Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(8月2日)―若者であっても感染すべきではない― 

2020年08月02日 | 医学と医療
今回のキーワードは,COVID-19感染の影響は長期間持続する(心筋障害および呼吸障害),成人の10~100倍高い小児のウイルス量,脳神経内科医による患者100名の診察,IVIG反応性急性炎症性多発神経根炎,過去の風邪コロナウイルスへの感染が防御因子になる可能性,2つのワクチンのアカゲザルでの効果です.

前回,COVID-19では遅発性ないし長期潜伏性の神経障害を引き起こす可能性があることを紹介しました(doi.org/10.1111/ene.14442).今週は①持病のない若年成人でも,症状が長期化する可能性があること,②診断後2~3か月経過しても高率に心筋損傷がみられ,将来,心不全や心疾患が生じる可能性があること,③退院時においても肺の拡散能障害や拘束性障害が認められることが報告されました.やはりこの感染症は急性期が過ぎればそれで終わりという疾患ではないようです.若者であっても感染すべきではないことを周知する必要性があります.

◆症状の長期持続(1)基礎疾患のない若年成人でも症状は長期化しうる
米国からの報告.外来PCRで感染が確認され,症状を認めるものの入院を要しなかった274名に対し,検査から 2~3 週間後の電話調査で症状の有無を確認した研究が報告された.35%の症例で咳や疲労などの症状が持続し,もとの健康状態に戻っていなかった.また持病のない18~34歳の患者に限っても,19%の症例はもとに戻っていなかった(図1).COVID-19は,基礎疾患のない若年成人でも,症状が長期化する可能性があることを周知する必要がある.
MMWR Morb Mortal Wkly Rep. July 24, 2020 (doi.org/10.15585/mmwr.mm6930e1)



◆症状の長期持続(2)診断2~3か月後に高率に認められた心筋損傷
ドイツ,フランクフルト大学からの研究.呼吸器症状から回復し,PCR陰性となった100名に対し,感染後64~92日目に実施した前方視的観察研究.対照群と比較して,COVID-19回復患者は,心機能低下(左室駆出率の低下や左室容積の増加など)を認めた.心臓MRI検査で78名(78%)にネイティブT1/T2の上昇,心筋後期ガドリニウム造影効果,心膜造影効果などの異常所見を認めた.60名は進行性の心筋炎を呈していた!また一部の患者の心筋内膜生検では,活動性のリンパ球性炎症が認められた.JAMA Cardiol. July 27, 2020(doi.org/10.1001/jamacardio.2020.3557)

またドイツからの別の研究で,COVID-19で死亡した39名の心筋を病理学的に調べたところ,24名(61.5%)にウイルスRNAが同定され(図2),炎症性サイトカインをコードする遺伝子発現も亢進していた.JAMA Cardiol. July 27, 2020(doi.org/10.1001/jamacardio.2020.3551)



以上より,COVID-19は急性期が過ぎればすべて良くなるわけではなく,将来,心不全やその他の心血管疾患に移行する可能性があり,継続的な心機能の評価が必要である.

◆症状の長期持続(3)退院時に肺拡散能の低下がみられる
COVID-19を罹患した110名(軽症24名,肺炎67名,重症肺炎19名)の退院時における呼吸機能検査を評価した中国からの報告.最も多い異常所見は拡散能の障害であり,次いで拘束性障害があった.いずれの障害も,疾患の重症度と相関していた.以上より,肺機能検査として拡散能検査も行うべきで,特に重篤な状態から回復した患者に対しては,定期的なフォローアップが必要である.また呼吸リハビリについても検討すべきであろう.これらの障害が持続するかどうかについては,長期的な研究が必要である.
Eur Respir J 2020 56: 2001832(doi.org/10.1183/13993003.01832-2020)

◆5 歳未満の小児では成人の10~100倍高い量のウイルスRNAが検出される
米国シカゴからの報告.小児は成人と比べて症状は一般に軽症であるが,ウイルス量について比較した報告はほとんどない.発症から1週間以内の軽~中等度の患者145名の鼻咽頭拭い液のウイルスRNA量を年齢別に3群に分けて比較した.患者の内訳は5歳未満(46名),5~17歳(51名),18~65歳(48名)であった.CT値(PCR増幅サイクル閾値のことで,低値ほどウイルスRNA量が多い)の中央値(四分位間距離)は,順に6.5(4.8~12.0),11.1(6.3~15.7),11.0(6.9~17.5)であった(図3).これは5歳未満の小児のウイルスRNA量は成人の10~100倍も多いことを意味する.つまり小児は,一般集団において感染の促進因子となる可能性があり,警戒を要する.また将来のワクチン摂取のターゲットとしても重要と考えられる.
JAMA Pediatr. July 30, 2020(doi.org10.1001/jamapediatrics.2020.3651)



◆神経合併症(1)脳神経内科医が診察した患者における神経筋症状は88%
COVID-19における神経筋合併症への注目度が増しているが,その頻度やタイプは十分に明らかにされていない.スペインの単一施設による研究で,内科病棟に入院し,脳神経内科医チームによる診察を受けた患者を対象に,神経筋症状の頻度や種類を検討することを目的とした.8人の神経内科医が連続100名の入院患者を対象に評価を行なった.88%が入院中にCOVID-19に関連した神経筋症状を少なくとも1つ有していた(2症候が58%,3症候が29%).最も多かったのは,嗅覚障害・味覚障害および頭痛(各44%),筋痛(43%),めまい(36%)で,次いで脳症(8%),失神(7%),痙攣発作(2%),入院期間中の虚血性脳卒中(2%)であった.嗅覚障害と頭痛は重症度の低い若年患者に関連しており,血清炎症マーカーとも関連していた.脳症は発熱や失神,炎症マーカーと関連していた.以上より,神経合併症は稀でなく,特に脳神経内科医による評価を受けた患者では高率に認められる.
Neurol Clin Pract. July 23, 2020(doi.org/10.1212/CPJ.0000000000000913)

