Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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補体C1qに対する抗体は,視神経脊髄炎関連疾患のバイオマーカーである

2017年10月04日 | 脱髄疾患
当科のYoshikura N 先生らが,最近,J Neuroimmunol誌に報告した論文を紹介したい.補体C1qに対する抗体価が,視神経脊髄炎関連疾患(neuromyelitis spectrum disorders spectrum disorders, NMOSD)では上昇するという報告である.この抗体は,脳内において抗原抗体複合体に結合した補体C1qに結合し,補体反応の活性化を促し,免疫・炎症に関わるだけではなく,血管側ではWnt/β-cateninシグナルを活性化することが知られている.血管内皮細胞においてWntシグナルは,タイトジャンクションを形成する主要蛋白claudinの発現量を増加させる.もし抗C1q抗体がこのシグナルを阻害するとすれば,claudinの発現量が減少して,血液脳関門が脆弱になる.つまりこの抗体は,脳内でも血管でもNMOSDの病態に関与する可能性がある.

さて研究の方法であるが,急性期NMOSD患者15名(全例,抗AQP4抗体陽性),急性期MS患者13名,健常者15名にて血清抗C1q抗体を測定した.また同じNMOSD,MS患者と身体表現性障害患者(疾患コントロール)10名において髄液抗C1q抗体価を測定した.急性期NMOSD患者において,血清および髄液抗C1q抗体価と,臨床所見,画像所見との関連性も調べた.

結果であるが,血清および髄液抗C1q抗体価は,NMOSD患者では他群に比較して有意に高値であった.髄液抗C1q抗体価は急性期の重症度を示す所見,具体的にはEDSSの悪化度(急性期とベースライン時の差),脊髄病変の長さ,髄液蛋白量,髄液IL-6値,Q-alb値(髄液Alb÷血中Alb)との間にも正の相関を認めた.

以上より,髄液抗C1q抗体価は,疾患の重症度を反映するNMOSDの新たなバイオマーカーとして利用できる可能性が示唆された.また病態に関して,上記の機序のほか,アストロサイトの膜表面上に発現するAQP4,抗AQP4抗体,補体C1qからなる複合体に,さらに抗C1q抗体が結合し,より強力な補体介在性の細胞障害が生じる可能性もある.

吉倉延亮先生は本研究の要旨を第23 回世界神経学会議(WCN2017)においてポスター発表した.最初に質問をしてくれた先生はとても関心を持ってくださり,10分にも渡って次々と質問してくださったそうだ.最後にお名前を伺ったところ,その先生は神経免疫学の大家であるVanda Lennon先生(Mayo Clinic)だと分かり,吉倉先生は驚くとともに大変感動したようだ.そして動物実験等を行い,この抗体の役割をさらに明らかにするようアドバイスをいただいたそうだ.海外学会はこのように,最先端の研究者と身近に触れ合えるチャンスがある.若い先生方にはどんどん海外学会で発表し,留学もして,どんどん世界に向けて羽ばたいてほしいと思う.

Yoshikura N et al. Anti-C1q autoantibodies in patients with neuromyelitis optica spectrum disorders. J Neuroimmunol 310, 150-7, 2017

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