Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

1Q84 とハマー

2009-06-03 23:30:06 | Weblog
お昼休みの三省堂書店では村上春樹の新著『1Q84 BOOK 1』と『1Q84 BOOK 2』がともに平積みされていたが,夕方には『BOOK 2』だけになっていた。朝のワイドショーによれば,事前に何の予告もなく本屋に大量に陳列するという戦略が当たって,各地で売り切れ続出だという。もちろん,元々多数のファンを持つ作家が久しぶりに新著を出し,先日のイスラエルでのスピーチが感動を与えたという背景があってのことだ。

だが,どうにも不思議なのが『BOOK 2』だけが大量に「売れ残って」いることだ。みんな,どうして2冊合わせて買わないのだろう? 村上春樹の新作が出るのをずっと待ち望んでいたファンであれば,そうするのが自然な気がする。出版社もそう考えたので,2巻ともほぼ同じ数だけ刷ったのではないだろうか。ということなら,計算が外れたことになるが,それともそこには,隠された意図があるのだろうか。

明日以降,書店で『BOOK 1』が小出しに陳列されるとしたら,稀少性を煽る戦術の可能性が高くなる。その場合『BOOK 2』だけが売れ残るのを許しているのは,両方とも売り切れてしまったら本屋からスペースがなくなり,消費者の目に触れなくなるのを防いでいるのだろう。さらに『BOOK 2』しかないという不完全な状況を作り,消費者がそのギャップを埋めるべく,もう1冊を渇望するよう仕掛けていると。

 だとすると,見事な心理操作である。囮(decoy)効果の一種といえるかもしれない。

ちなみに,以下のリンクからわかるように,amazonでは「通常2~5週間以内に発送します」とのことで,やはり品薄状態にある。天下の村上春樹の本だ,世のなかからなくなるはずもなく,そのうちいくらでも手に入るはずだ。しかし,そういう自分でさえ,今度本屋で見かけたら衝動買いする可能性がゼロではないと正直に告白する。意思決定を前倒しさせる戦略・・・ そんな論文を読んだことがあったなあ・・・。

1Q84 BOOK 1
村上春樹
新潮社

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もう1つ,今日気になったニュースといえば,

GM、「ハマー」売却で中国企業と暫定合意

である。ハマーというと,芸能人が愛する高級SUV,というイメージがあるが,GM から中国の「四川騰中重工機械」に売却されそうな勢いである。ここ数年,中国のレノボが ThinkPad を買収したり,インドのタタがジャガーを買収したりと,日本以外のアジア企業が欧米の有名ブランドを買収する動きが目立つ。それによって,元々そのブランドが持っていた価値はどうなったのか,誰か研究していないだろうか?

ふつうに思い浮かぶのが,ブランドイメージの原産国(Country-Of-Origin)効果を研究する人々だ。今回のような国境を越えたブランドの移転は,恰好の研究対象であるはずだ。ただし「中国企業が所有するハマーをどう思いますか?」みたいな質問を消費者に投げかけても,今後の予測には役立たない。これから実際どんな情報が消費者に流れ,それがどう知覚され選好につながるかは,全くもって不確実だ。

どうなるかよくわからないが,成功すれば歴史的といってもよい事象が,いま目の前で進行している。だから,それをひたすら追いかけていくことで,歴史的な実験の目撃者になることができる。ただ,ぼくにはその時間も感性もなく,ぜひどなたか,エネルギーに満ちあふれた若き研究者にお願いしたいのだが・・・。