Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(11月14日)  

2020年11月14日 | 医学と医療
今回のキーワードは,安全なワクチン開発に要する時間,過去の流行性コロナウイルス感染の効果,ヒト→ミンク→ヒト感染によるクラスター,退院患者の再入院,精神疾患とCOVID-19の双方向性の関係がある,嗅覚神経からの感染を示すMRI画像,COVID-19によるギラン・バレー症候群は本当か?,抗うつ薬が重要化防止に有効かもしれないです.

ファイザーとビオンテックのRNAワクチンの中間解析については情報不足でよく理解できませんでした.ただ次に紹介する過去のワクチンがどのように承認されたかに関する論文は参考になると思います.

◆安全なワクチン開発に要する時間.
COVID-19に対するワクチンの安全性は重要な問題である.どのぐらいの人数を,どの程度の期間,検討すれば安全性が担保されるのか,過去10年間,米国食品医薬品局(FDA)が承認した21種類のワクチンを検討した研究が報告された.ワクチンの種類は,インフルエンザと髄膜炎球菌が5種類ずつと最多であった.また市販前臨床開発期間は8.1年で(以下,数値は中央値),7つの臨床試験のエビデンスに基づいて承認されている.各試験の患者数は6710名,有害事象の観察期間は6ヶ月であった.→ 米国のワクチン開発は「ワープ・スピード計画」と名付けられたが,確かに従来のワクチン開発と比較にならないスピードでの承認が求められている.著者は安全性を確保するために,従来より大規模な試験を行うこと,ならびに有害事象の発現までの十分な期間観察することが必要だと述べている.ちなみにファイザーのワクチンの臨床試験は4カ月足らず前に始まったばかりである.
JAMA Intern Med. Nov 10, 2020.(doi.org/10.1001/jamainternmed.2020.7472)

◆過去の流行性コロナウイルス感染は重症化を防ぐ.
4 種類の流行性コロナウイルス(OC43, HKU1, NL63, 229E)は季節性の「風邪」の原因である.これらの流行性コロナウイルスは,SARS-CoV-2ウイルスと多くの配列を共有している.米国から,2015年から調査されていた呼吸器病原体検査により,上記の4 種類の流行性コロナウイルス感染歴を有する者875名と有さない者15053名を比較し,COVID-19の臨床像に違いがあるかを検討した研究が報告された.両群で感染率は同等であったが,流行性コロナウイルスに感染したことのある患者では,COVID-19の重症化率(集中治療室使用や死亡)が有意に低かった.以上より,流行性ヒトコロナウイルスに対する過去の感染経験は,SARS-CoV-2感染を防ぐことはできないが,病状を緩和することが示唆された.
J Clin Invest. Sep 30, 2020.(doi.org/10.1172/JCI143380)

◆ミンクからヒトへの感染によるアウトブレイク.
動物実験において,SARS-CoV-2に感染することがわかっている動物は,ヒト以外の霊長類,ネコ,フェレット,ハムスター,ウサギ,コウモリなどである.また,フェレット,ミンク,イヌからもSARS-CoV-2のRNAが検出されている.さてオランダから,16ヶ所のミンク農場で発生したクラスターに関する調査結果が報告された.このウイルスは,最初はヒトからミンクに感染し,その後,ミンクの中でさまざまに変異したことが明らかになった(図1に1つの農場における変異の過程を示す).バイオセキュリティの強化,早期の警戒・監視,感染農場の即時閉鎖にもかかわらず,大きなクラスターが離れた3つのミンク農場で発生し,農場間の感染伝播の機序は分からなかった.ミンク農場の住民,従業員,接触者97名のうち66名(68%)がSARS-CoV-2に感染していたが,全ゲノム解析の結果から,感染者はミンク由来の株に感染しており,ミンクからヒトへの感染が裏付けられた.
Science. Nov 10, 2020(doi.org/10.1126/science.abe5901)



◆退院患者の11人に1人が,2カ月以内に再入院する.
米国の865病院のデータを用いて,12万6137人の入院患者を特定した.約15%が入院中に死亡していた.また退院患者のうち,9%が入院から2ヵ月以内に再入院していた.再入院の危険因子は,慢性閉塞性肺疾患(COPD),心不全,糖尿病,慢性腎疾患(CKD)を有する患者,65歳以上の高齢者,感染前の3ヶ月に入院していた患者などであった.以上より,第3波により再度,医療体制への負担が危惧されているが,考慮の際に,再入院による追加のベッドとリソースを考慮する必要がある.
MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2020;69:1695–1699.(doi.org/10.15585/mmwr.mm6945e2)

