田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

玉藻と翔太の恋  麻屋与志夫

2010-04-07 09:24:05 | Weblog
part13 玉藻と翔太の恋 栃木芙蓉高校文芸部(小説)


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「翔太。みかも山に香堅子(かたかご)の花をみにいかない。
栃木の外でデートできるのよ」
「ああ、咲いているだろうな。
カタクリ花の群落があるらしい。でかけてみるか」
玉藻はうきうきとした顔になった。
まるで乙女のようだ。

初めて会ったとき、
翔太は玉藻をカタクリの花のようなひとだと思った。
すると、
「うれいいわ。カタクリの花ことばは初恋なの」
ということばがもどってきた。

玉藻はあのころとすこしもかわっていない。
おれはいまでもお九さんを……かわらずに恋している。

でもひとである悲しさを、
わびしさを、
むなしさを感じている。
この老いぼれかたはなんとしたことだ。
これでも剣道で体を鍛えぬいている。
ほかの同世代の老人より若いつもりだ。
だが玉藻はいまもわかわかしく、
美しい。
そして……
お九さんはずっとこの道場のあるわが家をまもってきてくれた。
家は人が住まないと朽ちてしまう。
白昼が苦手な彼女は、
夜になると鹿沼箒で部屋の埃を掃き出した。
廊下を雑巾がけした。
そうした彼女の動きが障子に映り「お化け屋敷」の都市伝説が生まれた。
いつかかならず翔太がもどることを信じて、
この封印された場所で待っていてくれたのだ。

「稲荷寿司もつくったわ。コンコン」
玉藻は少女のようにハシャギ、
おにぎりをつくった。
「お九さんが、
そのコンコンというしぐさをするときはすごくたのしそうだ」
「わすれたの、
わたしは白面金毛九尾の狐に妖変できるのよ。
妖狐に変容して野を駆けたいわ。
コンコン」
玉藻はニコッと笑った。
たまらなく愛らしい。
おれたちは結婚できなかったから〈愛〉をもちつづけられた。

恋するひとは恋人とともにあってひとり、恋人の魅力を知るのは自分ひとりだ。それが恋するひとの歓ばしい地獄である。(マルセル・ジュアンド)
 
「翔太がわたしと別れるとき、
流した涙をわすれなかった。
わたしは翔太のように若い恋人をもったのははじめてだった。
わたしは権力者にばかり尽くしてきた。
あげくのはてに、
傾国の悪女あつかいされて……悲しかった。
ここを終の棲家とすることにした。
そして翔太にあえた。
若すぎる恋人の流した涙を頼りに、
この道場を守りつづけてきた。
いつか、
翔太がわたしのところにもどってくることを信じて、
生きてきた。
それがむくいられた。
こうして翔太とくらしているなんて、
夢みたい」

玉藻はうれしそうに話つづけている。
玉藻の笑顔をみているのがおれのよろこびだ。

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