Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(2月20日)  

2021年02月20日 | 医学と医療
今回のキーワードは,感染後6ヶ月における後遺症と認知機能低下,COVID-19に関連する頭痛の分類と機序,大脳皮質の毛細血管に生じた見たこともない変化,重症患者における眼球の異常所見,SOFAスコアはトリアージには向いていない,入院早期の抗凝固薬使用の効果,動物実験における点鼻薬による感染防止成功です.

長期経過観察による後遺症に関する研究が中国に続き,米国からも報告されました.やはり疲労感や味覚・嗅覚障害が頻度として多いようです.先週,ご紹介したbrain fog(脳霧)の頻度も2.3%と報告されています.注目すべきは入院せずに済んだ軽症患者であっても後遺症が多いということです.さらに別の研究で,軽症患者であっても,感染しなかった人と比べ,認知機能低下が生じる頻度が18倍も高くなることが報告されました.もしこれが多数例でも証明され,事実ということになるとかなり衝撃的で,「一体,軽症患者の脳内で何が起きているのか?」という議論になると思います.まず思いつくのはSARS-CoV-2ウイルスが神経組織に感染する能力をもつこと(神経向性:neurotropism)と,末梢のサイトカイン放出による脳障害ですが,これに加えて大脳の毛細血管に通常みられない巨核球(血小板を産出する造血系細胞)が存在することが新たに発見されました.ウイルスの中枢神経への長期的影響がまだ分からないため,改めて感染防止が重要であると思いました.

◆感染後6ヵ月間追跡調査にて,約30%の患者が症状の持続を報告.
米国からの報告.COVID-19患者177名が対象で,内訳は軽症の外来患者150名(84.7%),入院を要する中等症または重症16名(9.0%),無症状11名(6.2%)と外来患者が多かった.最も多かった後遺症は,疲労感(177名中24名[13.6%])と嗅覚・味覚の喪失(24名[13.6%])であった(図1).Brain fog(脳霧)が4名(2.3%)に認められた.外来患者と入院患者のうち51名(30.7%)が,病前と比較して健康関連QoLの悪化を報告した.9名の非入院患者を含む14名(7.9%)が少なくとも1つの日常生活動作(ADL)に悪影響を及ぼした(最も多かったのは家事であった). → COVID-19の後遺症は,軽症の外来患者であっても無視できない.
JAMA Netw Open. 2021;4(2):e210830. doi:10.1001/jamanetworkopen.2021.0830



◆感染後6ヵ月における認知機能低下.
COVID-19の遅発性の神経後遺症に関する情報はほとんどない.エクアドルから,COVID-19軽症患者の認知機能を経時的に検討した研究が報告された.40 歳以上で,パンデミック前の認知評価と頭部MRI および脳波が正常であった,脳卒中およびてんかんの既往がない者を対象に,感染発生から 6 ヵ月後に評価を行った.酸素療法を必要とした患者,入院を必要とした患者,急性期に神経症状を呈した患者は除外した.認知機能の低下は,パンデミック前後でモントリオール認知評価(MoCA)スコアの低下が,パンデミック前の 2 回における低下よりも 4 ポイント以上低下したものと定義した.MoCA低下(図2)の頻度は,COVID-19軽症患者では11/52 例(21%),対照では1/41 例(2%)であった.COVID-19患者における認知機能低下のオッズは18.1倍(!)高かった(P=0.015).軽症COVID-19患者における認知機能低下を示唆するものであるが,発症機序は不明である.
Eur J Med. Feb 11, 2021(doi.org/10.1111/ene.14775)



◆COVID-19に関連する頭痛の分類と機序.
Headache誌のeditorialにおいて,以下のような分類が提案された.

(二次性頭痛)
・全身性ウイルス感染に伴う頭痛
・サイトカイン放出症候群
・COVID-19の直接感染に関連するその他の原因(血管性,非血管性)

(一次性頭痛)
・ウイルス感染そのものが引き金となって起こる頭痛(通常は片頭痛)
・COVID-19感染がおさまった後のストレス軽減(ホッとすること)が引き金となる片頭痛
・COVID-19感染に関連したストレスのかかるライフイベント,心的外傷後ストレス障害により引き起こされた片頭痛慢性化
・COVID-19感染症に伴う新規発症持続性連日性頭痛
Headache. Feb 16, 2021(doi.org/10.1111/head.14085)