◆精神疾患とCOVID-19には双方向性の関係がある.
米国から電子カルテネットワークを用いたコホート研究が報告された.COVID-19患者62354名のデータを用いて,COVID-19感染が精神疾患を増加させるか,また逆に精神疾患の既往歴のある患者ではCOVID-19の罹患が多いかを検討した.まずCOVID-19の診断後14~90日における任意の精神疾患(不安や不眠など)の発生率は18.1%であった.逆に前年に精神疾患の診断を受けている場合,受けていない場合と比較して,COVID-19の罹患率が65%高くなった(相対リスク1.65;p<0.0001)(図2).以上より,COVID-19は精神疾患発症のリスクとなること,ならびに1年以内の精神疾患の発症は,COVID-19の独立した危険因子である可能性が示唆された.
Lancet Psychiatry. Nov 9, 2020(doi.org/10.1016/S2215-0366(20)30462-4)



◆MRI所見が嗅覚神経路からの感染を明確に示した脳炎患者.
フランスからの報告.96歳女性が発熱と全身性けいれんにて入院した.入院2日前から,嗅覚消失,意識障害,行動異常が見られた.上咽頭および髄液PCRは陰性であったが,胸部CTからCOVID-19が疑われ,入院10日後に血清抗体が陽性となった.頭部MRIでは嗅覚路の異常信号を認めた(図3). FLAIR(A,B)では,嗅覚伝導路である直回(1),前帯状回(2),第一前頭回の極部(3),そして軽微だが梨状皮質(4),扁桃体(5),前部海馬(6)の異常信号が示された.造影効果は認めなかった(C).前頭回では拡散抑制が認められた(D:DWI,E:ADC).胸部CT(F).
Neurology. Nov 5, 2020.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000011150)



◆COVID-19とギラン・バレー症候群(GBS)の関連性の証明.
COVID-19におけるGBSの報告は散見されるものの,ジカウイルス感染症の場合に示されたように,発生率の増加を証明した報告がないことから,両者の因果関係に疑問を呈する専門家もいた.今回,イタリア北部の12病院におけるGBSの発生率に関する研究が報告された.2020年3月~4月に診断されたGBS症例を後方視的に収集し,対照として,前年度の同時期の症例と比較した.この結果,2020年のGBS発症率は0.202/10万人/月であったのに対し,2019年では0.077/10万人/月で,2.6倍に増加していた.COVID-19陽性患者におけるGBSの推定発症率は47.9/10万人,COVID-19入院患者では236/10万人であった.COVID-19に伴うGBSは,前年のGBSと比較し,筋力MRCスコアが低く(26.3対41.4,p=0.006),脱髄型が多かった(76.6%対35.3%,p=0.006).以上より,COVID-19とGBSの関連性が証明された.COVID-19関連GBSは主に脱髄型で,重症度が高いが,全身状態が重症度に関与している可能性もある.
J Neurol Neurosurg Psychiatry. Nov 6, 2020(doi.org/10.1136/jnnp-2020-324837)

◆抗うつ薬が重要化防止に有効かもしれないという2つの論文.
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であるフルボキサミンは,サイトカイン産生を調節するシグマ1受容体を刺激することで,臨床症状の悪化を予防する可能性がある.米国から,軽症COVID-19に対して,フルボキサミンが臨床症状の悪化を防ぐことができるかを検討した研究が報告された.対象は発症7 日以内で,酸素飽和度が92%以上の成人外来患者152名であった.フルボキサミン100 mg(80名)または偽薬(72名)を1日3回,15日間内服するように割り付けた.主要評価項目は無作為化後15日以内の臨床症状の悪化とした.臨床症状の悪化は実薬群で80人中0人,偽薬群で72人中6人に認められた(絶対差8.7%;log-rank P = 0.009)(図4).症例数が少なく,追跡期間が短いという問題があり,今後の大規模臨床試験が必要である.
JAMA. Nov 12, 2020(doi.org/10.1001/jama.2020.22760)



しかし,最近報告されたScience誌の論文で,SARS-CoV2,SARS-CoV,MERS-CoVという3つのウイルス共通に相互作用する分子としてシグマ1受容体が同定され,さらにリアルワールドのデータとして,抗うつ薬としてシグマ1受容体リガンドを投与されている患者では,COVID-19に罹患しても入院する率が半分以下に減少していることが報告された(図5).シグマ1受容体は重要な治療標的である可能性がある.
Science. Oct 15, 2020(doi.org/10.1126/science.abe9403)




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