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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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若年者における脳炎の鑑別診断として考慮すべき SSPE

2004年11月12日 | 感染症
SSPE(Subacute Sclerosing Panencphalitis;亜急性硬化性全脳炎)は,麻疹が治癒した後,脳内で変異した麻疹ウイルス(SSPEウイルス)が脳内に潜伏し,長い潜伏期(5~10年後)の後に発症する脳細胞を冒す進行性の病気で,発症後,亜急性の進行を呈する疾患である.持続感染や発症の機序については不明.発症年齢は1歳から29歳(5歳から12歳が8割を占める).症状としてはけいれん,脱力発作,歩行障害,学業成績低下尿失禁,感情爆発などが見られ,最終的に植物状態に至る.麻疹罹患者の10~50万人に1人の発症といわれる稀な疾患である.診断は髄液麻疹IgG上昇が決め手となる.
 今回,California Encephalitis Project(1988~2003年)において,脳炎1000例のうち5例がSSPEであったことが報告された.うち3例は鑑別診断にSSPEは考慮されていなかった.この理由としてSSPEが稀な疾患であることと,特異的な症状を欠き診断しにくいことが挙げられる. 
 SSPEの治療として,近年,免疫賦活剤であるinosiplex内服とIFN-alphaの脳室内投与の併用が有効であると報告され,さらにribavirinを併用することで寛解に導入できた症例も報告されており,早期発見は今後より重要であると言えよう.

Neurology 63; 1489-1493, 2004

細菌性髄膜炎の新しい診断マーカー

2004年11月01日 | 感染症
脊髄造影の合併症として,稀ながら症候性の無菌性髄膜炎を発症することがある.造影剤誘発性無菌性髄膜炎は,通常,急性発症し,発熱,項部硬直を呈し,重症化することがある.検査所見では白血球増加,CRP上昇,髄液多核球増加を呈する.治療として抗生剤は理屈上は不要であり,副作用を来たしうることを考慮するとその使用は最低限にとどめるべきであるが,実際には細菌性髄膜炎との鑑別が困難なため,多くの症例では抗生剤を使用しているものと思われる.
 今回,造影剤誘発性無菌性髄膜炎と,細菌性髄膜炎の鑑別に,血漿プロカルシトニン(PCT)が有効かを検討した研究が報告された.PCTは,近年,敗血症のマーカーとして注目されている分子量 13kDaの蛋白で,カルシトニンの前駆蛋白として甲状腺のC細胞において生成される.炎症時においては,肺や小腸の神経内分泌細胞や,血液の単核細胞においても生成されるとの報告がみられる.すでに細菌性髄膜炎とウイルス性髄膜炎の鑑別に,血清PCT測定が有用であることが報告されている.
今回,造影剤誘発性無菌性髄膜炎1例と,細菌性髄膜炎の7例において,血清PCTを測定した.この結果,血清PCTは前者では上昇を認めず,両者の鑑別にも血清PCTが有用であることが示唆された.
血清PCTは,今後,細菌感染症の早期診断に使用される可能性が高いが,重症の細菌・真菌・寄生虫感染症の診断のパラメーターであり,細菌感染に対する全身的な反応の過程でのみ生成される.すなわち,ウイルス感染,慢性炎症性疾患,自己免疫疾患,アレルギー性疾患はもとより,局所に限局した細菌感染では上昇しないことを認識しておくべきである.

Neurology 63; 1311-1313, 2004

細菌性髄膜炎の臨床的特徴および予後因子

2004年10月30日 | 感染症
急性細菌性髄膜炎に罹患した成人患者の臨床的特徴・予後因子を明らかにするため,オランダで全国規模の研究が行われた.方法は1998~2002年にかけて,髄液検査にて市中感染性の急性細菌性髄膜炎と診断されたオランダ人患者全員をprospectiveに評価.入退院時に神経学的検査を行い,GCSにて転帰を分類(不良;GCS=1~4 点,良好;5 点),ロジスティック回帰分析により予後因子を明らかにした.結果としては,696 例の急性細菌性髄膜炎を検討.病原菌は,S. pneumoniae(肺炎連鎖球菌;全体の51%)と N. meningitidis(髄膜炎菌;37%)が最も多かった.発熱・項部硬直・精神状態の変化という三徴を呈したのはわずか44%であったが,95%で頭痛・発熱・項部硬直・精神状態の変化の 4 症状のうち 2つ以上が出現した.入院時,患者の14%が昏睡状態,33%が局所的な神経異常を示した(失語,片麻痺,脳神経麻痺;Ⅷ>Ⅲ>Ⅵ>Ⅶ).全死亡率は 21%.死亡率は肺炎球菌性髄膜炎のほうが髄膜炎菌性髄膜炎よりも有意に高い(30% vs 7%).全症例の34%で転帰が不良.転帰不良の危険因子は,①高齢,②耳炎または副鼻腔炎の存在,③発疹がないこと,④入院時のGCSスコアが低いこと,⑤頻脈,⑥血液培養陽性,⑦赤血球沈降速度亢進,⑧血小板減少,⑨髄液中の白血球数低値であった.予後不良の最も強い危険因子は,全身状態不良を示唆する要因,意識レベルの低下,S. pneumoniae による感染であった.
本研究は,細菌性髄膜炎の予後予測に非常に役に立つ報告である.

N Engl J Med 351;1849-59,2004

急増が予測される小児期発症AIDS脳症の特徴

2004年10月27日 | 感染症
症例は過去4年にわたる上気道感染の繰り返しと,進行性の神経症状を認める13歳のインド人男子.1年前より学業成績の低下,6ヶ月前より両下肢・体幹の筋力低下を認め,2ヶ月前より起立不能.一般身体所見では肝腫大と肺ラ音,神経学的には近時記憶の低下(MMSE 10/30)と両側錐体路症状を認めた.頭部MRI FLAIRでは大脳白質のびまん性高信号を認めた.遅発性白質脳症と感染を伴う気管支拡張症と診断されたものの,知能低下が進行性であるため診断の見直しを要した.父が結核にて死亡していることから,HIV感染の可能性を疑い,血清抗体価,CD4細胞数,血漿HIV DNA-PCRの結果から感染が確認された.また中枢神経日和見感染症が否定されたことからHIV-dementiaと診断した.母親にもHIV感染が確認された.治療としてHAARTが開始され,知能低下は改善した.
 今後,小児の原因不明の白質脳症としてAIDS-dementiaも鑑別に挙げる必要がある.小児発症AIDS中枢神経症状の特徴としてcortical atrophy,錐体路症状,仮性球麻痺,精神症状を呈することが知られているが,周産期に感染し,未治療の症例では成人と比較して進行が急速であることも報告されている.本邦でも若年者におけるAIDS感染の増加が指摘されており,今後,周産期~乳幼児期感染・小児期発症パターンのAIDS脳症が増加する可能性が高いことを医療従事者は認識すべきである.

Lancet 364; 1460, 2004