日経ビジネスオンラインで,早稲田大学の森川友義氏による「進化政治学」に関するコラムの連載が始まった:
「進化政治学」で選挙が見える
初回は「政治と浮気、同じメカニズム」というテーマである。政党支持を配偶者選択だとみなすと,政権交代は「浮気」になる?ふうむ・・・ ぼく自身,消費における選好形成を性淘汰(つまるところ配偶者選択)のアナロジーで理解できないかと考えたりするので,学べるところは大いに学びたい。今後,この連載からどんな刺激的な話が出てくるか,これからが楽しみである。
この連載が「浮気」の話から始まることからわかるように,進化政治学は「進化心理学」と関連が深いようだ。進化心理学は,人間の心のメカニズムが数十万年に及ぶ人類の進化プロセスで形成されたと考える。つまり,人類史の大部分を占める狩猟採集の時代における適応戦略が,環境は大きく違うが,時間としてはまだ「短い」現代人の行動を支配しているとする。
人間の感情の働きや無意識的な行動について,こうした説明はそれなりに説得力がある。しかし,ある行動様式が大昔に適応的であったかどうかを実験や観察データから検証できないので,それ自体の反証可能性はなく(派生した仮説の反証は可能だが),よくできたお話しといわれかねない。進化ゲーム論的な解析で支持されるなら,さらに説得力を増すだろう。
面白いのは「進化経済学」が「進化心理学」とは違う道を進んでいることだ。たとえばネルソン-ウィンターは,ダーウィン流の進化論的ロジックを企業の限定合理的な行動に適用するものの,原始時代に形成され,遺伝的に継承されてきた人間の心性を考えようとはしていない。ただし,行動経済学的な実験を経由して,進化心理学のアイデアが流れ込む可能性は否定できない。
進化心理学から学ぶべきことは,ダーウィン的な進化には,人間の目から見て超-長い時間がかかる点だ。経済学,経営学,マーケティングなどの「進化モデル」では,ときおりタイムスケールの混乱が見られる。1つの製品の戦略について,企業が遺伝アルゴリズムで学習するなどという設定がそうだ。意思決定を何千回も繰り返すのに,どれだけ時間がかかるかだろうか・・・。
その意味で,進化における淘汰の対象となる企業経営者や消費者の「遺伝子」=ルーティンは,短くとも十数年は持続する基底として仮定すべきではなかろうか。つまり,個々の製品の属性とか価格設定とかではなく,アーキテクチャとかライフスタイルとかいったレベルの変数として。前者のレベルについては,社会独自の,より高速の学習メカニズムを仮定すべきだろう。
一方,進化心理学のほうは,タイムスケールがあまりに長すぎるように思う。何もかも狩猟生活の時代の適応戦略から説き起こすのでよいのだろうか。歴史とか文明とか,戦後社会とか,多層的な時間の流れで人間を捉えるべきではないか・・・。しかし,日頃の実践に最も役立つのは,やはり数百万年の淘汰に勝ち抜いた「定石」かもしれない。ついそう思わせるのが次の本だ。
タイトルだけ見るといい加減な本に見えるが,そうではない。豊富な実験結果が次々と示され,進化心理学が実証科学であることを印象づけている。坂口氏がこうした研究を始めた動機は,若い頃ナンパされることが多く,それが不快であったからだという。科学することでその怨みをはらすことができたのか・・・。それとも,そういう発言自体,配偶者獲得戦略の一環なのか・・・。
「進化政治学」で選挙が見える
初回は「政治と浮気、同じメカニズム」というテーマである。政党支持を配偶者選択だとみなすと,政権交代は「浮気」になる?ふうむ・・・ ぼく自身,消費における選好形成を性淘汰(つまるところ配偶者選択)のアナロジーで理解できないかと考えたりするので,学べるところは大いに学びたい。今後,この連載からどんな刺激的な話が出てくるか,これからが楽しみである。
この連載が「浮気」の話から始まることからわかるように,進化政治学は「進化心理学」と関連が深いようだ。進化心理学は,人間の心のメカニズムが数十万年に及ぶ人類の進化プロセスで形成されたと考える。つまり,人類史の大部分を占める狩猟採集の時代における適応戦略が,環境は大きく違うが,時間としてはまだ「短い」現代人の行動を支配しているとする。
人間の感情の働きや無意識的な行動について,こうした説明はそれなりに説得力がある。しかし,ある行動様式が大昔に適応的であったかどうかを実験や観察データから検証できないので,それ自体の反証可能性はなく(派生した仮説の反証は可能だが),よくできたお話しといわれかねない。進化ゲーム論的な解析で支持されるなら,さらに説得力を増すだろう。
面白いのは「進化経済学」が「進化心理学」とは違う道を進んでいることだ。たとえばネルソン-ウィンターは,ダーウィン流の進化論的ロジックを企業の限定合理的な行動に適用するものの,原始時代に形成され,遺伝的に継承されてきた人間の心性を考えようとはしていない。ただし,行動経済学的な実験を経由して,進化心理学のアイデアが流れ込む可能性は否定できない。
経済変動の進化理論シドニー G.ウィンター,リチャード R.ネルソン慶應義塾大学出版会このアイテムの詳細を見る |
進化心理学から学ぶべきことは,ダーウィン的な進化には,人間の目から見て超-長い時間がかかる点だ。経済学,経営学,マーケティングなどの「進化モデル」では,ときおりタイムスケールの混乱が見られる。1つの製品の戦略について,企業が遺伝アルゴリズムで学習するなどという設定がそうだ。意思決定を何千回も繰り返すのに,どれだけ時間がかかるかだろうか・・・。
その意味で,進化における淘汰の対象となる企業経営者や消費者の「遺伝子」=ルーティンは,短くとも十数年は持続する基底として仮定すべきではなかろうか。つまり,個々の製品の属性とか価格設定とかではなく,アーキテクチャとかライフスタイルとかいったレベルの変数として。前者のレベルについては,社会独自の,より高速の学習メカニズムを仮定すべきだろう。
一方,進化心理学のほうは,タイムスケールがあまりに長すぎるように思う。何もかも狩猟生活の時代の適応戦略から説き起こすのでよいのだろうか。歴史とか文明とか,戦後社会とか,多層的な時間の流れで人間を捉えるべきではないか・・・。しかし,日頃の実践に最も役立つのは,やはり数百万年の淘汰に勝ち抜いた「定石」かもしれない。ついそう思わせるのが次の本だ。
ナンパを科学する ヒトのふたつの性戦略坂口 菊恵東京書籍このアイテムの詳細を見る |
タイトルだけ見るといい加減な本に見えるが,そうではない。豊富な実験結果が次々と示され,進化心理学が実証科学であることを印象づけている。坂口氏がこうした研究を始めた動機は,若い頃ナンパされることが多く,それが不快であったからだという。科学することでその怨みをはらすことができたのか・・・。それとも,そういう発言自体,配偶者獲得戦略の一環なのか・・・。
今夜,某学会の委員会があると信じていたが,全くの勘違いだった。最近,そういう勘違い,記憶違い,聞き間違いが増えている。自分自身のタイムスケールでは,淘汰されたら後はない。あとはミーム(meme)をいかに残すかだ・・・。