Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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すくみ足に対する「パーキン・メガネ」vs「レーザー・シューズ」

2018年01月16日 | パーキンソン病
パーキンソン病の歩行障害に,足を前に踏み出せない「すくみ足」がある.歩行の開始時,方向転換時,狭い場所を通るとき,目標に近づいたときに生じる.転倒やケガにつながり,QOLの低下を招く.薬物療法の効果は乏しい.一方,不思議な現象として「逆説的歩行(kinesie paradoxale)」が認められる.例えば足下に,カラーテープなどで跨ぐもの(視覚的キュー)を示すとすくみが改善します.平地では歩きにくい患者さんでも,階段昇降が可能であるのはこの現象のためである.

私が大学院生の頃,実験を指導してくださったI先生が仰った「わし,すごいアイデアを思いついた!レンズに線を入れたメガネをつくれば,すくみ足が良くなるはずだ(図A)」.研究室のみんなは「それはすごい!」と興奮し,特許出願すべきとか,会社を興すべきとか盛り上がり,そのメガネは「パーキン・メガネ」と名付けられた.その後,I先生がメガネに細工をして,効果を試されたかは不明だが,うまく行かなかったものと思われる.理由は,歩幅は左右で異なったり,抗パーキンソン病剤のオンとオフなどでも異なるため,適切なタイミングおよび位置に,指標をもってくるのが難しいと思われるためである.過去にも「視覚的キュー」を利用する道具がいろいろ作られたが,必ずしも効果は十分ではなかったようである.

今回,決定版とも言うべきデバイスがオランダから報告された.レーザー・シューズである(図B).左右のくつの前面にレーザー発射口が装着され,「クローズループ制御」による線の位置決めがなされる.位置決めに関する理論として,指令だけをしてフィードバックを取らない「オープンループ制御」と,指令からフィードバックを取り,補正を加える「クローズループ制御」がある.後者は,このシューズにおいては,一側の足が着地すると踵のスイッチが押され,その情報をもとに,対側の足を踏み出すのに適したレーザー光が発射されるという仕組みだ.

臨床試験は,21名のすくみ足を認める患者さんにおいて,オン時およびオフ時に,すくみ足を生じやすい環境を含めて歩行していただき,すくみ足の回数とその時間(割合)を評価した.対照は同一人物で,同じシューズを履き,レーザーを止めた状態とした.さて結果であるが,レーザーにより,すくみ足の回数はオフ時で45.9%,オン時で37.7%減少した.すくみの割合もオフ時で56.5% (p = 0.004),オン時で51.4%(p = 0.075)減少した.患者の主観的な改善効果もこの結果に一致した.ただしすくみ足以外の,歩幅などの歩行自体には効果はなかった.また効果に対して,前頭葉機能障害の程度は影響しなかった.

結論として,レーザーシューズは練習もなく速やかに,すくみ足を改善をした.考察の中に,靴では下を向いての歩行になるため,「むしろメガネが良いのではないか!」,つまりグーグルグラスのようなスマートグラスで,前方視野に指標を出したほうが良いのではないかという意見があるかもしれないと書かれていた.しかし著者らは恐らくうまくいかないだろうと言っている.その理由として,かえって気が散ってしまい視野の妨げにもなること,そもそもパーキンソン病患者さんは前屈姿勢があるため下向きの傾向があり,苦にならないこと,下を向くのはすくみ足が出た時だけであることを挙げている.今後は,治療効果の出やすい症例の特徴を明らかにすること,家の中での生活における有効性について評価することが課題である.早期の実用化が望まれる.




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