◆神経合併症(2)IVIgに反応する急性炎症性有痛性多発神経根炎
ブラジルからの38歳男性の症例報告.5日間の発熱,咳嗽,疲労感,呼吸困難を呈し,ICUに入室,人工呼吸器を要した.ICU入院から15日後に両下肢近位部に耐え難い痛みを訴え始め,critical illness neuropathyの診断で,モルヒネ,デュロキセチン,プレガバリンが開始された.20日目にPCR陰性となり,疼痛が持続した状態で退院した.退院後5日目の脳神経内科医の診察では,疼痛VASは10/10と極めて強い痛みであった.治療薬の調整後(デュロキセチン,プレガバリン,アミトリプチリン,モルヒネ,ビタミン補給),数日でVASは0/10になった.しかし1週間後,灼熱感を伴う疼痛が再度出現し,両側のL5支配筋の筋力低下,両下肢の痛覚低下,強いアロディニアを伴っていた.脊髄MRIでは両側L5の造影効果が認められた(図4).髄液は蛋白細胞解離を認めた.急性炎症性有痛性多発神経根炎を疑い,IVIGを行なったところ,徐々に改善し,治療3週間後には臨床的に有意な改善が得られた.
Neurol Clin Pract. July 28, 2020(doi.org/10.1212/CPJ.0000000000000910)



◆過去の風邪コロナウイルスへの感染時に生じたT細胞が健常者の防御因子になる可能性
COVID-19感染者の臨床像は,無症状から重症までさまざまである.このような予後を決定する機序は未だ解明されていない.シャリテ・ベルリン医科大学等からの研究で,COVID-19患者18名および未感染の健常者68名において,末梢血のCD4+ T細胞のウイルス・スパイク蛋白質への反応を調べたところ,COVID-19患者では83%にスパイク蛋白質に反応するCD4+ T細胞を認めた一方,なんと健常者でも35%に認められた.未感染健常者から作製したスパイク蛋白質反応性T細胞株は,ヒト固有のコロナウイルスである229E,OC43,そしてSARS-CoV-2のC末端スパイク蛋白質に対して同様の反応を示した.このことは,おそらく風邪を引き起こす一般的なコロナウイルスに過去に感染した際に,このスパイク蛋白質交差反応性T細胞が生じた可能性が考えられた.一般集団の35%にも認められるスパイク蛋白質交差反応性T細胞の存在の意義は重要で,パンデミックに対し防御的に作用している可能性や,今後のワクチン治験のデザインおよび解析に考慮が必要である.研究チームはこのT細胞を有する場合,症状が軽症で済むかの検討を行う予定とのこと.
Nature. July 29, 2020(doi.org/10.1038/s41586-020-2598-9)

◆ワクチン(1)Moderna社のmRNA-1273ワクチンがサルでの感染を阻止
非ヒト霊長類であるアカゲザルに,mRNA-1273ワクチンを10ないし100μg接種したところ,ヒト患者の回復期血清中の抗体レベルを上回る強力な中和活性が誘導された(図5).またワクチン接種は,スパイク蛋白質への1型ヘルパーT細胞(IFNγ, IL-2, TNFα)反応を誘導し,2型(IL-4, IL-5, IL-13)反応の誘導は認めないかわずかであった.この状況はワクチンの副作用として懸念されるワクチン関連増強呼吸器疾患(VAERD; vaccine-associated enhanced respiratory disease)は通常,引き起こさない.またワクチン接種群の8匹中7匹のアカゲザルでは,チャレンジ後2日目までに肺胞洗浄液中のウイルス複製は検出されなかった.さらに100μg投与群の8匹のサルの鼻腔拭い液検体でも,ウイルス投与後2日目までにウイルス複製は認められず,いずれのワクチン群の肺でも炎症や検出可能なウイルスゲノム,抗原は限定的であった.
NEJM. July 28, 2020(doi.org/10.1056/NEJMoa2024671)



◆ワクチン(2)Ad26ベクターによるワクチン単回接種がサルでの感染を阻止
米国ハーバード大学などからなる研究チームの報告.スパイク蛋白質を発現するアデノウイルス血清型26(Ad26)ベクターによるワクチンの単回接種の免疫原性と保護効果についての研究が報告された.単回接種にしたのは,1回の接種だけで済むワクチンが理想的であるためだ.アカゲザル52匹を,ワクチンまたは偽薬で免疫し,鼻腔内および気管内ルートからウイルス感染を行ない,効果を確認した.Ad26 ワクチン群では強力な中和抗体反応が誘導され,ウイルス投与後の肺胞洗浄液および鼻腔拭い液において完全,もしくはほぼ完全に保護効果を示した.またその保護効果はワクチンにより誘発された中和抗体価と正の相関を示した.現在,臨床試験が開始されている.
Nature. July 24, 2020(doi.org/10.1038/s41586-020-2607-z)

★下図はアメリカ疾病予防管理センター(CDC)から出された啓発用ポスターである.持病のない若者であっても診断の2-3週後の時点で,元の健康の状態に戻らないことを強調している.現在,第2波が訪れ,有効な対策が取られていない状況で,さらに感染者の増加が進むと思われる.最新の研究では,たとえ若者であっても感染しないことが望ましいことを多くの人に知って頂く必要がある.


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