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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

Pēteris Vasks / "Pater Noster"

2007-11-25 18:27:14 | art music
Pater_noster



□ Pēteris Vasks / "Pater Noster"

Dona nobis pacem

Release Date; 31/10/2007
Label; Ondine
Cat.No.; ODE1106
Format: 1xCD

>> http://www.ondine.net/index.php?lid=en&cid=2.2&oid=3220

>> tracklisting.

I. Pater Noster (1991)

01. Pater noster

II. Dona nobis pacem (1996)

02. Dona nobis pacem

III. Missa (2000,2005)

03. Missa
04. Gloria
05. Sanctus
06. Benedictus
07. Agnus Dei

Latvian Radio Choir
Sinfonietta Riga
Sigvards Klava, conductor
Recording: Riga, St.John's Church, 01/2007



?"And one more important theme - which is the absolute void of harmony in our lives, our world. Maybe music should serve to remind that there is such stability - there is that triad."
                  -Pēteris Vasks


バルト海地方の冷涼とした環境と、厳しく悲劇的な歴史を生き抜いてきたラトヴィアはアイズプテ出身の作曲家、Pēteris Vasks。静謐と激情の二面性を彷徨う作品性は、現代音楽家として古典に回帰したペルトとも一線を画す、西洋音楽体系のエッセンシャルの透徹した凝集であり、とりわけ今作のような宗教作品集では、まさに「祈り」に主眼をおいた、時代や信仰すら選ばない純粋な『希い』とエモーションの結露が見て取れる。


第二、第三交響曲やチェロ協奏曲に見られる通り、彼は弦楽を用いた悲壮的な旋律が特徴で、ここをご覧になっている方々には、例えばバーバーのような新ロマン主義、クレイグ・アームストロングようのあしらいが目立つと言えば伝わりやすいだろう。鬼気迫るようにさえ切実に救いを請う"Dona nobis pacem(我らに平安を与えたまえ)"にしても、もともと作曲を嘱託していたラトヴィア放送合唱団がオルガン版だけではなく、こうして弦楽版を収録するに至るのは当然な流れだったと言える。

同じくクリャーヴァ、ラトヴィア放送合唱団とヴァスクスが組んだ、リトアニア生まれのポーランドの詩人Czeslaw Miloszの詩を扱った"Mate Saule"では、静寂で神秘的な合唱曲とオルガン伴奏の最後を、この荘厳な"Dona nobis pacem"で締めくくるという劇的な構成となっている。

先にバルト海地方の合唱曲の集成である"Baltic Voices"に収められた"Dona nobis pacem"のヒリアー版は、和音をややシンプルに絞り、女声の透明感を活かした美麗なコントラストが素晴らしかったが、ここに収録されているクリャーヴァの解釈は、もっと空間的な広がりに富み、重層的な混声とストリングスが、まるで教会を震わせる如く豊かな反響に包まれる。


第一曲を飾る主祷文"Pater Noster"は、彼の初期の作風や第三交響曲にも通じる、ゆらゆらとたゆたう幽玄で掴みどころのない霧のような、しかし何処か切ない寂繆感を伴う楽曲。主を父として崇める"Pater Noster"の内容に呼応するが如く、ヴァスクスも自身の父親による問いかけがきっかけとなったとのこと。アイズプテで幼少の頃から親しんで来た『宗教音楽』への回帰と想いが込められている。


ミサ通常文を扱った"MISSA"の5曲では、詩型と楽曲構造における彼の基本姿勢が如実に現れている。"Qui tollis peccata mundi"、"Dona nobis pacem"の句ではラテン語のイントネーションと響きを重視し、"Kylie eleison"では絶望の瞬間を、"Christe eleison"では一時の平安、"Sanctus"では溢れ出る幸福感を、つまり、それぞれの象徴的な句に対応して、楽曲そのものが、その語感や響き、印象と文脈に支配される歌詩先行型の構造を伴った、聴く者の感情に非常に強く訴える共時態である。


前曲"Dona nobis pacem"の流れをそのまま組むようにして紡がれる"Missa"は、上述の理由から、ところどころに類似したフレーズのユニットが散在し、"Gloria"の終結部は"Dona nobis pacem"の再解釈とも受け取られかねないほど印象が類似しており、終曲"Agnus Dei"でも同様である。"Sanctus"はオルフを彷彿とさせた。僭越ながら正直な感想を申し上げると、"MISSA"については、その全楽曲が"Dona nobis pacem"の拡大再解釈のように感じられてならない。しかしながら、霧を彷徨うドミナント和音、魂を震わすひっかけるような特徴のストリングスや、階調を明瞭にする不協和音、ミニマル様の構造面では共通点が多いものの、アレンジ自体はトリルなどの装飾音や東洋音階を節々に効かせるなど、もっとフレキシブルで複雑化した意匠の進化を聴き取れる。"Dona nobis pacem"から連なるように聴けるのも意図的な構成かもしれない。


最後に、今回オーケストラを務めたシンフォニエッタ・リガは、昨年開設されたばかりの34名から成る若手管弦楽団で、伝統音楽の継承と、厳選された現代音楽の啓蒙に努めていく方針とのこと。季節ごとにリガを中心にラトヴィア全土でコンサートを行うとのことで、バルト海地方の更なる音楽文化の発展と土壌作りに期待をかけたい。