Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(2月13日) 

2021年02月13日 | 医学と医療
今回のキーワードは,アナフィラキシーを来した66名の予後,イスラエルにおける初回ワクチン接種による2つの効果,後期臨床試験中のワクチン一覧,片頭痛患者のワクチン,抗VEGF抗体の効果,脳症と脳炎のサイトカインの大きな相違,データベースNeuroCOVID,Brain fog(脳霧)です.

もうひとつ印象に残ったキーワードは「外出制限」です.パンデミック後,感染防止のために一部の高齢者施設や,重度心身障害者が療養する病院で,外出許可がストップしている状況であることを知りました.施設内クラスターの防止は非常に重要である一方,それにより貴重な時間や機会まで奪ってしまって良いのだろうかと関係者の悩みは大きいものと思います.厚労省による「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」では「屋外での運動や散歩など,生活や健康の維持のために必要なものについては外出の自粛要請の対象外」との記載もあります.一律外出不許可のメリットとデメリットを科学的に判断することが求められているように思います.

◆ワクチン接種の利点は,治療可能であるアナフィラキシーのリスクをはるかに上回る.
米国から,ワクチン有害事象報告システム(VAERS)によるアナフィラキシーについて報告がなされた.2020年12月14日から2021年1月18日に,ファイザーワクチン994万3247回分とモデナワクチン758万1429回分が接種された.その中でアナフィラキシー66件が確認され,以下の点が分かった.
1)ファイザーワクチンは47件(4.7件/100万回),モデナワクチンは19件(2.5件/100万回)で,両ワクチンのアナフィラキシーの臨床的特徴は似ている.
2)出現時間が30分以内と30分以降の群を比較して,臨床像の差異は認めない.
3)21/66例(32%)では他のアレルゲン暴露によるアナフィラキシーの既往があった.具体的にはワクチン(狂犬病,インフルエンザA[H1N1],季節性インフルエンザ),造影剤(ガドリニウム,ヨウ素ベース),不特定の輸液,スルファ剤,ペニシリン,プロクロルペラジン,ラテックス,クルミ,木の実,クラゲの刺傷が含まれていた.
4)治療として,61/66例(92%)でエピネフリンが使用された.32/66例(48%)が入院し,7例は気管内挿管された(顔面,舌,喉頭の血管浮腫が4例).その他,コルチコステロイド,抗ヒスタミン薬が使用された.
5)入院期間は1~3日で,死亡例は報告されていない.
以上より,アナフィラキシーはやはり稀であり,COVID-19の罹患率,死亡率を考慮すると,ワクチン接種の利点は,治療可能であるアナフィラキシーのリスクをはるかに上回っている.

◆ワクチン初回接種13~24日後の感染の相対リスク減少は51.4%.
イスラエルからファイザーワクチン(BNT162b2)の初回接種後のリアルワールドでの短期有効性についての後方視的研究が報告された.第III相試験の結果から,接種後13~24 日目のCOVID-19感染の発生率が,それ以前(1~12 日目)の発生率と比較して低下するという仮説を立てた.対象者は,2020年12月19日から2021年1月15日までの間にワクチンを接種した16歳以上の50万3875人(平均年齢59.7歳)とした.COVID-19の平均1日発症率は,1~12日目の43.41人/10万人から,13~24日目の21.08人/10万人へ,51.4%の相対リスク減少がみられた.この低下は初回接種後18日目から明らかとなった(図1).相対リスク減少は,60歳以上(44.5%),若年者(50.2%),女性(50.0%),男性(52.1%)で調べても同様であった.また併存疾患を持つ群においても同様であった.もちろん十分な防御効果を得るため,2回目の接種を行う必要がある.
medRxiv. Jan 29, 2021(doi.org/10.1101/2021.01.27.21250612)



