Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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ALSにおける制御不能な笑い・泣きに新しい治療

2004年11月04日 | 運動ニューロン疾患
ALSでは,制御不能な笑いまたは泣き(pseudobulbar affect;PBA)を呈することがあるが,とくに球麻痺型の症例ではその傾向が強い.治療としてSSRIなどの抗鬱薬が使用されるが,現在までFDAにおいて認可された薬剤はない.一方,Dextromethorphan(DM)はNMDA受容体拮抗薬で,グルタミン酸毒性を抑制すると考えられている.ALSでは以前より,グルタミン酸神経毒性仮説があり,DMを用いた臨床治験も行われてきたが効果は認めなかった.その原因のひとつとして,DMが体内で非常に早く代謝されてしまう可能性が考えられていた.
DMは肝臓でcytochrome P450 2D6 isozyme(CYP2D6)により代謝されるが,その阻害剤であるquinidine sulfate(Q)とDMを併用した治療研究(RCT)が行われた.今回はその短期的な効果,とくにPBAに対する効果と副作用について報告された(多施設研究).ALS 140名をDMのみ,Qのみ,両者併用(AVP-923と名づけられている)の3群に割付し,評価を1,15,29日目に行った.評価項目はCenter for Neurologic Study Lability Score(CNA-LS)と,泣き笑いの回数,QOL-VAS等.この結果,併用群はDMのみ,Qのみ群と比較し,有意にCNS-LSが良好で,泣き笑いの回数も減少,QOLも改善した.副作用も多くの場合,軽度であった.
今後,この治療の長期的効果が検討されることになるが,同じNMDA受容体拮抗作用を持つリルゾールとの効果の違いがあるのかなど興味がもたれる.日本でもメチルコバラミン(グルタミン酸を抑制する)の効果が検討されているが,やはり多施設で症例数を増やし,RCTを行うという形にしないと世界的には認められないだろう.今回の研究は,わずか1ヶ月間の観察期間でありながら,十分な症例数を集めたRCTであれば,意義深いエビデンスが確立するということを改めて認識させるものだと思う.

Neurology 63;1364-1370, 2004
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