Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

経営者の目線と研究者の目線

2009-06-18 23:39:34 | Weblog
北中さんから新著を献本いただく。この本は主な読者を大学生と若い社会人と想定し,経営学のさまざまな分野,経営戦略,マーケティングから人事管理,会計,財務,生産管理,SCM などをわかりやすく解説している。これだけ広い範囲を網羅できるのは,著者がいくつかの超優良企業で枢要なポジションを経験してきたことが大きいはずだ。仮想的な「ゼミ生」に語らせたり,小説や映画を参考文献として紹介したりと,表現上の工夫もなされている。

プレステップ経営学 (PRE-STEP 5)
北中 英明
弘文堂

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ぼく自身は,経営学を網羅的・体系的に学んだことがないので,経営学の各分野で初歩的とされる知識がすっぽり抜けていることがあり得る。そういう人は意外と多いはずで,もともと想定された読者以外にもこの本から恩恵を受ける人が少なくないはずだ。あるいは,高校生が読んで,目的意識をもって商学部や経営学部に進学してくることだって期待できる。たとえ高校生でも包括的に経営を眺めることになれば,一瞬であっても経営者の目線に立つことになる。

昨夜,前の前の職場の「同期」3人と久しぶりに飲んだ。そのうち2人は「社長」である,ということもあってか,不況下で研究開発投資と利益のバランスをどうとるかが論じられ,M&A とかデューデリとかいったことばが飛び交った(という高尚な?話ばかりではなかったが・・・)。特定分野の専門家としてキャリアを積んできたとしても,企業のなかで然るべき立場になれば,「経営」の目線を持つようになる。大学の研究室にこもっていると,そうした成長はない。

今日,Cマーケの授業では消費者行動について講義した。選択モデルの前段として無差別曲線の説明をしたとき,一部の学生たちの表情に数式への戸惑いが現れた気がした。同じ学部の経済学の授業でもこうした概念は講義されているはずであり,そちらでは避けて通れない話題ではあるものの,マーケティングではどうか・・・。しかし,クリエイティブな消費を論じるためにも,どうしても非補償型選好モデルに触れる必要があるという思いがあって,あえて強行した。

こういう知識は,現場でマーケティングの仕事をしたり,さらには会社を経営していくうえで「全く無用」とはいわないまでも,知らなくても困らないものだ。どちらかというと,消費者行動の理論として「面白い」のであって,研究者の遊びでしかない。ぼくはそれが好きだし,同じように面白いと感じる学生と出会いたくてそんな話をする。「無用の用」・・・ こんな知識が意外と役に立つだと主張してもよいのだが,ときどき,これでいいのかとビビることがある。

 実務家向けのセミナーも含め,まだまだ改善すべき点が多い・・・。

ということがありながら,まずは来週の「死のロード」を乗り切らねばならない。