Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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今年のクリスマス号「アガサ・クリスティーと神経毒」@Brain Nerve誌

2023年12月06日 | 医学と医療
Brain Nerve誌では,2年前からクリスマス特集号を企画し,2021年は「芸術家と神経学」,2022年は「映画を観て精神・神経疾患を知る」を刊行,非常に好評を博しました.そして今年は「アガサ・クリスティーと神経毒」です.一足お先に拝見しましたが,充実した内容で勉強になりますし,何より非常に面白いです!トリカブト,ヒ素,コカイン,ベロナール,ニコチン,シアン化合物,モルヒネ,ベラドンナ・・・私は「蒼ざめた馬」を題材に,無味・無臭・水溶性であるため,実際に静岡,名古屋,京都での殺人事件に使用されたタリウムによる中毒をいかに見抜き,診断・治療するかについて書かせていただきました.以下,私による本号のあとがきです.発売までもう少々です.あらためて告知したいと思います.
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あとがき 
 2021年から始まった恒例のクリスマス特集号の第3弾として,「アガサ・クリスティーと毒薬」をお届けします.課題図書となった「アガサ・クリスティーと14の毒薬(岩波書店)」は,タイトルの通り,クリスティーが作品に使用した14の毒薬を取り上げ,それぞれの特徴やエピソードを紹介したものです.薬理学の講義で,ここで紹介されているような話も併せて聞かせてあげたら,学生もワクワクしながら勉強できるように思います.
 さてクリスティーの作品群で特徴的なことは,何と言っても毒殺が多いことで,長編66作品のうち30人以上の犠牲者が毒殺されています.ではいつ彼女が薬理学に対して理解と知識を深めたのかというと,私の原稿「タリウム『蒼ざめた馬』」にも書きました通り,2つの大戦中に看護師と薬剤師として働いていた時だと考えられています(写真).



 そしてもう一つ,彼女の作品群で特徴的なことは,殺人犯の職業として医師が多いということです.クリスティーの長編作品に短編を加えた101作品の犯人の職業を調べると,不明および無職が32作品ありますが,それを除くと医師が11作品と最多であることが注目されています(Kinnell HG. Agatha Christie's doctors. BMJ. 2010;341:c6438.).ここではあえてタイトルを挙げませんが,確かに,彼女の代表作と言われる作品においても医師による殺人が行われています.もちろん作品に出てくる医師すべてが悪役というわけではなく,善人もいますが,上記のように犯人であったり,第一容疑者リストに含まれて疑われたりすることが多いです.
 ではなぜ殺人犯として医師が多いのでしょうか.単に毒物の専門的知識を有する職業として設定しやすかったとか,医師は社会において信頼されやすく,悪事を行うための隠れ蓑として使われたとかだけではないように思います.おそらく,彼女自身の医療における体験が,死に至らしめる薬剤を投与するという専門的な知識と機会を持つ医師に特殊な感情を抱かせ,医師を独創的な殺人者に仕立て上げたのではないでしょうか.そのような彼女の医師への複雑な感情を想像しながら作品を読むのも楽しいように思います.
 最後に,クリスティーの作品の中には「ポアロのクリスマス」「クリスマス・プディングの冒険」などクリスマスに因んだ作品もあります.クリスマスにクリスティーを楽しんでみてはいかがでしょうか.(下畑享良)


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