ピアノの音色 (愛野由美子のブログです)

クラシックピアノのレッスンと演奏活動を行っています。ちょっとした息抜きにどうぞお立ち寄り下さいませ。

ベートーヴェン、ピアノソナタ第1番

2013年10月11日 | レッスンメモ
私がベートーヴェンのピアノソナタ第1番を初めて練習したのは遥か昔のことですが、その時の衝撃を忘れることはできません。私にとっては二つ目のベートーヴェンソナタでした。最初に先生からいただいたベートーヴェンのソナタは10番(それが妥当な選択だったかは別にして)でした。そしてその次にいただいたのが1番です。私はいっぺんにこの曲の虜になってしまいました。これまで自分が弾いてきた曲たちとは大違い。何と言えばいいのかしら、不気味さと不安と情熱そして優しさ、ありとあらゆる情念が入り混じったこの曲に心を揺さぶられ、夢中になってしまったのです。

このソナタをベートーヴェンが完成させたのは1795年、若干25歳の頃でした。ピアノという楽器の持つ可能性を大きく展開して見せてくれた画期的な作品であり、彼が生涯を通じて書きあげた32曲のピアノソナタの第一番を飾るにふさわしい名曲です。

私にとってはしばらくご無沙汰していた曲ですが、最近この曲を生徒に渡して指導を始めました。そうすると改めてこの曲の奥深さが新鮮に感じられて、自分でも弾きたくなってきます。

第1楽章の冒頭のアウフタクト。もうここからベートーヴェンのこだわりが感じられます。これを加えることによって主題が1オクターヴ上まで駆け上がるのです。ここの疾走感はものすごい! そしてそれに続いて動機の頂点だけにアフタクトのドの音を前打音の形でくっつける。そこへさらにたたみかける形で上り詰める。上り詰めたと思ったら、突然弛緩して縮む。その後、左手に主題が移ったと思うと、不安定な変イ長調ととれる調に転調し、陰影を持った副主題に移る。そしてすぐさま反復進行。

ベートヴェンのこの上り詰めて落ちるという手法は、彼の人生そのものを暗示しているような気がします。色々な事に翻弄されていったベートーヴェンの人生。それでも不屈の精神で生き抜いた人。いつもいつも不安を抱きながら、それでも前に向かって取り組んでいく。それなのに人生のいたずらは繰り返され、また悲痛な事態を受け入れざるをえなくなる。この人のその後の人生航路が、このピアノソナタの第1番に示されているという予感がするのです。

さらに、展開部は変イ長調で始まります。ここでもすぐさま反復進行と転調がたたみかけるように現れ、それが緊張や不安、焦りなどを生み出しているように感じます。展開部が進むにつれて、どんどん音域が拡大されて、右手と左手交互の掛け合いが始まります。この右手と左手の音をどう弾くか、どのように色を変えていくか。転調を繰り返しながら緊張を高めていくという、ベートーヴェン作品の多くによく見られる手法をここで学びたいと思います。シンコペーションを含む1拍分(2分の2の曲なので1小節の半分を使う)、かなり長いと感じる音符がリズムを強調しながらクライマックスに到達します。そして、だんだん音符の長さを半分にしながらdim.していき、遠ざかって静かになります。そして、再現部へと誘います。

時代的に言えば、ハイドンやモーツァルトのすぐ後に、それまでの音楽とは違って、その当時としては大げさとも荒々しいとも感じられたかもしれないこの曲。しかしそこにはものすごく計算された構成が備わっていて、弾けば弾くほど全体から細部にわたるその構成力に驚かされます。それが偉大な作品として評価され続けている理由の一つでしょう。

久しぶりに生徒にこの曲を教えながら、懐かしさとベートヴェンの素晴らしさを再認識しています。

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