Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(6月5日)  

2021年06月05日 | 医学と医療
今回のキーワードは,12~15歳に対してもファイザー・ワクチンは極めて有効,アビガン®は症状が出てからでは手遅れ,花粉への曝露は感染率を増加させる,Brain fog(脳の霧)の原因は脳の持続炎症?ワクチン接種率向上の障壁としてのアパシー,介護・福祉施設クラスターに対する抗ウイルス抗体(バムラニビマブ)療法の効果,です.

ほとんどの子供は感染しても軽症で済みますが,一部,予後不良の転帰を取ります.とくに基礎疾患のある子供は重篤な影響を受けやすいですが,健康な子供でも重症となる可能性があります.また子供から感染拡大する可能性もあります.今回,ファイザー・ワクチンが,12歳以上の子供に有効であることが報告されました.副反応も1~2日程度の軽度なもので,アセトアミノフェンで対処可能でした.子供も2回目の接種から2週間後に完全に接種されたとみなされます(図1).COVID-19ワクチンは,他のワクチンと一緒に接種することができます.また生後6ヶ月の子供を対象とした研究も進行中です(JAMA Pediatr. June 4, 2021.(doi.org/10.1001/jamapediatrics.2021.1974)).



◆12~15歳に対してもファイザー・ワクチンは極めて有効.
最近まで,COPVID-19ワクチンは,16歳未満の若年者への使用が認められていなかった.これらの人々を保護し,集団免疫に貢献するために,12~15歳を対象とした検討がなされた.参加者を1対1の割合で無作為に割り付け,ファイザー・ワクチン30μgまたは偽薬を21日間隔で2回接種した.12~15歳における免疫反応が,16~25歳における免疫反応と比較して非劣性であることを示すことを目的とした.12~15歳の若年者1131人が実薬,1129人が偽薬を接種された.安全性については,主に一過性の軽度~中等度の副反応(注射部位の痛み(79~86%),疲労感(60~66%),頭痛(55~65%))が見られたが,全体として重篤な有害事象は少なかった.12~15 歳の16~25 歳に対する接種2 回目の50%中和力価の幾何平均比は 1.76(95%信頼区間,1.47~2.10)であり,非劣性基準を満たしており,12~15 歳でより大きな効果が得られた.また2回接種から7日以上経過した場合,実薬群では感染者0例であったのに対し,偽薬群では 16 例で,ワクチンの有効性は100%(95%CI,75.3~100)であった.以上より,12~15 歳を対象とした場合,ファイザー・ワクチンは良好な安全性を示し,かつ16~25歳の若年成人よりも強い免疫反応を示し,感染に対して高い有効性を示した.
New Engl J Med. May 27, 2021(doi.org/10.1056/NEJMoa2107456)

◆アビガン®の有効性に関するメタ解析 ―症状が出てから使用しても手遅れ―
メタ解析により,COVID-19に対するファビピラビル(アビガン®)の有効性と安全性を調査した研究が報告された.最終的に9件の研究がメタ解析に含まれた.この結果,入院後7日間において,アビガン®群は対照群に比べて臨床的に有意な改善が認められた(RR = 1.24, 95% CI: 1.09-1.41; P = 0.001).アビガン®群は対照群に比べて入院後14日目にウイルス除去率が高かったが,統計学的には有意でなかった(RR = 1.11, 95% CI: 0.98-1.25; P = 0.094;図2).補助的酸素療法は,アビガン®群が対照群より7%少なかったが有意ではなかった(RR = 0.93, 95% CI: 0.67-1.28; P = 0.664).ICUへの転入や有害事象も差はなかった.アビガン®群の死亡率は対照群に比べて約30%低かったが,ばらつきが大きく統計的に有意ではなかった.結論として,アビガン®は,軽度から中等度のCOVID-19患者に対し,有意な効果を発揮しなかった.症状が出てからアビガン®を使用するのでは手遅れであり,このことが臨床現場での有効性の低さを説明していると考えるべきである.
Sci Rep 11, 11022 (2021). May 36, 2021(doi.org/10.1038/s41598-021-90551-6)



◆花粉への曝露は感染率を増加させる.
花粉への曝露は,抗ウイルス性のインターフェロン反応を低下させることにより,特定の季節性呼吸器ウイルス感染症に対する防御力を弱めることが知られている.ドイツからの研究で,花粉の飛散量が多い時期に感染波が重なった場合,COVID-19でも同じことが当てはまるかを調べた.仮説を検証するため,感染者,花粉,気象要因を31カ国130の観測所から入手した.この結果,空気中の花粉は,湿度や温度との相乗効果で,感染率の変動の平均44%を説明できることが分かった.感染率は,前4日間で花粉の濃度が高くなった後,最も頻繁に上昇した.ロックダウンを行わない場合,花粉量が100個/m3増加すると,感染率は平均4%増加した(図3).以上より,花粉とウイルス感染への影響について周知すること,また春の花粉飛散量が多い時期にはフィルターマスクの着用を促すことを提案している.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2021 Mar 23;118(12):e2019034118. (doi.org/10.1073/pnas.2019034118)



