssonLAFM
>> https://www.deutschegrammophon.com/en/artists/johann-johannsson

LAST AND FIRST MEN
Novel by Olaf Stapledon
Music to the film by Jóhann Jóhannsson
Music by Jóhann Jóhannsson & Yair Elazar Glotman
Vocals, Cello, Percussion: Hildur Guðnadóttir
Budapest Art Orchestra

Director: Jóhann Jóhannsson
Writers: Olaf Stapledon
cinematographer: Sturla Brandth Grøvlen
Narrator (voice): Tilda Swinton



“The movie is a testament to the strength of wisdom more powerful than death itself.”

“A dazzling vision of the apocalypse…one of the most original sci-fi movies in recent memory. Hypnotic.”

“A Breath taking requiem for the final human species in civilization.”


>> tracklisting.

1. Prelude
2. A Minor Astronomical Event
3. A Move To Neptune
4. Physical Description Of The Last Human Beings
5. Architecture
6. Supreme Monuments
7. Telepathic Unity
8. Childhood/Land Of The Young
9. The Navigators
10. The Sun
11. A New Doom
12. Task No.1: The Scattering Of Seeds
13. Task No.2: Communicating With The Past
14. The Last Office Of Humanity
15. Slow Destruction Of Neptune
16. The Few That Prevail
17. The Last Men
18.Remembrance Of The Past
19. The Universal End
20. Epilogue

Label; DG Deutsche Grammophon
Release Date; 31/03/2020
Cat.No: 4837410
Format: 1xCD, 1x Blu-ray Disc


2018年に世を去ったIcelandの現代作曲家、ヨハン・ヨハンソン。彼にとって初の映像監督作品となるはずだった”Last and First Men”は、1930年にSF作家Olaf Stapledonによって刊行された同名のサイエンスフィクション、『最後にして最初の人類』のテキストと、旧ユーゴスラビア共産圏の遺物である巨大石造建築群Spomenikを映したモノクロームの高精細フィルムからなる、気宇壮大なミュージック・インスタレーションである。

ヨハンは当作品の撮影中に亡くなり、半分は未完成となったままだったフィルムとサウンドトラックを、兼ねてより作品に参加中であったイスラエル人アーティストYair Elazar Glotmanとノルウェーの撮影監督Sturla Brandth Grøvlenの偉大な仕事によって完成を遂げた。

生前のヨハンが同時並行して作曲していた映画のための音楽、とりわけ異星人との交流を描いた『Arrival (メッセージ)』の作風に寄せている部分が大きく、”Last and First Men”の書法は冷たく不気味な宇宙と時間の鳴動を擬えたような通奏低音と、プリミティブなドローン、倍音のコーラスと機械的な信号音、女優ティルダ・スウィントンによる原作小説の朗読から構成されている。


ブルータリズムの硬質で剛強な石造建築群は、共産圏の遺した戦争記念碑であり、彫刻家たちは戦争犠牲者の魂と自由の尊さを、その共同意識の集合体とも言うべき観念的な形象に切り出している。ヨハンはスポメニックの写真集を出版したフォトグラファーJan Kempenaerにインスパイアされ、当作品の着想を得たという。


“We can help you, and We need your help.”

20億年の時を経て異形の進化を遂げた人類最後の世代が、海王星の片隅でひっそりと絶滅の時を待っている。その最後の人類と、最初の世代である我々との交信を描く当作のテーマは、オシロスコープを用いた対話シーンによって象徴的に描かれている。


“But, in certain cases, some feature of a past event may depend on an event in the far future.”

”In certain rare cases, mental events far separated in time determine one another directly.”


奇しくも、ヨハンにとって遺作となってしまった今作の完成過程においては、既に世を去っている作曲家と、現世に取り残された制作陣との『意志の呼び交わし』とも呼ぶべき偉大な工程に見舞われた。作曲を受け継いだヤイール・エラザール・グロットマンは、彼の近年の作曲書法を研究し尽くし、さらに周辺のポスト・クラシカルのアーティストに助言を仰いだが、先鋭的な意欲に溢れていた本作の解釈は当然困難を極める。

然し、この過程そのものが、本来ヨハンが構想していたコンセプトをこれ以上ないほど体現するに至る事は、皮肉かもしれないし、幸運だったのかもしれない。彼の死後、アイスランドの家族の元へ送り返されそうになっていたハーモニウムも演奏に用いられているという。


白黒の陰影に切り出された動かざる巨大石造群は、霧の中で無慈悲な時の流れに朽ち果てようとしている。その様を傍観し、沈黙したままの空へと向けられていくカメラワーク。咽び泣くように鳴り響く空洞音。悲壮になりすぎず、冷たく突き放したストリングスの旋律に、フィルムとサウンドのノイズが、かけ離れているはずの時間軸の共時性を奏でる。これはヨハンにとっての集大成ではなく、『涯て』なのである。


“After the End, events unknowable will continue in a time much longer than that which will have passed since the Beginning.”

20億年の進化で高度な文明と意識の共有を可能にした最後の人類は、その起源である我々に干渉を試みている。循環的シンタックス、構造的因果における記憶と喪失。そこに違う意味と可能性を与えられるのなら、失われようとしている未来へのレクイエムである”Last and First Men”は、一つの時代を生きた作曲家の見た夢のように、あの草原に佇む石碑のように、屍に託された希望への祈りと姿を変えられるのだ。