「VOICE」7月号に,『サブリミナル・インパクト』の著者,CALTEC の下條信輔氏へのインタビューが掲載されている。下條氏の探究がどのような経緯をたどったのかがわかって,大変興味深い。それはともかく,そのなかでニューロエコノミクスとは何かと聞かれた下條氏が,以下のように答える箇所がある。
しかし,Hedgcock and Rao 2009 のように,マーケティングの学術誌に載るような脳神経科学的研究は,むしろ認知科学の研究といったほうがよいもので,実務にすぐ役に立つようなものではない(もちろん「お約束」として,論文の最後に manegirial implication が書かれているが)。その意味で,それらの研究はニューロエコノミクスに近い。
行動経済学がさかんになる以前は,消費者行動の心理学的・認知科学的研究はマーケティングの研究者たちが担ってきたはずだ。そのことをもっと自慢していいはずだが,なぜか慎み深い。ただ,行動経済学やニューロエコノミクスが発展すると,そうした成果は一気に吸い取られ,かき消されるかもしれない。
ともかく,下條信輔著『サブリミナル・インパクト』は消費者行動研究者にとって必読の書である。すぐには役に立たないことこそ役に立つと信じて,マーケティング研究者はもっと基礎的なことを研究すべきだろう(そういうお前はどうなんだ!という声がどこからか・・・)。
まず、ニューロエコノミクスとニューロマーケティングを分けて考える必要があります。ニューロマーケティングは、脳科学を使って売っちゃいましょう、という話。そのためにはどうすればいいかという理論研究を含みます。そのあと下條氏は,同僚でもあるキャメラーの研究を引きながら,ニューロエコノミクスとは経済学で仮定される概念,たとえば効用について脳科学的に測定しようとするものだと述べる。つまりそれは,人間の経済行動を脳のレベルで理解しようとする,純粋に学術的な研究だと。この話になる前に,下條氏は脳研究の現状に触れて,
ニューロエコノミクスは、それとは全然違う。
本当は、一見役に立たないような基礎研究に世の中に役立つ本質が隠されている。役に立ちそうな話はたいてい潰しが利かない。そういうまやかしを見抜かないとダメだと思います。と述べている。これらの発言を重ね合わせると,すでにビジネス化されている「ニューロマーケティング」に対して,下條氏は批判的であるように受け取れる。確かに,消費者の脳を fMRI で測定すれば,すぐにマーケティングに役立つ知見が得られるといった拙速な議論に,専門家として眉をひそめたくなるのは当然だろう。
Voice (ボイス) 2009年 07月号 [雑誌]PHP研究所このアイテムの詳細を見る |
しかし,Hedgcock and Rao 2009 のように,マーケティングの学術誌に載るような脳神経科学的研究は,むしろ認知科学の研究といったほうがよいもので,実務にすぐ役に立つようなものではない(もちろん「お約束」として,論文の最後に manegirial implication が書かれているが)。その意味で,それらの研究はニューロエコノミクスに近い。
行動経済学がさかんになる以前は,消費者行動の心理学的・認知科学的研究はマーケティングの研究者たちが担ってきたはずだ。そのことをもっと自慢していいはずだが,なぜか慎み深い。ただ,行動経済学やニューロエコノミクスが発展すると,そうした成果は一気に吸い取られ,かき消されるかもしれない。
ともかく,下條信輔著『サブリミナル・インパクト』は消費者行動研究者にとって必読の書である。すぐには役に立たないことこそ役に立つと信じて,マーケティング研究者はもっと基礎的なことを研究すべきだろう(そういうお前はどうなんだ!という声がどこからか・・・)。
サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)下條 信輔筑摩書房このアイテムの詳細を見る |