田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

悲恋/吸血鬼との別れ  麻屋与志夫

2010-02-14 06:51:19 | Weblog
part7 悲恋/吸血鬼との別れ  栃木芙蓉高校文芸部(小説)


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このまま別れたくない。
その思いだけで翔太は玉藻をかきくどいた。
少年の一途な思いに玉藻がついに秘密をあきらかにした。

「うそだぁ」

ぼくと別れるために。
ぼくにあきらめさせるために。
うそをついている。

さらにふたりは県庁堀を巡った。
街灯がすでに灯っていた。

「翔太はどこかかわっている。
邪悪なモノをひきよせてしまう。
邪悪なものは、
じぶんの醜い姿を映す鏡みたいな存在の人を、
許してはおかない。
抹殺しようとするから、
ほんとうは、わたしがついていて守ってあげたい。
でも翔太なら戦える。
負けない。
強く生き抜いて。
わたしはまっているから。
何年でもまっているから。
思いだしたら50年先でもイイ。
会いに来て。
会いに帰ってきて」

「いっしょに行きたい。
ぼくは、父の名誉のために家出するのだ。
ぼくが栃木にいたのでは、
ぼくみたいなバカ息子がいたのでは、
父の道場の評判がわるくなるばかりだ。
ぼくはなにもわるいことはしないのに、
むこうからいつもやってくる」

「それが、悪魔なのよ。
かれらはいつも向こうから近寄ってくるのよ」

翔太には悪魔との不協和性がある。
どうしてもかれらの悪意をみとめたくない。
それが悪魔にはわかってしまうの。
油断しないで。と玉藻がいった。

堀では鯉がしきりと跳ねていた。
夜の堀で鯉が跳ねる。
その音が静かな周囲に、寂しくひびいていた。

みたび堀の周りを巡ろうと翔太はした。

「翔太。ミレンよ」

玉藻の目が薄闇のなかで赤く光った。

冷静な表情をつくろうとしている。
でも玉藻のほほにも、涙がひかっていた。
翔太は初めて会ったときに玉藻がしてくれたことをした。
玉藻のほほの涙をくちびるでぬぐってやった。
さようなら。
お九さん。
さようなら玉藻。

翔太は駅にむかってはしりだした。
なみだがこぼれた。
そのままの涙顔で駅の構内にもどった。
改札をでた。
浅草行きの車両がホームにはいってきた。
翔太はひとりぼっちだった。

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