◆ファイザーワクチン接種者は,感染後ウイルス量が抑制され感染拡大を防止する.
COVID-19ワクチンは,個々のワクチン接種者を感染から保護するだけでなく,感染した時のウイルス量を減少させ,その後の2次感染も抑制するのではないかと期待されている.イスラエルから,プレプリントながら興味深い論文が報告された.ファイザーワクチン(BNT162b2)を1回目接種し,接種後12~28日後に感染した場合(1755名),接種後11日までに感染した場合(1142名)と比較して,ウイルス量が有意に減少していることが示された(図2;差=2.1±0.2;Pウイルス量の減少は,感染力の低下をもたらすことが他の研究により示唆されており,感染拡大防止に対するワクチンの効果がさらに期待される.
medRxiv. Feb 08, 2021(doi.org/10.1101/2021.02.06.21251283)



◆後期臨床開発ステージにあるワクチン一覧.
COVID-19ワクチン開発の現状と,高齢者や併存疾患を有する患者に対するワクチン開発の方向性に関する総説が発表された.その中で,開発ステージが後期に到達したワクチンの一覧が示されている.ファイザーやモデルナといったmRNAワクチン以外に,アデノウイルスベクターワクチン,組換え蛋白質ワクチン,不活化ウイルスワクチン,DNAワクチンが開発されている.有効性と保存温度の情報も記されている.今後,さらに良いワクチンが開発され選択される可能性がある.
Sci Transl Med. Feb 3, 2021(doi.org/10.1126/scitranslmed.abd1525).



◆片頭痛治療中の患者におけるワクチン接種についてのエキスパートオピニオン.
今回,米国の頭痛およびワクチンの専門家が共著によるエキスパートオピニオンを発表した.要点は以下の3点である.
1)COVID-19ワクチンと,CGRP経路に対する抗体ないしオナボツリヌス毒素A注射(本邦未承認:慢性片頭痛の予防療法に使用)は相互作用するというエビデンスはない.よって,ワクチン接種や片頭痛治療のタイミングをずらす必要はない.むしろワクチン接種および片頭痛予防療法はともに有効であることから,いずれの治療も遅らせないことが重要である.
2)抗CGRP経路に対する抗体を上腕に接種する患者では,COVIDワクチンを接種した腕と反対側に接種すれば,注射部位に反応が生じた場合の混乱を避けることができる.
3)ワクチン接種前にNSAIDsやアセトアミノフェンを日常的に使用することは推奨されないが,ワクチン接種後に発熱や頭痛が出現した場合には,これらの治療法は第一選択となる.
Headache. Feb 05, 2021(doi.org/10.1111/head.14086)

◆効果が証明されていない治療薬の外来小売状況.
COVID-19の治療薬として期待されているものの,他の疾患でのみ承認されている薬剤の外来での小売調剤頻度を調べた研究が米国から報告された.パンデミック前と比較し,処方件数が50%以上上回った治療薬を調べたところ,イベルメクチン,クロロキン,亜鉛,ヒドロキシクロロキン,ビタミンC,デキサメタゾン,ロピナビル・リトナビルの7剤が該当した.ヒドロキシクロロキン(図4A),クロロキン,ロピナビル・リトナビルは一度ピークを示したが,有効性が証明されなかったため,その後は減少した.一方,イベルメクチン(図4B),亜鉛(図4C;おそらく味覚障害に処方),デキサメタゾン(図4D)は,2020年秋以降,全国的に増加している.全国的モニタリングは,重篤な有害事象のリスクがある薬剤(例:ヒドロキシクロロキン,デキサメタゾン),有効性が確立されていない薬剤(例:イベルメクチン)については継続されるべきである.→ 日本の状況も気にはなる.
JAMA Intern Med. Feb 11, 2021(doi.org/10.1001/jamainternmed.2021.0299)