◆大脳皮質の毛細血管における巨核球の発見.
米国からの報告.COVID-19患者15名と,年齢が同程度で,脳の虚血性変化を認める対照2名を病理学的に比較した.前者では5/15名(33%)の大脳皮質の毛細血管において,形態学的に巨核球(血小板を産出する造血系細胞)と思われる大きな細胞核が同定された(図3A).血小板と巨核球のマーカーであるCD61(図3B)とCD42b(図3C)による免疫染色を行ったところ,いずれも陽性に染色され,巨核球と考えられた.この細胞は,死後の血管内に見られる血小板の集族とは異なる所見であった(図3D).虚血性変化を呈した2名ではこのようなCD61陽性巨核球は認めなかった.著者らは,パンデミック前に,このような脳血管における巨核球を見たことはなく,渉猟した限り,文献にも見当たらなかった.これまでCOVID-19では血管内皮障害がみられ,重症化に関与する可能性が示唆されている.肺における巨核球が存在することは明らかにされていたが,血管内皮障害等により循環血液中に入り,肺を通過した可能性がある.これらの巨大細胞が毛細血管を閉塞させて,虚血性変化を引き起こし,非特異的な神経障害をもたらす可能性がある.
JAMA Neurol. Feb 12, 2021(doi.org/10.1001/jamaneurol.2021.0225)



◆重症患者における眼球黄斑部の結節所見.
重症COVID-19の129名のMRIの評価で, 9例(7%)に眼球に異常所見を認めた(男:女=8:1,56±13歳).具体的には眼球後極に1つまたは複数のFLAIR高信号結節を認めた(図4).全例,結節は黄斑部にあり,8/9(89%)は両側で,2/9(22%)では黄斑部外にも結節を認めた.これらの患者をスクリーニングすることで,CPVID-19に伴う重篤な眼症状の可能性がある患者の管理が改善されるかもしれない.
Radiology. Feb 16 2021(doi.org/10.1148/radiol.2021204394)



◆SOFAスコアは人工呼吸器トリアージに使用するには予測能が低い.
SOFA(sequential organ failure assessment)スコアは,重要臓器の障害度を数値化した指数である.呼吸器,凝固系,肝機能,心血管系,中枢神経系,腎機能の6項目について,臓器障害の程度を0から4点の5段階で評価する.スコアが5を超えると死亡率は20%と言われている.COVID-19において,人工呼吸器装着の決定に関する26のトリアージ方針が報告されているが,うち20個では何らかの形でSOFAスコアを使用されている.人工呼吸器トリアージにおけるSOFAスコアの有用性を検証する目的で,米国から18のICUにおける患者675 名を後方視的に検討した研究が報告された.SOFAスコアの中央値は6(四分位間範囲,4~8)であった.SOFAスコアに対するROC曲線のAUC(Area Under Curve)は0.59と予測能は低く,単に年齢を用いた場合のAUC 0.66よりも低かった(P = 0.02).この原因は,SOFAスコアが敗血症患者を対象に作成されたことが影響したものと考えられる.より良い指標を作成する必要がある.
JAMA. Published online February 17, 2021. doi:10.1001/jama.2021.1545

◆入院後24時間以内の抗凝固薬使用は死亡率を低下させる.
抗凝固薬の効果を検討する米国からの報告で,主要評価項目は入院後30日後の死亡率とした.COVID-19で入院した4297名のうち,3627名(84.4%)が入院後24時間以内に予防的抗凝固療法を受けていた.その99%以上(3600名)がヘパリンまたはエノキサパリンの皮下投与であった.入院後30日以内に622名が死亡したが,うち513名が予防的抗凝固療法を受けていた.死亡のほとんど(510/622人,82%)は入院中に発生した.30日目の累積死亡率は,予防的抗凝固療法を受けた患者で14.3%,受けなかった患者で18.7%であった.予防的抗凝固療法を受けていない患者と比較して,受けた患者では30日死亡リスクが27%減少した(ハザード比0.73,95%信頼区間0.66~0.81)(図5).抗凝固療法を受けても,輸血を必要とする出血のリスクの増加は生じなかった.
BMJ. Feb 11, 2021(doi.org/10.1136/bmj.n311)



◆動物実験における点鼻薬による感染防止の成功.
SARS-CoV-2ウイルスの感染は,ウイルススパイク蛋白と宿主細胞の膜の融合によって始まる.この感染第一段階の膜融合を阻害するリポペプチド融合阻害剤がオランダで設計された.その二量体をフェレットに連日,経鼻投与すると,感染動物と24時間,一緒に飼育し,投与しない動物が100%感染するという厳しい条件の下でも,感染伝播を完全に防ぐことができた.このリポペプチドは安定性が高いため,感染減少につながる,安全で効果的な鼻腔内予防薬として利用できる可能性がある.
Science. Feb 17, 2021(doi.org/10.1126/science.abf4896)

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