田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

悲恋/吸血鬼との別れ  麻屋与志夫

2010-02-15 06:12:42 | Weblog
part7 悲恋/吸血鬼との別れ 栃木芙蓉高校文芸部(小説)


32

「龍、お九さんのおでましだ……」
転校第一日目。
下野高校の影番鬼村の鉤爪をたたき落とした日。
初めて栃木名物ジャガイモ焼きそばを食べた店「巴波」で。
携帯からひびいてきたGのことば。
あれは50年ぶりで初恋の人にあった声だったのだ。
龍之介は吸血鬼の襲撃かと勘違いした。
お化け屋敷といわれてきた家まで走った。
あのGの声の裏には、悲しい昭和の恋の記憶がかくれていたのだ。

文子にさそわれて離れの角の月見台にでた。
四畳半ほどの広さがあった。
床も手すりも竹で造られていた。
ふたりですわった。
竹の感触がここちよかった。
春まだ浅く、
ひんやりとした風がふき、
月はおぼろにかすんでいた。
ゴールデンリトリバーのハンターがうれしそうによってきた。
「わあ、かわいい。
ハンターて名前なの。
よろしくね」
「Gがあんなにうれしそうにしてるの、
しばらくぶりだよ。
バァちゃんが死んでから、
独りだったから」

「ふたりだけにしておいてやるといいわ。
玉藻さんがこの街を離れられないのにはわけがあるの。
そしてその責任はわたしにあるのよ」 

「どういうこと」

「玉藻さんは傾国の美女といわれていた。
天竺・唐土とわたって王を夢中にさせた。
日本では鳥羽院の女官として宮中に仕えていたの。
陰陽師、阿倍泰成に正体を見破られて、
那須野で滅ぼされたことになっている。
わたしは監察官としてその追討軍に参加していた。
東国の武士は玉藻さんを守る一族のものを、
殺し、
犯した。
その残虐な行為にさすがのわたしも、
たまりかねて玉藻さんを救ったのよ。
にどと、都には近づかない。
この野州は大平の地からでないという約束をさせて……」
     
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説
one bite please 一噛みして。おねがい。