Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(4月18日)  

2020年04月18日 | 医学と医療
今回のキーワードは,発症前感染の多さ,医療者の死を防ぐ対策,医療行為と感染リスク(非侵襲的陽圧換気と心肺蘇生),T細胞への感染,新規治療(レムデシビル,クロロキン,エブセレン)です.

◆発症前感染の多さ.中国からの報告.まず患者94名の咽頭ぬぐい液のウイルス排出量は発症時に最も高いことを示している.次に最初の患者とその人が感染させた患者ペア77組を調べ,何とその44%(95%信頼区間25-69%)では,最初の患者の発症前に次の患者への感染が生じたと推定している.発症前2.3日から次の人に伝播が可能となり,発症前0.7日が最も伝播しやすい(図1).→ 自身が感染しているかもしれないと思って行動する必要があるし,濃厚接触者の追跡は発症前にまで対象を広げる必要がある.Nat Med. April 15, 2020



◆鼻咽頭検体採取.気道粘膜の採取のための手技の動画が公開されている.注意すべき点として,最近の鼻の手術や外傷,顕著な鼻中隔弯曲症,慢性的鼻腔閉塞,高度の凝固異常症を挙げている.手技としては,まず鼻をかんでもらい,そのあと少し頭部を後方にそらすと検体を採取しやすい,また目を閉じてもらうと不快感が軽減できると延べている(図2).NEJM. April 17, 2020



◆医療者の死への対策.2論文が報告されている.まずインターネットを用いた4月5日時点の調査.198名の医師の死亡を見出した(49名は情報不完全).90%(175/194名)が男性,年齢は中央値66歳(28-90歳),57歳以上が3/4を占めた.内訳は一般開業医(GP)と救急医師が78名,内科専門医11名,歯科医9名,耳鼻科医8名,眼科医7名,麻酔科医6名,呼吸器科医5名と診療科は多岐に及んだ.国別ではイタリア79名,イラン43名,中国16名,フィリピン14名,米国9名で,イタリアは年齢が69歳と最も高かった → 高齢医師を守る仕組みが不可欠(medRxiv. April 08, 2020).
2つ目は中国からの論文.湖北省で23名の医療者が死亡した.16名が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を呈し急速に悪化したが,そのうち13名は50歳以上であった.23名中呼吸器科医は2名のみ,感染症専門医はいなかった.診療援助のために湖北省に入った42600名の医療者のうち,3月31日の時点で感染者(死亡者ではない)はゼロ! → 不適切,不十分な感染予防は医療者の死に繋がるが,適切に行えば防止できるという論文.(NEJM April 15, 2020)

◆臨床(1).味覚・嗅覚消失.スマホアプリ「COVID Symptom Tracker」の157万人超のデータと,PCR検査を組み合わせた英国から研究.味覚・嗅覚消失はPCR陽性患者579名の59%に認められたのに対し,PCR陰性1123名では18%であった(オッズ比6.59).よって味覚・嗅覚消失は感染を示唆する重要な所見と考えられる.また味覚・嗅覚消失に加え,発熱,持続する咳,疲労感,下痢,腹痛,食欲消失を組み合わると,感度0.54,特異度0.86,ROC-AUC 0.77となり,PCR検査前の問診に有用である.medRxiv. April 07, 2020

◆臨床(2).免疫性血小板減少症(ITP).65歳フランス人女性.4日間の疲労感,発熱,咳にて入院し,入院後4日目に下肢の点状出血(図3),鼻出血を呈した.血小板は6.6万で,7日目には8000まで低下した.抗血小板抗抗体は陰性.骨髄穿刺では異常なく,巨核球は増加.免疫グロブリン療法を行ったものの,9日目にクモ膜下出血を合併,血小板も2000まで低下した.血小板輸血,プレドニゾロン100 mg,エルトロンボパグ(トロンボポエチン受容体アゴニスト)投与を行い,13日目に血小板数は正常化した.COVID-19では血小板減少が生じることは有名だが,重症例も存在する.NEJM. April 15, 2020



◆臨床(3).重度例における脳症・脳梗塞.ARDSを呈した58名の検討.ICUにおいて混迷を65%(26/40名),錐体路徴候を67%(39/58名)に認めた.退院時に注意障害,見当識障害等を36%(14/39名)に認めた.13名に施行した頭部MRIでは,軟膜造影パターンを8名,脳梗塞を3名(急性期2名,亜急性期1名),前頭側頭葉血流低下を全例に認めた.7名に行った髄液検査では2名にオリゴクローナルバンドを認めた.→ 重症例では脳症,脳梗塞に注意が必要.NEJM. April 15, 2020

◆医療行為と感染リスク(1).非侵襲的陽圧換気療法(NPPV).CPAPなどのNPPVは,睡眠時無呼吸症候群や呼吸不全を合併する神経変性疾患等に使用される.しかしWHOはこれらを,エアロゾルを生成する高リスク機器と考えており,使用時に医療者はPPE(個人用保護具)を着用する必要があるとしている.しかし種々の学会ガイドラインではこの点について言及されていない.SARS-CoV-2ウイルスはエアロゾルになったのち空中に留まることから(半減期1.1時間),NPPV使用が家族や介護者の感染を招く可能性がある.命に関わる場合を除き,一時的に家庭内におけるNPPV使用を中止し,危険性と有益性の評価を行うべきである.Thorax. April 9, 2020

