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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウィルス肺炎(COVID-19):infodemicに屈せず,正しい情報を伝える大切さ.

2020年03月06日 | 医学と医療
今回のキーワードは,ウィルス排出の持続,小児例,検疫の失敗,予後不良因子,RNA血症と抗体,東京オリンピックです.そしてもうひとつ,Lancet誌で「infodemic」について議論されています.災害時にデマはつきものですが,現代ではソーシャルメディアによりその情報が増幅し,ウィルスのように伝播します.その意味で「infodemic」という言葉ができました.WHOはネットを巡回し,デマを見つけては正しい情報を提供し,GoogleもCOVID-19などが検索された場合,正しい検索結果を示す努力をしています.マスメディアも情報源の確かさを吟味し報道する必要があります.学術論文でさえ玉石混交であり,チェックが必要です.Lancet. 2020 Feb 29;395(10225):676

◆NEJM誌に,これまでで最多の1099人の入院患者の症例集積研究が報告された.結論は「症状・重症度・画像所見は多様で,診断は容易ではない」ということ.最も頻度の高い症状は発熱で入院中には88.7%に認めるが,初診時は43.8%のみ.咳67.8%,倦怠感38.1%,喀痰33.7%,息切れ18.7%,筋肉痛14.9%,咽頭痛13.9%,頭痛3.6%,下痢3.8%.診察所見も軽微で,咽頭発赤1.7%,扁桃腫脹2.1%,リンパ節腫脹0.2%,発疹0.2%のみ.潜伏期は中央値4日.複合エンドポイントは67名(6.1%),内訳はICU入室が5%,人工呼吸器管理が2.3%,死亡が1.4%.NEJM. February 28, 2020

◆シンガポールからの論文を3つ紹介したい.まずPCRで診断した18名の症例集積研究.鼻咽頭からのウィルス排出は7日間以上持続が15/18名(83%).最長で24日(!).ただし感染を起こすかは不明.転帰は軽症10名,酸素吸入6名,ICU 2 名,死亡なし.酸素吸入を要した6名のうち5名に抗HIV薬ロピナビル/リトナビルを使用したが,3例は改善したものの,2例は呼吸不全で,有効性は不明.JAMA. 2020 Mar 3.

◆2つ目は感染様式について.患者3人が入院する隔離病室を調べたところ,1名の部屋がウィルスで汚染されていた.部屋の13/15箇所と,トイレの3/5箇所(便器,流し,ドアノブ)で陽性.飛沫や便により部屋が汚染し,感染をもたらす.PPE(個人用防護具)の靴前面も汚染されていた.他の2名の部屋は,ジクロロイソシアヌル酸による除染が有効だった.確実な除染と手洗いが必要.JAMA. 2020 Mar 4.

◆3つ目は,母から感染した生後6ヶ月児の報告.ほぼ無症状であったが,鼻咽頭から高いウィルス排出量が認められ,16日目まで持続した.血液,便からも検出.小児は軽~無症状だが,感染源になる可能性がある.In Infect Dis. 2020 Feb 28.

◆中国から小児を対象とした初の症例集積研究.10名,いずれも軽症.成人への感染が1名で認められ,看病の際の予防対策が必要.潜伏期は6.5日で,成人の5.4日よりも長い.鼻咽頭からのウィルス排出を全例で認め,6~22日間持続した.便も5/6名で陽性で,2週間~1ヵ月以上持続した(!).小児では抗ウィルス薬や抗生剤の予防的投与は推奨されない.Clin Infect Dis. 2020 Feb 28.

◆中国から潜伏期が年齢により異なるという報告.武漢以外の地域の正確なデータを用いて潜伏期間を検討すると,平均5.8日,中央値5.0日.しかし40歳に分けると有意差があり,40歳以上のグループでは潜伏期間が長く,ばらつきも大きい(図1).年齢によって隔離の日数を変えるべき.medRxiv 2020.02.24.20027474


◆北海道大学からの報告.ヒトからヒトへ感染が何日間で生じるか,28の事例をもとに検討したところ,中央値4.0日で,潜伏期間の約5日よりも短かった.発症前に感染を起こすことを意味し,感染予防の難しさを示唆する.medRxiv 2020.02.03.20019497

◆日本からの短報で,閉鎖環境は感染のリスクとなることが報告された.10のクラスターからなる110名の検討で,27名(29.6%)が二次感染を引き起こした.閉鎖環境にいた患者は,二次感染をきたすリスクが18.7倍も上昇した.medRxiv 2020.02.28.20029272

◆数理モデルによりDiamond Princess号の検疫を検証した研究が複数報告された.結論はいずれも検疫・隔離の失敗である.
スウェーデンの報告では,船内の基本生産数(R0;1人の患者から何人に感染させるかを表す数)は,当初,武漢の4倍以上高い14.8.もし防衛手段を講じなければ2920/3700名(79%)が感染した.検疫・隔離によりR0は1.78まで減少し,2307名が感染から免れた.しかし患者が10名発生した2月3日に,すぐ全員を下船していれば,感染者は76名で済んだと予測(注;最終的に3,711人中706人(19%)が感染した).J Travel Med. 2020 Feb 28.

