Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

「身体」が選好する

2008-12-12 14:31:39 | Weblog
こんな本が出る日を待っていた。それが,こんなに早く来るとは…。

サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)
下條 信輔
筑摩書房

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著者の下條信輔氏は現在,カリフォルニア工科大学の教授で知覚心理学,認知神経科学を研究されている。頭脳流出の「代表例」の一人としてメディアに取り上げられたこともある。最近では,同じ大学の Camerer などと,ニューロエコノミクスの研究にも加わっているという。本書では,マーケティングや政治に関する論考もあり,題名が示すとおりインパクトの強い啓蒙書である。

しかし,ぼくが興奮したのは,序章でいきなり取り上げられるのが,選好形成の問題だからだ。被験者に顔写真の対を見せ,どちらが好きかを選ばせる実験で,選好判断が示される以前に好きな対象への視線の集中が起こることが示された。この「視線のカスケード現象」は本人に意識されておらず,対象を顔から幾何学的な模様に変えても発生する。

さらに,視線を統制することで,選好形成をある程度操作できることが示されたのだ。これは,周到な統制実験によって,単純接触効果と区別されることもわかった。そうか… AIDMA, AISAS, AIDEES といったコミュニケーション・モデルがつねに attention から始まることに疑問を感じてきたが,そこには必然性があったわけだ。

下條氏はそうしたメカニズムの進化的な基盤を論じ,第1章で音楽への選好がなぜ生まれたかに論を進める。ここまでで第1章! しょっぱなからメガトン級の爆弾が炸裂して,僕の頭脳は喜びでへろへろになる。ザイアンスがゴキブリの行動に「社会的認知」を見出した実験など,小ネタも一つひとつインパクトが強すぎる。

すごい本だと思う。今後の自分の研究に,間違いなく多大な「意識された」インパクトを与えるだろう。多くのマーケターにも読んでほしい。ニューロマーケティングといわれるものを一時の流行として消費するのではなく,深い重要な部分を学ぶために。

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