◆医療行為と感染リスク(2).心肺蘇生法(CPR).COVID-19患者のCPRの方針は,医療者に感染リスクをもたらすこと,医療資源が限られていることから従来とは異なるものとなる.また重篤な基礎疾患を有することが多いため,心筋炎などの心臓合併症を認め,除細動により回復しうる場合を除いては,きわめて生命予後が不良である.DNAR(Do Not Attempt Resuscitation),すなわち心肺停止になった時にCPRを行わない状況としては3パターン考えられる.①患者,家族がCPRを望まない場合(アドバンス・ケア・プランニングがある場合).②患者,家族が医師からのCPRの中止の推奨に従う場合.③医師が一方的にCPRを行わない場合.COVID-19では②③の選択肢も起こりうる.②は「インフォームド・アセント」と呼ばれるもので,家族にCPR中止の意思決定の責任を求めるのではなく,医師が一定の責任を負うことを伝えて,家族の心理的負担を軽減するというものである.論文では具体的な手順を紹介しているが,患者の価値観に焦点を当てた双方向コミュニケーションが重要と強調している.JAMA. March 27, 2020; BMJ 2020;369:m1387

◆基礎研究(1).T細胞への感染.COVID-19ではリンパ球減少が生じ,とくにCD 3+,CD4 +,CD8+細胞の低下は死亡率と関連する.しかしSARS-CoV-2ウイルスがT細胞に感染し,リンパ球減少を招くかは不明である.研究では感染力のない偽ウイルスと本物のウイルスの両方を用いて,T細胞への感染実験を行っている.この結果,①ウイルスはT細胞に感染すること,②その感染は受容体依存性で,スパイク蛋白を介する細胞膜同士の融合によって生じること,③感染はスパイク蛋白を介する融合を抑制するEK1ペプチドにより阻止できることを示した.しかしT細胞はACE2の発現が極めて低いため,異なる新規の受容体を用いている可能性が指摘している.Cell Mol Immunol. April 7, 2020

◆基礎研究(2).重症化因子としての喫煙.手術時に採取した肺組織を用いた検討で,慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者や喫煙者では,SARS-CoV-2ウイルスが感染に使用する受容体ACE2の発現が,RNAおよびタンパクレベルで対照より高いことが示された.このためCOPD患者や喫煙者は感染リスクが高くなる可能性がある.また禁煙をした人のACE2発現レベルは非喫煙者と同程度であり,喫煙者は重症化防止のために禁煙すべきと述べている(Eur Resp J. April 8, 2020).またプレプリントではあるが,12論文(合計9,025名)を対象としたメタ解析では,喫煙者・経験者の重症化率は17.8%,非喫煙者では9.3%で,オッズ比は2.25(95%信頼区間1.49-3.39,P=0.001)と,臨床的にも重症化因子としての喫煙が確認された(図4)(medRxiv. April 16, 2020).



◆新規治療(1).レムデシビル.エボラ出血熱治療薬として開発されたウイルスRNAポリメラーゼ阻害剤レムデシビルをcompassionate use(人道的使用;代替薬がないため未承認薬の使用を認める制度)した臨床試験.対象は酸素飽和度が酸素投与下でも94%未満の症例.9名の日本人を含む53名が解析の対象.中央値18日間の経過観察後,36名(68%)が改善し,酸素投与が不要になった(図5).治療開始前,侵襲的治療が34名に行われていたが(人工呼吸器30名,ECMO 4名),治療により人工呼吸器の30名中17名(57%)が抜管でき,ECMO 4名中3名は離脱した.最終的に25名(47%)が退院,7名(13%)が死亡した.侵襲的治療群34名では死亡率が18%(6/34名),非侵襲的治療群では5%(1/19名)であった.重篤な副作用なし.→ かなり有効そうに見えるが,それでも対照がないため評価が難しい.日本の観察研究も有効であったとしても同じことになる.NEJM. April 10, 2020



◆新規治療(2).4月10日に有効そうと紹介したクロロキン(CQ)・ヒドロキシクロロキン(HCQ).ブラジルでの440名が参加予定だった高用量CQ(600 mg,1日2回,10日間,合計12 g)ないし低用量CQ(450 mg,1日2回,5日間,合計2.7 g)によるランダム化比較試験で,QT延長症候群が高用量群で25%(7/28名),低用量群で11%(3/28名)に認めた.死亡率も高用量群で高く(17%),81名参加の時点で試験は中止された.少なくとも高用量CQは用いるべきではない(medRxiv. April 11, 2020).
さらにフランスの4病院から2 L/min以上の酸素投与を要する患者に対し,HCQ 600 mgの効果を検証する181名のリアルワールド・データの検証が報告された.複合エンドポイントはICU入室+死亡とした.入院後48時間以内に治療を開始したHCQ群84名と非HCQ群97名の比較では,両群に複合エンドポイントに有意差はなし(20.2% vs 22.1%;リスク比0.91).HCQ群で8名(9.5%)に治療中止を要する心電図異常を認めた.低酸素を認める患者にHCQの効果は乏しい(medRxiv. April 14, 2020).

◆新規治療(3).SARS-CoV-2の薬剤標的として,ウイルスが複製に使用するメインプロテアーゼ(MPro)があり,MPro阻害薬のリード化合物(医薬品開発の元となる化合物)が合成されたことは3月25日に紹介した(Science. March 20, 2020).今回,強力なMPro阻害薬として,有機セレン化合物ebselen(エブセレン)が発見された.本薬剤は日本でも急性期脳梗塞に対して臨床試験が行われており(Stroke. 1998; 29;12-17),安全性も確認されている.今後,期待される新たな薬剤候補である.Nature. April 09, 2020.
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