◆中国の検討では,全期間のRoは2.2.患者数が2倍になる期間は4.6日と短く,早急な対応が必要であった(図2).2月15日で,PCRは285/930で陽性,うち無症状者は73名(25.6%).2月20日で,PCRは634/3063名で陽性,うち無症状は328名(51.7%!).すなわち検疫・隔離を行ったとはいえ,無症状感染者が急激に増加してしまった.疑い例を1000名下船させると,ピークが青から緑に減少,R0を1.5まで低下できればピークが3月末にずれて,その間,対策ができた.それにしても無症状感染者の頻度の高さに改めて驚く.国内でも同様かもしれない.medRxiv 2020.02.26.20028449


◆検疫・隔離が及ぼす精神的影響に関する総説が報告された.外傷後ストレス症候群,混迷,怒りなどが生じる.増悪因子は長期間の隔離,感染への恐怖,葛藤,退屈,不適切な供給品や情報など.期間は最小限度にとどめ,明確な理由,計画の情報,十分な支給品が不可欠である.検疫の意義を理解していただき,自主的に同意してもらうことが望ましい.Lancet. 2020 Feb 26.

◆つぎに予後不良を予測する因子が2つ中国から報告された(抗体高力価と血中RNA検出).まず患者173名における血清中の抗体価,IgM,IgGについて初めて報告され,seroconversion(抗体陽転)率は順に93.1%,82.7%,64.7%(図3).陽転までの期間の中央値は11,12,14日であった.抗体は発症7日目では40%未満であったが,15日には100%に上昇した.逆に血中RNAは66.7%から39%に低下した.血中RNAと抗体の組み合わせで病初期でも診断ができ,かつ抗体高力価は予後不良因子となることが分かった.medRxiv 2020.03.02.20030189


◆48名の患者において,血中におけるウィルスの検出(RNA血症)は最重症群において認められ,重症度を反映していた(図4).またRNA血症は炎症性サイトカインのIL-6レベルと相関した(r = 0.902).つまり血中のウィルス検出は重症化の原因となるサイトカイン・ストームを予測し,予後不良を予測する因子となる.またIL-6は有望な治療ターゲットである.medRxiv 2020.02.29.20029520


◆実際に関節リウマチなどに使用される抗IL-6受容体抗体アクテムラ(トシリズマブ)の効果が,中国科学技術大学において重病患者14名に対し検証され有望な効果がみられた.この抗体を有するRocheは同剤200万ドル分を中国に寄付したと公表,すでにランダム化比較試験が開始された.

◆また患者回復期血清を用いた輸血治療について議論されている.患者血清を用いた治療はSARS,エボラ出血熱,MERS等において行われ,有用性が示されている.血清中の抗体がウィルス自体や感染細胞のクリアランスに作用すると考えられる.臨床試験が開始されている.Lancet Infect Dis. 2020 Feb 27.

◆基礎研究で話題になっているのは北京大学の研究で,入手可能な103のウィルスゲノム情報を解析した結果,受容体結合ドメインの機能部位において,異なる2つのSNPs(一塩基多型)により規定される2種類のストレイン(株)の存在が示唆された.悪性度の低いS型から高いL型に進化し,ヒトへの感染が急速に拡大したと推測している(LとSはそれぞれが連鎖するSNPsのコドンがコードするロイシンとセリンに由来). L型が7割.武漢の流行初期の感染ではL型が多かったが,今年1月初めから減少傾向.しかし論文には疫学データや患者症状との関連,動物実験の記載はなく,今後の検証が必要.National Science Review. March 03

◆最後にTravel Med Infect Dis 誌は東京オリンピック開催について言及し(図5),ホスト国はその開催について責任があり,十分な疫学データによる現状の評価を行い,プレイヤーと観客のリスクについて正しく評価し,選手村における適切な予防手段を講じる必要がある提示した.PCR検査もままならず,世界と同等の科学的貢献ができていない日本には高いハードルである.Travel Med Infect Dis. 2020 Feb 26:101604.


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