日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

小田急沿線・ただ見て歩き(2) 槇文彦の町田市庁舎:追記0907

2016-09-04 16:25:11 | 建築・風景

毎朝厚木駅から各駅停車に乗り、町田駅でロマンスカーに乗り換えて事務所のある新宿に向かう。
その町田には、小田急百貨店、ヨドバシカメラ、版画などを額縁に収める作業をしてくれる世界堂、そしてJIAの同人・大宇根弘司の設計した版画美術館などがあり、時折出かける馴染みの街でもある。

その町田、毎朝駅に着く直前の左手奥に、一目見て槇文彦の設計した建築だとわかる瀟洒な「町田市庁舎」の姿が垣間見えていて長い間気になっていた。ことに、そのペントハウスの姿のどこかにル・コルビュジエ建築が想い起こされて好奇心が刺激されてもいた。

そして、何時の日だったか親しい建築家から「エ!まだ観てないの!」といわれた事も僕の中に留まっている。この夏休み、リオのオリンピックTV観戦で寝不足、少々ボーっとしていたがウイークデイでないと閉館しているだろうとも思い立って、出かけてみた。そして、オヤッ!と思ってしまう。

電車から見える光景が見て取れない。前面には市民ホールと、時を経た都営の高層共同住宅が建っていて全貌が見えず、屋根のある自転車置き場が設置されていて、下からは見上げるしかない。前面道路に面してはベンチのある屋根の付いたアーケイド(ともいえる)が併設されていて、そこから庁舎に入る主要な入り口が設置されている。そこを通り抜けるとこの庁舎の全貌が見て取れる。

庁舎は、上記アーケイドのある前面道路面は側壁、建築の正面には張り出した低層建築があって、この庁舎にはいわゆる`正面`がないのではないかとも思える。そして前面に縦リブを配したカーテンウォール的な形状とタイルを張った壁、正面のない建築?これも一つの回答ともいえるだろうが、さてどうしたものかと首を捻った。

追記―0907
「正面のない家」と表記された住宅がある。坂倉準三建築研究所大阪支所の西澤文隆によって1962年に建てられた先駆的な!と言ってもいいコートハウスで、DOCOMOMO150選にも選定された西澤の代表作の一つでもある。塀が外壁で建築の様を見せない構成・意匠である。

では前記した`正面のない建築`という言い方を改めて考えてみると、趣きがちょっと変わって、正面がない=「全てが正面」と言った方がいいのでないかとも思えてきた。
ことに裏道であっても道路に面した、或いは他の建築越しに現れる外観のすべてが、その趣は違えどファサード「正面」なのだと言いたくなる。とすると大通りの反対側の川添いの狭い道路面を歩いて高層面を仰ぎ見て、その先の低層部分を見ながら右手に回ると、何となく裏面だと言いたくなる意匠なのだがさて如何なものか?

<写真:左手に町田駅につながるメイン道路がある> ―文中敬称略―