◆Brain fog(脳の霧)の原因は脳の持続炎症?
Long COVIDはCOVID-19の後遺症であり,認知障害やBrain fog(脳の霧),慢性疲労症候群などを呈する.今回,これらの病態において,ミトコンドリア,ミクログリア,および持続的な神経炎症が関与するという仮説が提唱された.まずウイルスによるミトコンドリアの標的化は,進化的に保存された適応プロセスであるとし,SARS-CoV-2のRNAやタンパク質成分が細胞内ミトコンドリアを「ハイジャック」すると述べている.また脳のミクログリアを標的としたウイルスエピトープと相互に反応する循環Tリンパ球およびBリンパ球の集団が,慢性的に活性化されることで,中枢神経における持続的な炎症をもたらすのではないかと既報を引用しながら議論している.さらにSARS-CoV-2に対するワクチンの接種により,long COVIDの発生率が低下する可能性があると述べている.あくまで仮説であるが,ワクチンの接種でLong COVIDの発生率や重症度がどうなるのか注目したい.
Med Sci Monit. 2021 May 10;27:e933015.(doi.org/10.12659/MSM.933015)

◆ワクチン接種率向上の障壁はすべて「躊躇」ではなく「アパシー(無関心)」である.
米国からの報告.現在ワクチンを接種していない,あるいはできるだけ早く接種する予定がないと報告されている米国人口の39%の人々の多くは,「躊躇」ではなく「無関心(アパシー)」が重要である可能性がある.アパシーは,反ワクチンと同義ではない.アパシーは,ワクチン接種を検討する時間が少ないことを特徴とする無関心であり,「躊躇」している人と比べて検討を行っていない.例えば若い人の中には,いずれ通常の状態に戻るという認識を持っているため,ワクチン接種は優先度の低い作業だと認識しているかもしれない.また中年のワーキングプアの人々は,食糧不安や家族の責任など,他の優先度の高いストレス要因に圧倒されているかもしれない.重要なのは「躊躇」と「アパシー」では効果的な説得の戦略が大きく異なることである.後者では論理的または事実に基づいた強い主張による説得力の効果が乏しい.むしろ素早く,キャッチーで,感情的なアピールが有効である.また「情報源は誰か」が重要で,Anthony Fauci博士のようなトップの専門家ではなく,憧れの有名人やスポーツ選手などが挙げられる.ワクチンキャンペーンを立案する際に,これら2つの集団を同時に考慮する必要がある.
JAMA. June 2, 2021(doi.org/10.1001/jama.2021.7707)

◆介護付き有料老人ホームにおいて,バムラニビマブの単剤投与は感染発生率を低下させた.
介護・福祉施設でCOVID-19が発生した場合,その施設の入居者やスタッフをCOVID-19から守るための予防的介入が必要とある.SARS-CoV-2に対する中和モノクローナル抗体であるバムラニビマブは,迅速な防御をもたらす可能性がある.米国からの報告で,無作為化,二重盲検,単剤投与の第 3 相試験で, 74 の看護・介護施設の居住者およびスタッフ1175名が登録した.バムラニビマブ4200mg(n=588)または偽薬(n=587)の静脈内注入を受ける群に無作為に割り付けられた.主要評価項目は無作為化後8週間以内のCOVID-19発生率とした.結果であるが,予防集団は,ベースライン時に SARS-CoV-2陰性966 名(スタッフ 666 名,居住者 300 名)で構成された.バムラニビマブは,偽薬と比較して,予防集団における COVID-19 の発生率を有意に低下させた(8.5%対 15.2%;オッズ比,0.43,P < 0.001;絶対リスク差,-6.6 [95% CI, -10.7~-2.6]ポイント).5 件の死亡例はいずれも偽薬群で発生した.興味深いことに居住者には有効であったが,スタッフへの効果は乏しかった(図4.高齢者や重症化のリスクが高く,SARS-CoV-2感染に対する免疫反応が最適化されていない人々において最大の効果を発揮する?).



有害事象が発生した被験者の割合は,バムラニビマブ群で 20.1%,偽薬群で 18.9%であった.最も多かった有害事象は,尿路感染症と高血圧であったが,2群間で差は認めなかった.介護付き有料老人ホームの入居者およびスタッフにおいて,バムラニビマブは,COVID-19感染リスクを軽減した.→ 現在,変異株の出現によりバムラニビマブ単独では効果が十分ではないとされ,米国での緊急使用許可は取り消された.しかしエテセビマブとの併用療法で対処できるとされ,現在併用療法に移行しているところである(図5).
JAMA. June 3, 2021.(doi.org/10.1001/jama.2021.8828)



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