◆抗VEGF抗体が治療薬として有効?
COVID-19が引き起こす肺および血管の病理学的変化に基づいて,抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬であるベバシズマブ(アバスチン®)の治療有効性を検証する単群試験が,中国とイタリアの2施設で行われた.仮説はARDSによる低酸素がHIF-1を介して,VEGF発現を誘導し,血管透過性亢進と炎症がもたらされるというものだ.対象は呼吸回数,酸素飽和度またはPaO2/FiO2から定義された重症患者26名とした.標準治療にベバシズマブを併用すると,1日目と7日目のPaO2/FiO2比が顕著に改善した.28日目までに24例(92%)が酸素化の改善を示し,17例(65%)が退院,呼吸状態の悪化や死亡は認められなかった.画像所見でも7日以内に有意な改善が認められた.発熱した14例中13例(93%)が72時間以内に解熱した.ベバシズマブは同程度の対照群と比較して,酸素化を改善し,酸素維持時間を短縮した.今後,無作為化比較試験が必要である.
Nat Commun 12;814, 2021(doi.org/10.1038/s41467-021-21085-8)

◆サイトカインから見ると脳症と脳炎はまったく異なる.
ブラジルからCOVID-19に関連した神経疾患の種類別の髄液,血清中のサイトカインのパターンについての研究が報告された.対象は①難治性頭痛(H:12例),②脳症(E:22例),③炎症性神経疾患(IND:13例,内訳はADEM 2例,脳炎2例,髄膜炎2例,髄膜脳炎4例,急性脊髄炎3例,視神経脊髄炎1例)に分類された.炎症性神経疾患(IND)は,髄液中のIL-2,IL-4,IL-6,IL-10,IL-12,CXCL8,およびCXCL10が上昇していた.一方,脳症は,血清のIL-6,CXCL8,活性型TGF-β1が上昇していた.図5はそれらをヒートマップに表したものである.つまり炎症性神経疾患は全身の炎症を伴わず,中枢神経において炎症を来す疾患と言える.また脳症は,SARS-CoV-2ウイルスが神経へ直接浸潤して炎症を来す疾患ではなく,末梢における炎症性サイトカイン増加の影響を受けて発症するものと言える.→ 言われてみれば当然の結果であるが,これを明確に示した点で素晴らしい研究である.
Ann Neurol. Feb 6, 2021(doi.org/10.1002/ana.26041)



◆米国NIHが神経症状を追跡するデータベースNeuroCOVIDを発表.
COVID-19は身体のさまざまなシステムに影響を及ぼすが,ウイルスが除去された後も神経系に及ぼす影響は大きく,長期持続しうる(long COVIDないしPost-COVID syndrome).このため,米国で,COVID-19に関連する神経学的症状,合併症,転帰,および既存の神経疾患へのCOVID-19の影響についての情報を臨床医から収集するデータベース「COVID-19 Neuro Databank/Biobank(NeuroCOVID)」が作成された.匿名化された情報をオンラインで提出でき,生物試料も,バイオバンクに提供することができる.米国国立衛生研究所の国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)によってサポートされている.
NIH launches database to track neurological symptoms associated with COVID-19(https://bit.ly/3rICusy)

◆Brain fog(脳霧)の病態仮説.
上記のCOVID-19後遺症における症状のひとつに,brain fog(脳霧)と呼ばれるものがある.マスコミの方からbrain fogについて質問があり,調べてみたが医学文献における記載は2020年にグルテン過敏症の症状として記載したもの程度である.どうも明確な定義はなく,「脳の中に霧がかかったような」認知機能障害の一種で,記憶障害,知的明晰さの欠如,集中力不足,精神的疲労などがみられるようだ.2015年にThe Brain Fog Fix(Dr. Mike Dow著)という書籍があり,これがオリジナルかもしれない?.今回,COVID-19後遺症としてのBrain fogの機序について議論した論文がチェコから報告された.COVID-19感染後に脳内ミトコンドリア機能障害が生じ,高いエネルギー代謝を必要とする神経細胞に機能不全が生じているという説である.ただし全くの仮説であり根拠も乏しく,Brain fogが一体なぜ生じるのか,深い霧がかかったままである.
Med Sci Monit. 27:e930886, 2021(doi.org/10.12659/MSM.930886)


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