Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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CBDの臨床像と新しい臨床診断基準(1)

2013年03月18日 | その他の変性疾患
大脳皮質基底核変性症(CBD)は,病理学的には,前頭・頭頂葉により強い大脳皮質萎縮が認められ,黒質のメラニン含有神経細胞が減少する.顕微鏡的には大脳皮質,皮質下,脳幹の諸核に神経細胞脱落とグリオーシスを認め,神経細胞およびグリア細胞内に異常リン酸化タウが蓄積する4 repeat tauopathyである.中でもastrocytic plaqueは本疾患に特異的な所見である.

近年,病理学的に診断されたCBDの臨床表現型は,実は極めて多彩であることが明らかになり,従来の臨床診断基準は役に立たない状況になっている.つまり従来の臨床診断基準でCBDと診断しても,病理学的にもCBDであった症例はわずか25%~56%であると報告されている.現在,従来のCBDの診断基準を満たした症例はcorticobasal syndrome(CBS)と呼ばれている.今後の治療開発や治験を考えた場合,CBDの臨床診断基準は不可欠である.(注;CBDは病理診断名,CBSは臨床診断名として使用する.CBSについてはBrain & Nerveの特集号が分かりやすい).

今回,新しいCBDの臨床診断基準が提唱された.行動神経学,神経心理学,運動性疾患の専門家からなる国際コンソーシアムがsystematic reviewに基づいて作成し,Neurology誌に報告したのだ.病理学的にCBDと診断された症例を文献とブレインバンクから集積し,そのなかから頻度の高い症状を明らかにし,臨床表現型のサブタイプ分けを行い,そのうえで診断基準を作成している.

方法としては,まず従来のCBDの臨床診断基準をレヴュー後,行動神経学,神経心理学,運動性疾患の専門家が集まり,文献ち経験に基づき,臨床表現型サブタイプと診断基準が草稿された(これは2009年のことであり,作業が難航したことが伺える).具体的にはcorticobasalなどの検索語を用いてsystematic review(808論文のうち37論文が基準を満たし検討の対象となった)を行なった.絞り込みの条件としては,少なくとも5例の剖検例を含み,臨床症候に関する情報が入手できることとした.加えて5つのブレインバンクの106症例の未発表データも追加した.所見はいずれかの受診時(病初期)のもの(平均3.0±1.9年)と全経過に分けて確認した.

① 従来の診断基準の特徴
非対称性の運動障害と,非対称性の大脳皮質症状が必須であった.認知症をどう扱うかがCBSとCBDでは異なり,従来の診断基準では「初期の認知症」は診断基準の特異性を向上するため除外項目として扱われたが,現在はCBDにおける主要徴候と考えられている.

② CBDの臨床像
1. 運動徴候(診察時/全経過)
四肢の筋強剛 57%/85%
姿勢反射障害 48%/76%
無動 41%/76%
転倒 36%/75%(姿勢反射障害と同程度で起きる)
歩行異常 33%/73%(その特徴は十分に明らかではない)
体軸筋強剛 27%/69%
振戦 20%/39%(いろいろな種類を含み,PDとは異なる)
四肢ジストニア 20%/38%
ミオクローヌス 15%/27%

(コメント)低振幅の運動性ミオクローヌスは振戦と間違える可能性がある.一部のCBD症例では,一時的にL-DOPAが軽度から中等度有効なことがあるが,持続して有効性が見られることはなく,L-DOPA誘発性ジスキネジアの記載はない.四肢ジストニアやミオクローヌスはCBSで多いという報告はあるが,CBDに限ると多くはない.ミオクローヌスは上肢に多いが顔面にも生じうる.

2. 大脳皮質症状(診察時/全経過)
認知機能障害 52%/70%
行動変化 46%/55%
四肢失行 45%/57%
失語 40%/52%
うつ 26%/51%
皮質性感覚障害 25%/27%
Alien limb 22%/30%

(コメント)失行は従来の診断基準の中核となる徴候で,そのなかでは観念運動失行が多い.錐体外路徴候が強くなると肢節運動失行など失行の評価は難しくなる.CBDでは口頬失行や開眼失行も認められる.Alien limb phenomenonはしばしば認められるが,従来の診断基準では定義がさまざまでその確認が必要である.言語障害はCBDではよく認められ,全経過では52%に認めた.タイプはprimary progressive aphasia (PPA),progressive aphasia (PPA),progressive nonfluent aphasia (PNFA)と記載されているが,これらは一部重複があると思われる.失語症は無言症に進行しうる.発語失行や構音障害の記載もある.記憶障害はこれまで過小評価されてきた.行動変化や遂行機能障害は少なからず認められる.うつは半数で認められるが,うつの有無についての記載は多くない.幻覚は極めてまれである.

3. その他
眼球運動異常 33%/60%
腱反射亢進 30%/50%
言語変化 23%/53%

(コメント)眼球運動障害については詳細な記載が乏しい.腱反射亢進は多いものの,他の非典型パーキンソニズムでも認められるため,それらとの鑑別には役に立たない.

③ CBDの臨床診断(最終診断)
CBS 37.1%
PSPS 23.3%
FTD 13.8%
AD-like dementia 8.1%
Aphasia (PPA/PNFA) 4.8%
PD 3.8%

④ CBD臨床病型(初期診断)
CBS 27.1%
FTD and PD or atypical PD 15.5%
Aphasia 14.7%
AD/ dementia 9.3%
PSPS 6.2%

⑤ CBDのその他の特徴
1.年齢 発症63.7±7.0歳(45~77.2歳)
2.罹病期間 平均6.6年±2.4年(2.0~12.5年)
3.家族歴 1家系のみ家族内発症例あり.タウ遺伝子変異(N296N)でCBD病理に類似した症例の報告もある.このようなまれな症例をどう扱うかは決まりがない.CBSではGRN遺伝子変異の報告がある.
4.臨床表現型を鑑別する症候や,CBDに特徴的な画像やバイオマーカーに関する論文はほとんどない.このため診断基準にlaboratory-supported diagnostic categoryは作れなかった.

以上を踏まえて,CBDの臨床表現型サブタイプと,新たな診断基準を検討する事になった.以下,(2)につづきます.

Armstrong MJ et al. Criteria for the diagnosis of corticobasal degeneration. Neurology 80; 496-503, 2013
饗場郁子.Corticobasal syndrome─最近の進歩と今後の課題.Brain & Nerve 64;462-473, 2012
下畑享良,西澤正豊.CBSの臨床.Brain & Nerve 65; 31-40, 2013
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